宇宙最強 VS 影帝製造機
4月半ばから下旬に公開され、日本でいえばゴールデンウイーク映画にあたる復活節(イースター)映画だが、今年はより注目を浴びている。それは「宇宙最強」の異名を取る甄子丹(ドニー・イェン)主演の『3D 冰封侠/重生之門』と、「影帝製造機」の異名を取る林超賢(ダンテ・ラム)監督の『魔警』という、世界待望の話題作が同時公開されるからである。
ユン・ピョウ主演の名作を3Dでリメーク
1989年に制作され、今でも香港映画ファンの中でも根強い人気を持つ元彪(ユン・ピョウ)主演の『急凍奇侠(タイム・ソルジャーズ/愛は時空を超えて)』。極悪人を追い詰めるうちに、雪山の谷底へ落ちた明朝廷に仕える親衛隊副隊長が現代によみがえるという荒唐無稽なストーリー展開。これは84年にジョン・ローンが主演したハリウッド映画『アイスマン』の発展系と呼べるものだが、張曼玉(マギー・チャン)演じるヒロインとのラブストーリーや、元彪と同じく現代によみがえる極悪人を演じた兄弟子・元華(ユン・ワー)のスピーディーなカンフー・アクションなど、エンタメ要素を盛り込んだ当時の香港映画界の勢いを感じさせる一本であった。
そんな名作をリメークしたのが今回の『3D 冰封侠~』であり、ドニーにとって旧正月に記録的ヒットとなった『西遊記之大鬧天宮』に続く3D映画ということや、ヒロインに『功夫(カンフー・ハッスル)』の黄聖依(ホワン・シェンイー)、宿敵役に『人再囧途之泰囧(ロスト・イン・タイランド)』の王宝強(ワン・バオチャン)という中国市場を強く意識した新たなキャスティングも興味深いところだ。しかし、制作段階から当初予定されていた青馬大橋での撮影中止や追撮の連続など、近年のドニー出演作では当たり前になってしまった諸問題が起こり、公開延期。上映時間が113分だったオリジナルに対し、今回はなぜか2部作に発展。しかも、同時撮影しながら、1作目と10月に公開予定の続編『3D 冰封侠2/時空大戦』では監督が異なる事態まで起きてしまったのである。今年2月の段階でも、「まだ編集中らしい…」という情報も流れているが、果たしてオリジナルを越えられるかに期待がかかるところだ。
互いに成長した監督と俳優が13年ぶりにタッグ
一方、林超賢監督にとって2013年No.1メガヒットを飛ばした『激戦』の次回作である『魔警』。「影帝製造機」なる異名は、香港電影金像奨において、『証人(ビースト・ストーカー/証人)』では張家輝(ニック・チョン)と廖啓智(リウ・カイチー)が主演・助演男優でW受賞、その姉妹編といえる『綫人(密告・者)』では謝霆鋒(ニコラス・ツェー)が主演男優を受賞するなど、林超賢監督は次々と影帝(最優秀男優賞)を生み出すところからきている。それらの男優を、精神的にも肉体的にも追いつめるという監督のドS演出がこのような結果をもたらしているともいえるが、『逆戦(ブラッド・ウェポン)』で発掘したマレーシア人の子役・李馨巧(クリスタル・リー)も『激戦』で大人顔負けの熱演を披露するなど、とにかく俳優の潜在的能力を引き出す才能に長けている監督である。 『魔警』の劇中、偶然出会った張家輝演じる犯罪者に翻弄され、精神に支障をきたしていく警備員を演じるのは呉彦祖(ダニエル・ウー)。01年のミリタリー・アクション『重裝警察』以来、13年ぶりの林超賢監督作の出演となる彼だが、その後に出演した『新警察故事(香港国際警察/NEW POLICE STORY)』『新宿事件(新宿インシデント)』などの成龍(ジャッキー・チェン)作品で魅せた悪役っぷりや『竊聴風雲(盗聴犯)』シリーズでの先輩、後輩に対するサポート演技など、この13年間で彼はひと皮もふた皮もむけた演技派俳優へと成長した。一方の林超賢監督も、ミリタリーオタク心がうかがえる陳嘉上(ゴードン・チャン)監督の愛弟子から先のドS演出によって、香港映画界を支えるヒットメーカーへと成長。そんな2人がぶつかり合って作り上げた『魔警』だが、その熱演から来年の影帝候補に呉彦祖の名が挙がることは確実だろう。
筆者:くれい響(くれい・ひびき) |
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