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最新号の内容 -20131220 No:1937
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 中国本土からアジア地域、そして世界にまで活動範囲を拡大するチャイニーズ。彼らのビジネスに対する考え方や習慣は日本人からすると異質にして独特で、理 解しづらいものだといわれている。チャイニーズを総合的に「華人」ととらえ、彼らの多様な伝統文化と長い歴史から導き出された経営思想、心理と行動を体系 的に分析し、華人圏や中国への進出に伴う総合的なノウハウを学び合う関西日本香港協会のみなさんの研究の成果を紹介する。 

        

 

 

 

即席めん13億人市場の攻防と

関係(グワンシ)

 

 即席めんの世界総生産量は1014億2000万袋、中国・香港は440億2000万袋の巨大市場。(2012年度・世界ラーメン協会推定)。この市場創造に果敢に挑戦した台湾系企業家がいる。 魏四兄弟は、即席めんの生産の経験もないのに1992年7月に天津頂益国際食品有限公司を設立、今日、圧倒的なシェアを占める「康師傳」(カンシーフ)である。前身は1990年に天津に設立された「頂好清香油」である。この合弁事業は見事に失敗。にもかかわらず、同じ天津で捲土重来。その成功の秘訣は次の三点である。


⑴Affordable Innovation 市場訴求・価格訴求型商品開発

 大陸でも地域(地縁社会)により人々の文化が違い、食習慣・味覚・食の好みが異なることに着目、虚心坦懐に地域ごとに受け入れられる「味道(ウエイタオ)」の研究と商品開発を行い、各地の若い女性に試食してもらい支持を得た味付けの即席めんを開発し、それぞれの地域に特化した多数の即席めんを提案し新たな市場を開拓した。


⑵GUANXI Marketing 関係(グワンシ)主義・ネットワークの構築 

 血縁・地縁関係が支配する中国市場の特異性を読み込んだ、販売代理店網戦略、直販と代理店販売の二方面展開を志向し、地道に消費者に受け入れられる魅力的な商品、すなわち新しくインパクトのある商品を梃に代理店網を構築、すなわち自前の関係(グワンシ)ネットワークを着実に増やして行ったのである。しかも、財務基盤のしっか_りした代理店を選定し、前金条件を大原則として堅持し代金回収問題も乗り越えた。 この間、台湾大手グループ「統一」は、台湾で展開している商品をそのまま市場に投入し、消費者の支持を得ることが出来ず失敗。台湾で売れれば大陸でも売れるわけではない。康師傳は、統一に競り勝ち、市場占有率は、2012年6月では、数量ベース43・9%、金額ベース57%に達している。そして都市部を席巻した上で、廉価品「福満多」を投入、農村市場にも参入し、13億人を対象にする販売網を着々と築いている。

 

⑶日本の資本と技術・人材の導入による経営の質的向上 

 業容を急拡大させ頂新国際集団となった「康師傳」は1996年に香港株式市場に上場、1998年に台湾の食品メーカー「味全」を買収したが、折から1997年のアジア経済危機の煽りを受け悪化した台湾経済の影響を受け、資金難に陥った。 この時、サンヨー食品が支援に乗り出し、1999年7月発行済み株式の約33・14%を0・8香港ドル/株、210億円で取得。これを機にサンヨー食品から人材、技術を導入し、生産管理、品質管理を向上させる体制を整えた。 サンヨー食品は1995年2月大連市に即席麺製造販売の合弁会社「大連三洋食品有限公司」を設立したが、中国市場の特性に不案内で業績を上げることが叶わず、1998年に頂新国際集団と提携した。サンヨー食品は困ったときに「康師傳」に助けられ、「康師傳」は困ったときにサンヨー食品に助けられた。 儒教的観念では、苦境にある時に助けてくれた恩は必ず返さなければならない。こうして、魏兄弟とサンヨー食品の経営人との深い「自己人関係(グワンシ)」が構築されたのである。 余談であるが、サンヨー食品は、直接中国大陸に関与せず、「康師傳」の香港会社に出資する間接投資を実行し、これが「反日」と言う風圧をかわせるスキームとなっていることにも注目しなければならない。

 

「康師傅」の代理店戦略に見る定理

①販売地域(テリトリー)設定における知恵 
 中国・アジアは、地縁社会である。その生活習慣、言語、食文化を同一とする地縁によってつながるグワンシ網(ネットワーク)をひとつのテリトリーと見る。

②テリトリー毎に代理店を設定する 
 広範囲に代理店候補を選定し、訪問し、経営陣に面談し、品定めを行ない候補を2、3社までに絞り込む。

③絞り込んだ候補企業の経営陣の人品人柄を見極め、信用調査等により財力、政治力、地域への貢献と影響力を見る。

④代理店選定は経営幹部の責任 最後の絞り込みは、経営幹部が候補企業を訪問し、自身で判断し、責任を負う。

⑤協議書・販売代理店契約の締結

⑥メンテナンス体制の構築メンテナンス・マニュアル(現地語)の作成と実地トレーニングの実施。

⑦構築した販売代理店経営者との人的関係の深化を図り、「自己人」領域のつながり、すなわち自前の販売網=「関係(グワンシ)」ネットワークを構築し常に養生に心がける。

 

 

(このシリーズは2カ月に3回掲載します)


 



【馬場正修(ばばまさのぶ)さん】

関西日本香港協会理事、同協会華人経済・経営研究部 主任研究員。1972年関西学院大学経済学部卒。三井物産出身。繊維貿易畑を歩み、台北・山東省青島勤務など中華圏に8年在勤。2003年4月より5年間ジェトロ大阪本部貿易・投資アドバイザーを務める。2007年4月(株)貿易人を設立。現在、ジェトロ神戸・高知・金沢ほか、香港貿易発展局等の貿易・投資アドバイザー。大阪商工会議所 中国ビジネス特別委員会 委員、中国経済・経営学会 会員。関西和僑会事務局長。

【日本香港協会全国連合会】 http://www.jhks.gr.jp/

【関西和僑会】 http://kansai-wakyo.com/