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最新号の内容 -20130809 No:1388
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 これからの日本が発展していくためには、急速な成長を遂げる中国市場と東南アジア市場への積極的なアプローチが重要課題となる。香港貿易発展局(HKTDC)は東京と大阪に事務所を持ち、多くの日本企業の国際進出とビジネスチャンスの創出に取り組んできた豊富な実績と経験を持つ。海外にも通用する優れた潜在力を持つ企業と人々のために、国際商業貿易都市・香港のメリットとその実情を紹介する。 (編集部)


 

ハラール認証とは?


 2005年から昨年度に至るまで、香港は日本の食品・農林水産物の輸出仕向け地としてナンバーワンであり、毎年香港で開かれるアジア最大級の食品展示会「フードエキスポ」への日本の出展者も、昨年は222社・団体となり、フードエキスポの全出展者の約5分の1が日本からの出展で占められるようになった。

 そうした中、日本の出展者がイスラム圏のバイヤーからハラール認証の有無を確認されるケースが増えている。今回は、香港貿易発展局の浜口夏帆さんと共に、NPO日本ハラール協会の伊藤健さんに話を伺ってみた。

 

【伊藤健さん】NPO法人日本ハラール協会 理事・食品技術監査員。昭和52年3月 東京農業大学農学部畜産学科卒。食品技術士、ISO9000審査員補、HACCPコーディネーター。株式会社フードテクニカル・ラボ代表取締役。食品関連一筋に、商品開発、品質保証、ハラール認証指導、食品輸出支援などの業務を行っている

■NPO法人日本ハラール協会
http://www.jhalal.com/

ハラールとは?

 ハラールとは「許された」という意味のアラビア語で、主にイスラム法で食べることを許された食物のことを指す。イスラム教徒は豚を食べてはいけない…というのは有名な話だが、このほかに、犬やロバなど、豚以外にも食用を禁止されているものは多い。アルコールも禁止されているが、酒そのもの以外にも、酢やみりん、酒精を含む調味料などもNG。天ぷら粉には衣のサクサク感を出すために、豚由来の乳化剤を含むことが多く、プリン、グミ、マシュマロ、口紅にも豚由来の素材が使われていることがあるそうだ。ハラール認証に合格するためには、これらの豚由来の素材を含まないだけではなく、生産設備を完全に分ける必要がある。

 世界各国に複数のハラール認証機関があり、その規格も統一はされていないものの、マレーシアでは政府機関がハラール認証を行っており、規格も世界で2番目に厳しいものとなっている。今回取材したNPO法人日本ハラール協会は、そのマレーシア政府のハラール認証機関であるJAKIM(マレーシアイスラム開発庁)から正式に承認を受けたハラール認証機関で、最近、日本でもハラール認証が注目を集めているため、日々多くの審査を行っているが、合格率は5%程度なのだという。


22億人のフロンティア

 ハラール認証に合格するのは、なぜそんなに難しいのだろうか?
 「例えば、お茶やのりなど、素材そのものは全くハラールのものだとしても、HACCPの衛生基準を満たしていなければ、まず食品工場として認められないのですね…」と、伊藤氏はたくさんの資料を見せながら説明をしてくれた。食品生産工場のハラール化は、SSOP(一般衛生管理)、GMP:PP(施設・設備衛生管理)、HACCP(危害分析重点管理点作業管理)をクリアして、その上でハラール認証の条件を満たしていることが求められるようになっているそうだ。

 ハラール認証の審査においては、先に述べたような禁止されているものを含まないこと以外にも、生産設備が養豚場や下水処理場から5キロメートル以上離れていることなど、ほかにもさまざまな条件が求められる。このような厳しい規格を満たさなければハラール認証を取得できないので、非常に大変なことばかりのようにも思うわけだが、2010年の時点で約16億人、2030年には22億人になるといわれている世界のイスラム圏市場に参入する上で、ハラール認証は必要不可欠のものである。そして現在、イスラム圏では日本の食品に関心が高まっている。

 

イスラム圏で人気の日本食品

 「例えば すし、ラーメン、うどんなどの日本食も注目を集めていますが、スポーツドリンクなどの飲料系が特に人気ですね。ラマダンの時は日中は水も飲めませんから、脱水症状になりやすいのですが、そういうときにスポーツドリンクを飲めばすぐに回復しますので、ラマダンの必需品となりつつあります。ほかに日本の栄養ドリンクや乳酸飲料なども好まれています」

 「ラマダン」とはイスラム暦の第9月で、この月の日の出前の礼拝時間から日没までの間、イスラム教徒は飲食を絶つ。まさか「ラマダン需要」というべきものがあり、そこで海外の飲料が強みを持って参入できるとは思いもよらなかった。

 「甘いもの好きの人が多いので、日本のお菓子やいなりずしも人気ですね。あちらでは肉をよく食べるので、BBQソースも好きです。日本の焼き肉のタレもウケると思いますし、肉を食べるときにワサビを使う人もいます。それと、イランは米食で、おこげが好きですね。だから日本のおこげができる炊飯器を買う方もいるそうです。肉好きで甘いもの好きとくれば、糖尿病になりやすいので、サプリメントや健康食品も注目を集めています。女性なら美容関連にも関心は高いですね」

 イスラム圏と日本の食品は縁遠いものとばかり思っていたが、意外にチャンスは大きそうだ。ハラール認証の取得は簡単ではないものの、ハラール認証の取得を通じて、イスラム圏の習慣や、マーケットの需要を理解することもできる。イスラム圏は特殊な参入障壁があるものの、日本の製品が喜んで受け入れられる未開拓の巨大マーケットの1つではないだろうか。

(このシリーズは月1回掲載します)