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最新号の内容 -20130719 No:1387
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医食同源を伝える
カメゼリーと涼茶




 香港の薬膳スイーツの代表格、亀苓膏(カメゼリー)は日本人にとっては謎のベールに包まれた存在。スイーツと言うには苦過ぎるが、その解毒作用はかなり高く、便秘や吹き出物に悩む若い女性に人気だ。涼茶も高温多湿の香港では体調維持によく飲まれる。医食同源の教えをそのまま今に伝えるような、カメゼリーと涼茶について探った。(構成・編集部/撮影・馮耀威)

 

熱気を取り去り美肌に

涼茶舖の店先。蒸し上がったばかりのカメゼリーが湯気を立てる

 カメゼリーはにきびを治し、肌を美しくするといわれる。これは、カメゼリーに使われる「金銭亀」に強力な解毒作用があるためで、便秘を改善し、疾病予防にも効果がある。

 また広東語で「熱気」と呼ばれる体内にこもった余分な熱を取り去り、通風や関節痛を引き起こす「湿(体内の余分な水分)」が滞った状態を改善する。熱気や湿は、香港や広東省などの高温多湿の気候下で暮らす中国人に特に重視されていて、華南地域ではこの改善のために夏にカメゼリーを食べ涼茶を飲むほどだ。

 金銭亀と並ぶカメゼリーの主原料はユリ科の薬草「土茯苓(どぶくりょう)」の根。この生薬は熱気を鎮め、解毒を促し、体のむくみや皮膚病に効き目がある。中国語でカメゼリーは「亀苓膏」というが、これは金銭亀の「亀」と土茯苓の「苓」から付けられている。カメゼリーにはこのほかに数十種類の生薬が配合されている。細かな処方は店ごとに異なり、公にされていない。

 

発祥の地は北京

 香港や広東省でよく食べられるカメゼリーだが、意外にもその発祥の地は北京だった。

 カメゼリー発祥についてはさまざまな言い伝えがあり、諸葛亮孔明が遠征先の現在の広西チワン族自治区で見つけたとの説があるほか、老舗涼茶舖「恭和堂」の創設者、嚴永昌氏の先祖、嚴綺文氏が生み出したという説がある。嚴氏はかつて清朝に仕えた宮廷医であり、放蕩生活で性病を患った十代皇帝・同治のためにカメゼリーの前身となる漢方薬を調合した。だが、権力をわがものにしたいと願った同治の母、西太后が息子の治療を嫌ったため、綺文氏は故郷の広東省に帰り、この漢方薬を民間に広めたという。

 後に永昌氏は香港に渡り、1904年に香港で初めてカメゼリーを売り出した。もともと性病の薬だったことから、以前は旺角の風俗街で働く女性たちが好んで口にした。また、美肌効果があるため結婚式を控えた花嫁は、式が近付くと毎日食べるそうだ。

 苦味の強いカメゼリーは砂糖やシロップをかけないと食べづらいが、一番いいのは温かいものをプレーンで食べること。ただし、カメゼリーは体を冷やす寒性に属し、虚弱体質の人や濃い青茶(鉄観音など)を飲んでめまいを感じる人には適さない。自分の体質や体の状態を考えて口にしよう。

カメゼリーの主原料は金銭亀と土茯苓。大きな鍋でこれらを煮詰める 

 

金銭亀とカメゼリー

 カメゼリーの原料となる金銭亀(中国語名・三線閉殻亀)は、甲羅に三本の筋があり、おなかとその周辺に解毒効果のある薬効成分が含まれる。カメゼリーにもこのおなかの部分が用いられる。金銭亀は主に広西チワン族自治区、広東省、福建省などに生息する。中でも広西チワン族自治区の悟州市は昔から良質の金銭亀が育つことで知られ、養殖が盛んに行われている。

 香港の涼茶舖では「悟州市の金銭亀を使用」とうたう店が多いが、香港では天然、養殖ものともに金銭亀を生きたまま持ち込むことは禁止されているので、悟州市で粉末状に加工したものを輸入して使用している。

 乱獲によって現在では希少動物となった金銭亀。中国本土では「国家二級野生保護動物」に指定され、野生の捕獲が禁止されている。このため、広西チワン族自治区や広東省を中心に、金銭亀の養殖で一旗揚げようと考える人も多い。一般にカメは長寿のものほど薬効成分が高いが、養殖の金銭亀はせいぜい2〜3年生きた後、ゼリーに姿を変える運命のようだ。

 

生活に根付いた涼茶

涼茶舖は立ち飲みが基本。湿気の多い今の時期は特に利用者が増える

 涼茶は、生薬をお茶のように煮出して飲む健康飲料。香港の至る所に「涼茶」の看板があることからも、生活に根付いた存在であることが分かる。

 だが、香港人にはポピュラーな飲み物でも、日本人には種類も多くどれを飲めばいいのか迷うところ。体質やその日の体調に合わないものを飲むと、「気分が悪くなったり、めまいを起こす」といわれているので、きちんとチェックしておきたい。代表的な涼茶は以下の通りだ。


廿四味(ヤーセイメイ)

 粉末の葛根やタンポポ、乾燥した苦瓜など24種類の薬材が含まれる。発祥の地は広州市で、すでに百年以上も前にレシピが確立されていたという。

 風邪をひいたときの発熱や悪寒を和らげるほか、胃腸の働きを助け、利尿作用を促し、のどの痛みに効く。ただし虚弱体質や低血圧の人、妊婦、腎臓の弱い人は飲用を避けたほうがよい。茶の色は黒く、味は苦い。
 

五花茶(ンーファーチャ)

 菊やエンジュ、木綿花など五種類の花びらから作られ、初期の風邪や目の充血、口内炎に効く。解熱作用のほか、胃腸の働きを促進するなど、廿四味と似た効能を持つ。同様に虚弱体質や低血圧の人、妊婦には適さない。口当たりは軽く甘い。
 

火麻仁(フォーマーヤン)

 ゴマの一種である火麻仁という薬草のみが使用されている。この薬草は排便を促すことで知られており、便秘がちの人には効果が期待できるが、普通の人が飲むと下痢を起こすという。自分の体質やおなかの調子を考えて飲用したい。味はクリーミーなゴマ味で舌触りが良い。

 
銀菊茶(ンガンゴッチャ)

 銀花(スイカズラ)と菊の花をブレンドしている。消炎、解熱、解毒などの作用があるため、にきびや吹き出物に効果がある。ただし虚弱体質の人には向かない。味は五花茶同様、軽く甘い。

左から熱気を下げる「菊花茶」、肺を潤し、のどの渇きをいやす「雪梨茶」、風邪に効く「廿四味」。これらは涼茶舖で販売している

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 ほかにせきを止めたんを取り除く「枇杷茶」や、肝臓とストレスに効く「夏枯草」。夏の清涼飲料水として香港のみならず、中国本土や台湾でも広く飲まれている「酸梅湯」、血行を促進し、貧血に良い「紅棗茶」などがある。

 薬材の配合は、店舗によって微妙に違うので、体に合った種類が見つかったら、各店で飲み比べてみるのもいい。

 

〜体と気候、食べ物の深い関係〜

 東洋医学の基本には陰陽の思想がある。すべての物事は日なたと日陰、上と下、右と左、前と後ろといった対立し合う2つの面を持っており、人の体はこの陰陽のバランスが取れてこそ健康な状態だと考えられる。

 陰陽のバランスを崩す要因には内的なものと外的なものがある。内的なものは精神的なストレス。東洋医学では「七情(喜、怒、憂、思、悲、恐、驚)」という。情緒が不安定になってこの7つのどれかが偏った状態が長く続くと内臓機能や精神状態に影響を及ぼす。外的要因は「六淫(風、寒、暑、湿、燥、火または熱)の邪」といい、四季の移り変わりに応じて盛衰する6つの気だ。穏やかに推移しているときは問題ないが、気候が急激に変化すると気が邪となり、体に悪影響を及ぼす。季節の変わり目に体調を崩しやすいのはこういう理由による。

 このような外的な要因からくる体の不調や体質は、食べ物で調節することができる。調節食材の性質は「五気(熱、温、平、涼、寒/平を除き四気とも呼ぶ)」という薬性と「五味(辛、甘、苦、酸、咸)」という味で分類する(左表)。糖尿病、発熱、吹き出物などの肌のトラブルは「熱」の病気、低血圧、冷え性、虚弱体質は「寒」の病気に分類されるので、「寒」の病気のときに寒性、熱の病気のときに熱性の食べ物を食べると悪化してしまう。

 人の体質は「虚実」という言葉で表される。「虚」の体質は顔が青白い、手足が冷えやすい、体がいつもだるい、消化不良を起こしやすいなど、文字通り虚弱体質の人。「実」の体質は体力があり病気に対する抵抗力も強いが、顔色が赤い、体が熱っぽい、すぐに口が渇くなどの特徴を持っており、突然死などは「実」の人に多いといわれる。「虚」の人や寒性の病気の人は「涼」や「寒」の食べ物を取り過ぎてはいけない。同様に「実」の人も「熱」や「温」のものは控えたほうが良い。いずれの体質の人も安心して食べられるのは「平」の食材。また甘味は脾臓(ひぞう)と胃、苦味は心臓と小腸、酸味は肝臓と胆臓、辛味は肺と大腸、咸(塩辛い)は腎臓と膀胱(ぼうこう)の働きをそれぞれ高める。ただ、自己判断で自分の体質を「虚」「実」で分けるのはやや危険。漢方医の診断を仰ぎながら、季節や体調に合わせて食べるものを選びたい。