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最新号の内容 -20130607 No:1384
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 経済のグローバル化が進む中、自らの組織のために粉骨砕身するリーダーたち。彼らはどんな思いを抱き何に注目して事業を展開しているのか。さまざまな分野で活躍する企業・機関のトップに登場していただき、お話を伺います。 
(インタビュー・楢橋里彩)

 
 

改革開放と物流香港拠点に21年

京濱(香港)有限公司 前董事長 富永正直さん

【プロフィール】
 1942年富山県出まれ。62年に富山商船高等専門学校航海科を卒業後、ジャパンライン株式会社に航海士として就職。66年にはケイヒン株式会社に転職。はしけの配船、ステベのフォアマン、自動車専用ふ頭での車積卸監督、倉庫 本牧、山下、港南、神奈川倉庫責任者を経て1992年、京濱(香港)有限公司の立ち上げおよび董事長。2013年3月に退職。

 

 ——事業内容を教えてください。

 1992年当時、ケイヒンの香港代理店だったEverett Steamshipのフォワーディング部門を独立させる形で設立し、日本同様、運輸倉庫物流業として開業しました。海外の製品を香港経由で中国本土に、また本土で生産されたものを香港経由で世界各国へ輸出する業務をしています。

 

——当時は外資系企業の進出が大幅に増えた時期でしたね。

 92年は>H小平氏が深&`に来て改革開放を強化する南巡講話を発表した時期だったので、中国の開放が進み、それに合わせて外資系企業が一斉に投資し始めました。しかし当時はまだ中国の港の整備は不十分で、広東省で生産されたものはすべて香港経由で海外へ輸送していました。

 

——香港を拠点に年々事業の幅が広がっていきましたね。

 94年からは香港から日本主要港への小口貨物の混載サービスを週2便行い、翌年には工業用ミシンや合成樹脂の保管配送業務の需要があり、倉庫での保管配送業務を行っています。香港だけでなく広東省の工場へも、きめ細やかな配送サービスを行い、現在も主力業務の一つとなっています。97年からは工場プラントや機械の一貫輸送、据え付け業務を開始しました。2005年からは航空貨物の取り扱いも行っています。年々人件費も上がり、海上貨物も減少する傾向になっているので、全体としてはコンスタントに伸びております。航空貨物は今後増加が期待できますね。

 

——香港での在職21年を振り返って大変だったことは?

 やはりリーマンショックです。世界各国が影響を受けて失業率も上がりましたしモノも売れなくなりました。それまではずっと予算を達成していたのですが、09年に初めて未達成でした。非常に厳しい年でした。

 

——尖閣諸島の問題も日中貿易に影響をもたらしたのでは?

 中国で尖閣諸島の問題が起きると日本製品の完全な不買運動にはならなくとも、購買者が確実に減少します。中国市場が大きいので、売れなくなると、その影響もとても大きいのです。私たちは輸出業だけでなく、中国で販売するための材料や部品も扱っていますので、中国の日系工場の操業が下がればそれだけ輸送量が減ることになります。お客さんの対応が厳しくなれば必然と値引き要求も大きくなるわけです。大きな影響を受けますね。

 

——今後、香港の物流はどうなるでしょうか。

 中国では付加価値の低い雑貨などは人件費の高騰に合わせ生産が停滞し、取扱量の減少は避けられません。委託加工から独資企業に転換を進める広東省では、特にその傾向が強いです。このため物流業界の合併集約と転廃業が進むことが予想されます。

 

——新興国の経済発展をどうみていますか。

 08年から中国政府が貧富の差を縮めようとして人件費が上昇しているため 以前のように付加価値の低いものは中国で作れなくなっています。そこで徐々に新興国にシフトしています。でも問題はあります。ミャンマーとかカンボジアから貨物を出そうとすると日本に直接来る船がありません。小型のコンテナ船でシンガポールまで持って行きそこで積み替えて日本まで持ってきます。カンボジアだと川を下って、ベトナム・ホーチミンまでいって積みます。香港から日本まで4、5日で着くところが、カンボジアからベトナム経由で10日、シンガポール経由は早くて2週間。さらに海上運賃が2倍以上かかります。

 

——物流業界は今後どのように変わっていくでしょうか。

 今後の物流業界では、付加価値の高い貨物が中心になり、その争奪戦が激しくなることが予想されます。そのための信頼のおける中国内陸輸送サービスの提供、お客さまの物流をすべて受けて合理化提案できるサードパーティーロジステックスサービスの提供、迅速な日本での通関を含む信頼のおける一貫輸送サービスの提供、迅速確実な航空輸送サービスの提供が求められると思います。

(この連載は月1回掲載します)


【楢橋里彩】
フリーアナウンサー。NHK宇都宮放送局キャスター・ディレクターを経てフリーに。ラジオDJとして活動後07年に中国に渡りアナウンサーとして大連電視台に勤務。現在はイベントなどのMC、企業トレーナー、執筆活動と幅広く活躍中。