数年前から、大阪・梅田の繁華街を歩いていると、大きな透明のポシェットのようなものを首から下げている人たちをよく見かけるようになった。透明のポシェットの中には、カップ麺が1つ入っている。カップのデザインは見慣れないもので、手書きの文字が書かれていたりする。そして、これらの人々は、外国人であることが少なくない。なぜカップ麺なのか? あのポシェットはどこで売っているのか?…というのが以前からの疑問であった。 日本のインバウンドビジネスの取り組みを取材する中で、大阪府池田市に「インスタントラーメン発明記念館」という施設があり、世界的に有名な大阪の観光名所となっているという話を聞いた。特に香港で発行されている大阪の観光ガイドブックには必ず掲載されており、大阪を訪れる香港人の定番コースとなっているらしい。 池田といえば、梅田から電車で20分ほど。それほど遠いわけでもないが、大阪の中心部からは離れた場所である。どうしてそこに世界的に有名な観光名所が…。半信半疑のまま、池田の駅に降り立った。
年間来館者60万人 池田の駅から記念館へ向かう道は、閑静な住宅街である。しかし、多くの人々とすれ違う。その中には広東語や普通話で話す人が多く、欧米人も珍しくない。記念館に着くと、日清食品ホールディングス株式会社広報部の蔦屋一重(つたやかずしげ)さんが迎えてくれた。蔦屋さんの話によると、創業者の安藤百福氏は、1958年に池田市の自宅の裏庭の小屋で、世界初のインスタントラーメンである「チキンラーメン」を発明。インスタントラーメン発祥の地である池田市に1999年に「インスタントラーメン発明記念館」をオープンし、以来、来館者は右肩上がりで伸び続け、現在では年間60万人が訪れるようになったのだという。国籍別での来館者数は、記録されていないため、外国人来館者の正確な数字はわからないものの、今回の取材中も、館内では常に多くの外国人の姿が見かけられた。
同社の「カップヌードル」は世界中で販売されており、「出前一丁」は香港で圧倒的な人気を誇るインスタントラーメンの1つとなっている。そうした背景から、この記念館に関心を持つ外国人が多いのはわかるものの、記念館では宣伝活動などは行っていないそうだ。そんな中で、外国人が絶えずやってくるようになったのはなぜなのだろうか? 蔦屋さんにその理由を尋ねてみたところ、「トリップアドバイザー」という世界最大規模の旅行クチコミサイトで高く評価されているという。早速そのサイトを見てみると、オーストラリア、カナダ、シンガポール、中国など、世界各国の人々から、多くの絶賛を集めていた。他の大阪の有名な観光施設と比べても、フェイスブックの「いいね!」の数はダントツに多い。では、一体どんな外国人向けの取り組みをしているのだろうか?
子どもにも分かりやすい展示内容 「この館は、日清食品の企業博物館としてではなく、食育施設として、インスタントラーメンを通じて、子どもたちに発明・発見の大切さを伝えるために設立されたものなのです」と蔦屋さんは言う。そのため、展示内容は多くの実物を使用して、非常にわかりやすいものとなっており、特に込み入った説明文を読まなくても、大体のところは理解できるようになっている。英語・中国語のパンフレットや、外国語音声ガイド機を用意されているが、取材時に観察してみたところ、外国人来館者はそれらを利用しなくても、充分に楽しんでいる様子であった。一般的に外国人観光客対応と言えば、多言語対応になることが多いのだが、同館では、子供にもわかりやすく学べるユニバーサル・デザインでの展示を目指した結果、日本語のわからない外国人でも十分に楽しめる内容になったようだ。 そして、ただ受動的に展示物を見るだけではなく、「マイカップヌードルファクトリー」のように、体験を通じてカップヌードルの製作工程を学べる展示が人気を博しているようで、取材時にはこちらでも多くの外国人がワクワクしながら並んでいるのを見かけられた。
「人類は麺類」 とは、創業者・安藤百福氏の言葉だが、同館の展示の前では、国籍も人種も年齢も言語も関係なく、誰もが童心に帰って楽しめる。それが、インスタントラーメン発明記念館の成功の秘訣ではないだろうか。
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