「SMBC経済トピックス」では、中国・香港ほかアジア地域において注目されている産業や経済の動向を紹介します。今回のトピックスは「中国ネット通販市場」です。中国では個人消費の拡大やインターネット人口の増加を背景としてネット通販市場が急拡大しており、中国国内販売を展望する日系各社にとっても無視できない販売チャネルとなりつつあります。
中国ネット通販利用者数の推移 (1)市場規模 中国では個人消費が拡大している上、PC・スマートフォンの普及やインターネット環境の整備に伴うネット人口の増加に加え、2004年に第三者保障型決済システムが導入され、決済に対する信頼感が醸成されたことを契機に、ネット通販市場は毎年倍増のペースで急拡大しており、12年における流通総額は1兆3040億元(約17・9兆円)に達しています。
メーカーや小売企業がいまだ成長期にあるリアルチャネルでの販売拡大に専念していた中、中国のネット通販市場は個人出品者による低単価商品の販売を中心としたCtoC(消費者間取引)市場から拡大してきました。もっとも、急成長するネット通販市場は企業の販売チャネルとして無視できなくなっている中、近年では企業によるネット通販市場への参入が増加しています 。加えて、ネット通販の主要ユーザーである「80後(バーリンホウ)世代」の所得水準の向上に伴い、品質に対する消費者ニーズも高まりつつある中、BtoC(企業と消費者間の取引)市場がネット通販全体に占める割合は、08年の7%から12年第2四半期の33%へと拡大傾向をたどっています。
ネット通販流通総額の4割超は所得水準が高い沿岸部に位置する広東・浙江・上海・江蘇・北京の5地域に集中しているものの、市場拡大のペースは所得水準の向上やインターネット環境、物流インフラの整備などが急速に進む内陸部が沿岸部を上回っており、ネット通販の利用地域は着実に広がっています。
中国ネット通販流通総額の推移
ネット通販事業展開のメリット 国土の広い中国で広範な店舗網を整備するためには、各地における人脈構築に時間を要する中、中国での販売を模索する日系メーカーや製造小売業者は、ネット通販チャネルを通じて未進出地域における消費者への広告や販売が可能となります。また、ネット通販チャネルでは消費者の購買行動や製品評価などの情報収集がリアルチャネル対比容易であるため、各企業は蓄積した情報を製品開発や販売戦略の策定などにも活用できます。 さらに中国では家電量販店など小売店が各メーカーから商品導入費や棚代など多額の「バックマージン」を強制的に徴収する商習慣があり、小売店経由で商品販売する際には販売コストがかさみます。また、自社で店舗展開する際においても高い賃料コストの負担を余儀なくされるほか、店舗ごとの在庫保有も必要となります。一方、ネット通販事業は販売にかかるコスト負担が少なく在庫回転率も高いことから、リアルチャネルと比べると収益性が高いというメリットがあります。
ネット通販事業を展開する日系各社が抱える課題と対応策 (1)利用者の囲い込み ネット通販市場が急拡大している中、すでに顧客基盤を有する現地の通販サイトを通じた商品販売等を検討する日系企業が増加してきています。もっとも、中には百万〜数千万品目の商品を取り扱っているサイトもあるため、現地での知名度の低さがネックとなりアクセスすらしてもらえないといった状況も想定されます。 こうした中、通販サイトの販促イベントへの参加や消費者に対する影響力の強いコミュニケーションサイトを通じた情報発信に加え、雑誌や実店舗での店頭広告など非ネット手段も活用しつつ、ターゲット顧客を自社商品の販売サイトに誘導する必要があります。また、顧客データベースを構築し定期的に販促情報を発信することなどにより、リピーター率を向上させる取り組みも求められます。
通販サイト間の価格比較は容易であることなどからネット通販市場における価格競争は激しく、売上拡大を図るためには価格をリアルチャネル対比安価に設定せざるを得ないことが多くあります。この結果、リアルチャネルの販売に影響することで、小売店や代理店などとの関係悪化につながる可能性もあります。 もっとも、ネット通販によりすべての顧客層をカバーすることは困難であり、リアルチャネルでの販路確保は引き続き重要になります。このため、各社では①ネット通販を在庫処分のツールとして活用するほか、②通販専用の商品・ブランドの投入などを通じて、両チャネルの住み分けを図る動きがうかがえます。また、③通販サイトを通じて実店舗の開店情報や割引券を配信することなどにより、リアルチャネルとの相乗効果を図っていく余地もあります。
これまで各通販サイトの流通総額は共に急拡大しているものの、今後は商品品質・配送時間の管理やアフターサービスなどの面で高い顧客満足度を得られるサイト運営力や、資金調達力などの優劣により、事業者間の明暗が分かれ、業界内の地位が大きく変動する可能性があります。
今後の展望 今後はネット通販利用者の年齢層と利用地域の広がりに加え、所得水準やネット通販に対する信頼性の向上に伴う購入単価の上昇が想定されます。加えて、当局はコピー品販売など違法行為の取り締まりを強化し、利用者の権益を保護する体制づくりに取り組むことなどで、15年までに同市場の売上を11年時点の約4倍に相当する3兆元まで引き上げる方針を打ち出しており、中国ネット通販市場は今後も小売市場の成長を上回るペースで拡大していくとみられます。 加えて、前述のとおりネット通販事業の収益性はリアルチャネル対比高いこともあり、日系企業にとってもネット通販は中国における重要な販売チャネルとなりつつあります。もっとも、宣伝・販売手法・取引条件などの商習慣はリアルチャネルや日本における同事業と異なることが多いだけに、既述の課題を解決しつつ、同事業の拡大に向けた各社の取り組みが注目されます。 (このシリーズは2カ月に1回掲載します)
〈筆者紹介〉 柳笛(リュウ・テキ)
上海外国語大学(在籍中に日本留学を経験)卒業後、三井住友銀行に入行。中国国内外で得られた生きた情報を大切にしつつ、中国食品・小売・繊維アパレル業界のアナリストとして活躍。
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