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最新号の内容 -20121221 No:1373
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日中韓FTAをアジア版EUの前身に


 中国共産党第18回全国代表大会で胡錦涛・国家主席が完全に引退してしまうと予想できた人はほとんどいなかったであろう。筆者もその一人である。

 薄熙来事件以来の政局の不安定は国民にもその動揺が広がり、各地で暴動が頻発する事態にまで発展していた。その延長線上に反日運動があり、世界に対して中国のネガティブな面が強調された半年間であったと言える。

 しかし今回の新指導部発足と同時に強調された格差是正、腐敗撲滅は胡錦涛時代から受け継がれたスローガンであり、中国は今やるべきことをはっきりと分かっているのだ。しかし事はそう簡単ではない。

 今の経済成長を維持しつつ格差の解消を目指すとは車で言えばアクセルとブレーキを同時に操るようなものであり、また中国の文化とまで言える汚職、腐敗を無くすには文化大革命ほどの改革を必要とするであろう。

 具体的にいえば格差は身分的格差からすでに発生している面が強く、都市住民、農村住民とされる身分格差の廃止が先行される必要がある。また企業でいえば国有企業の問題が中国経済問題の根幹に居座っており、これら特権的に中国経済を占有している企業から市場を開放することができるのかと言えばやはり簡単なことではないと思える。

 そこには元共産党幹部の子弟と言われる太子党が入り込んでいる場合が多く、彼らは既得権益を守る政治的パワーを持っている。ここが重要なポイントで、自身が太子党と呼ばれる習近平氏はそれら太子党と話を進めていくのにはもってこいの人なのだ。胡錦涛氏のように改革に情熱があっても国有企業幹部から反発を買う政策を前面に押し出していては話し合いも進まず、不本意にも格差が広がってしまう結果を残してしまった。「仲間」である習近平氏にはそれができるとみられる。

 さてそれでは外交問題に関してはどのような期待がされているであろうか。さまざまな問題を抱える中国が対日本、とりわけ尖閣問題では国を挙げて一丸となって対抗してくる姿には日本人として戸惑いを感じることであろう。しかしほとんどの国は隣国と歴史的な摩擦を抱えているわけであり、中国のみが特別なわけではない。ただ日本が中国に対して政治的にも経済的にも緊密な関係を築きたいという願いが大きいため、ダメとなったときの落胆も大きいのだ。これは北朝鮮が日本に対してどうしようと経済的なつながりが小さいために日本側の落胆は小さいが、民間レベルで援助を受けている北朝鮮側の期待は実は大きいのに似ている。

 今後の世界経済を考えれば中国抜きの日本は考えられず、好き嫌いにかかわらず日本は中国の隣に位置する。巨大な消費市場である中国からの経済的利益を考えれば、日本は彼らを受け入れねばならない立場にあり、現実を見据えた2国間外交を築き上げて行く必要がある。

 今後100年は日本にとって中国に取って代わるような消費市場が現れることはない。例えばインドは潜在的に巨大市場となる可能性を秘めているが文化的背景が全く異なり、英国植民地であった彼らは日本以上に欧米に対してオープンである。アフリカ諸国、中東諸国、中南米諸国もこれから巨大消費市場として台頭してくるが、当面、中国に取って代わる国は全く見当たらない。それが現実である。

 日中韓自由貿易協定(FTA)交渉が再開される。アジアにおけるこの3カ国の重要性を考えればじっくりと時間を掛けてでも理想的なFTAを築き上げる必要がある。米国主導の環太平洋パートナーシップ協定(TPP)以上に日本経済にとって重要な経済貿易関係となり、人、モノの流れが相互理解をより深めていくことによって、尖閣などの諸問題を解決していく以外に道はない。これがアジア版EUの前身であったといわれるようなものにしてもらいたい。中国が100年単位で問題を考える国だということを忘れず、こちらも腰を据えてアジア全体のことを考えていこうではないか。

(このシリーズは今回で終了します)