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最新号の内容 -20121005 No:1368
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モノ作りの国から


日本の産業の底力といわれる、「モノ作り」の最前線から、明日の世界的ヒットになるかもしれない優れた「メードインジャパン」を紹介します(月1回掲載)



 

【上野文規(介護総合研究所 元気の素 代表)】人間生理学に基づいた介護の考え方と、介助技術、さらにそれを具現化する新発想の機器と空間づくりを提案するために「介護総合研究所 元気の素」を開設。全国を講演・現場指導・人間工学に基づいた生活用品の発案、さらに、介護施設などの開設にともなう「ひと・もの・はこ」の総合プロデュースや、施設などの新築・改築時の設計・監修およびコンサルタントなど、幅広く活動している


室内専用六輪車椅子
 

「運搬される」ではなく「自分で動く」

 通常の車椅子より二回りくらい小さく見える。主輪のほか、前後に小さな車輪がついており、小回りが利く上に、前や後ろにひっくり返る心配もない。座ってみると床に足が着く。足だけで簡単に車椅子を動かすこともできる。そして背もたれの後ろに、介助者が車椅子を背後から押すときに使用するハンドルグリップがない。この車椅子は人を運搬するためのものではない。自分で動くための車椅子なのだ。今回は、この車椅子の開発者を訪ねてみた。

【ビークル・シックス】軽量化し、動きやすくなっているため、自分で車椅子を動かして、筋力の退化を防ぐことができる。この車椅子を使い続ける内に、寝たきりだった老人が、歩行器で歩けるようになった例もあるという


「座って歩く」内履きとしての車椅子

 「オフィスで使われているキャスター付きの椅子に着想を得て作りました」と、介護総合研究所・元気の素代表の上野文規先生は話し始めた。オフィスの椅子に座った状態で車輪を滑らせて移動するのは誰でも経験があると思うが、あの動作を車椅子で実現しようとして、この六輪車椅子は開発された。指一本で軽く押してやると、車椅子は滑らかに動き出す。六輪にすると動き出しに必要な力は小さくてもよく、精巧なベアリングを採用しているため、力を込めなくても楽に動かすことができる。試しに座って動かしてみると、とにかくよく動く。従来の車椅子は車軸がおしりの後方にあったが、この車椅子では、車軸がおしりの真下にあるため、主輪のハンドルリムが握りやすく、肘関節の可動域を有効に使えるため、楽に主輪を回すことができるのだ。


価値観を変え、暮らしを変えたい

 この車椅子を世に送り出すまで、一番難しかったのは、「世の中の抵抗」だった…と上野先生は言う。「こんなに小さくて、ハンドグリップもない…。危なくないのか? とよく聞かれました。介護の世界とは、まだまだ発展途上なんです。だから伸びしろがいっぱいある。誰も着手していないことが山ほどあるんです。人類の長い歴史の中でも、こんなに多くの高齢者と一緒に共存する社会は初めてなんですね。だから、まずは価値観を変えて、暮らしのカタチを変えていきたい。それがちゃんとできれば、若い人たちも含めて、みんなが暮らしやすい社会になる…と私は思っています」

■介護総合研究所
元気の素大阪市生野区巽南3丁目7-31客人館1F http://fungenki.jp/