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最新号の内容 -20121005 No:1368
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ケリー・ラム(林沙文)
(Kelly Lam)教師、警察官、商社マン、通訳などを経て、現在は弁護士、リポーター、小説家、俳優と多方面で活躍。上流社交界から裏の世界まで、その人脈は計り知れない。返還前にはフジテレビ系『香港ドラゴンニュース』のレギュラーを務め、著書『香港魂』(扶桑社)はベストセラーになるなど、日本の香港ファンの間でも有名な存在。吉本興業・fandangochina.comの香港代表およびfandangoテレビのキャスターを務めていた


香港人は読書家なのか?
ブックフェアに市民が殺到する理由

 香港では毎夏、「香港書展(香港ブックフェア=HKBF)」が開催されています。今年は7月19〜24日に行われ、私自身も会場で新作著書『破解法律陥(法律のわなを知るノウハウ)』を発表し、サイン会も行いました。 

 HKBFは1989年から始まり、23年の歴史があります。毎年、大変多くの市民が詰めかけ、今年は計68万人が来場しました。香港の人口は700万人ですから、つまり10人に1人が足を運んだことになるのです。中には外国人もいますが、ほとんどが香港人だと思います。 

 ほかの国で開催されている国際的なブックフェアの大半は会場で本を売ることはありません。北京やフランクフルトのブックフェアも本の著作権の売買交渉のきっかけとなるだけで、基本的に販売はなし。HKBFでは本を販売し、しかもたくさん売ろうと出版社が激しく競争する場所です。
 

話題呼んだ台湾系書店進出

 HKBF以外に今年、香港では本に関する大きなニュースがありました。それは台湾の有名な書店「誠品書店」の香港進出です。8月にコーズウェイベイに開店した店は4万平方フィートという広さ。香港メディアは、誠品書店はお得な賃貸料で借りることに成功し、香港では過去にない一番面積が大きな書店だと報じました。しかしお得な賃貸料といわれる一方で、毎月200万ドルも払っているという報道もあります。 

 誠品書店が注目されたのにはほかにも理由があります。それは斬新な営業方針。週末は24時間営業し、立ち読みOK。ソファも用意され、座り読みでも大丈夫なのです。 

 出版事情に詳しい評論家が言うには、誠品書店は1時間に200冊、1分間に3冊の本を売らなければ赤字になるそうです。ラジオの評論家・陶傑氏もこの営業方針では3年以上は持たないだろうと予言をしました。 毎年大勢がHKBFに来場し、台湾企業の誠品書店が香港に大規模に投資するのですから、日本人の皆さんは香港人はみんな本が好きで、本を大事にする人間かと思うかもしれません。しかし実際はそうではありません。 

 報道によると、誠品書店は香港を拠点として最終的に中国本土のマーケットに参入する計画のようです。それが本当ならば、やはり香港人が読書家かどうかとは全く関係のない話になります。
 

お目当てはセクシー写真集

 30年の間に教師や講師として英語、日本語、法律、PRスキルを教えた経験を持ち、漫画出版社を経営したこともある私が、香港人が読書家かどうか評価することにしましょう。 

 まず、HKBFがなぜそんなに人気があるのかということからご説明します。毎年長い行列ができ何十万人がHKBFに行くのは、香港人がたくさん本を買って読むということではありません。確かにHKBFでの出版社の営業成績は良好ですが、いつも一番売れるのは、金融投資関連の書籍や風水、靚模(ヤングモデル)のセクシーな写真集です。あるいはタレント本や有名な香港作家が書く作品だけ。ほかに知識、文化、歴史、科学、 唐詩宋詞などの本はあまり売れないか、全く売れないこともあります。外国の作家、有名な文豪、シェークスピアなどの英語書籍や翻訳した英語の作品も人気はありません。

 香港人がなぜ金融投資の本をよく買うかというと必要だから。みんな大金持ちになりたいのです。たとえ内容が分かりにくくても、そんな本を愛読する香港人はいっぱいいます。ではなぜ風水本が好きか? これまた必要だから。どうやったら自分の運命を変えられるか、開運できるか、そのために風水の本を買うのです。

 なぜヤングモデルの写真集が好きか? 今までは日本の写真集・アダルトビデオが主流だったので、香港女性のセクシー写真集は珍しいから。しかも若い女性の写真はさらに珍しいからです。 


書籍選びは現実的に判断

 一言でいえば、「読んでも読まなくてもいいという本なら買わない」という香港人がほとんど。現実的な香港社会・文化では、本を選ぶのも読むのも同じことで、香港人は現実的に考えます。自分の人生の知識を豊かにし、文化、歴史を勉強するために本を買う、読むという人はものすごく少ないです。そんな本を買うと無駄遣いになるとか、そんな本を読むと時間がロスだなどと考えるのです。

 自分の財産、仕事、学業、運命にプラスにならないなら、そんな本はどうでもいい! 子供のいる親も本を選ぶ時に一番現実的なことを考えます。その子供が本を選ぶときに親と同じようになるのは当たり前。香港は受験の厳しさでも有名です。学生が毎日学業の本を読み、一生懸命勉強するのは当然ですが、趣味として知識として自分の人生を豊かにするために本を読む香港学生が滅多にいないのは残念なことです。

 どんな本を読むにも目的があって、その大半は言うまでもなく試験のため。英語の作品やシェークスピアのような難しい本は香港人は苦手。分かりにくいし、読むのに時間がかかるし、試験の必読書じゃないから。こういった作品は国際学校や香港の超有名校の学生だけの読み物です。 


電車内では本でなくスマホ

 香港で今、非常にはやっているのがチュートリアルセンターと呼ばれる予備校。有名校の学生たちは平均すると4〜5人の講師に勉強を習っています。予備校の先生の中には成功して億万長者になった人もいます。なぜ成功したのかというと、ふたつの秘密があります。こんな先生は授業で試験対策ばかり教えます。もうひとつの秘密は、試験のヤマを当てるのがうまい先生は人気があるのです。こんな勉強ブームの香港でどうやって読書家になることができますか?

 私は4〜5年前に2カ月間だけ予備校の先生をしたのですが、大変驚くべき体験でした。あるとき私が学校から英語の字引を借りようとしたら、ないと言われたのです。しかも、もしあっても貸さないというのです。

 大変成功した予備校の校長から「ここで教える先生たちはみんな自分の授業素材を持っていて、すべて商売道具だから字引も絶対に貸さない」と聞いて、私は心の中で激怒しました。先生たちは生徒に勉強させるためにお互いに協力すべきです。大きな学校でも字引が一冊も置いてないなんてデタラメな話は私は生まれて初めて聞きました。こんな先生では学生たちはどうやって健全な頭脳をつくることができるのでしょう?

 香港人が本が好きかどうかはもうひとつのある光景からも分かります。毎日MTRでは6人席の4〜5人がスマートフォンやタブレット端末を持っているのを見かけます。無料の新聞を読む人はまだ結構いるけれど、本を読む人はいないです。携帯で話したり、SMSやWhat'sAPPのようなものをやっています。ドラマを見る人もいます。

 ハイテクをうまく利用して本を読み、自分の人生経験を豊かにすることもほとんどありません!

 趣味、興味、文化、歴史の本がどんな形なのか、だんだん見えなくなるでしょう。本の力がよく分からないと、知識や常識もだんだん貧しくなるような気がします。世の中でこれほど悔しく、残念なことはありません。



ケリーのこれも言いたい

誠品書店はオープン当初、大きなにぎわいを見せたけれど、香港人は本が好きなわけではない。あくまでそれは突然のファッショントレンドやブームみたいに誰でも乗り遅れないように急いで一度体験したいから。