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最新号の内容 -20120810 No:1364
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 経済のグローバル化が進む中、自らの組織のために粉骨砕身するリーダーたち。彼らはどんな思いを抱き何に注目して事業を展開しているのか。さまざまな分野で活躍する企業・機関のトップに登場していただき、お話を伺います。
 (インタビュー・楢橋里彩) 


 

6月に上海出店 香港の経験生かす
 

香港大戸屋有限公司        
董事総経理 森田早苗さん

【プロフィール】
 1974年に日本航空に客室乗務員として入社。インストラクターを経て客室乗員部部長に。2000〜03年には同社香港支店に勤務、乗員部マネジャーとして主に人材育成を担当。11年に株式会社大戸屋(現在の大戸屋ホールディングス)香港事業部部長に就任、現在に至る。趣味は読書。



——香港進出して今年で5年目ですね。

 日本国内には260店ありますが、ここは海外ですから知名度のないところからの発進でした。人が集まりやすいショッピングセンターにまず出店するのが一番いいのではという結論に達し、タイミングよくジャスコ太古店さんから声をかけていただきました。
 
 
——出店場所のほとんどが飲食店の激戦区ですね。

 香港は特に家賃が高いので決して楽ではないです。でもどんな環境下でも、とにかくおいしいものを出せばお客さまは無条件でついてくることを信じてやっています。本物の和食のおいしさを一人でも多くの人に知ってほしいですね。
 
 
——海外進出で力を入れているものは?

 香港進出の際、日本と同じ「ごはん処」メニューでスタートしましたが、海外展開を見据えて日本の食文化を新しいスタイルで伝えられないか検討し、香港3号店(尖沙咀)をアジアのパイロット店舗としてオープンして日本のメニューになかった手打ち蕎麦、寿司、焼き鶏を導入しました。これらは人気のメニューになりましたが、実は焼き魚にも力を入れています。PB(プライベートブランド)の魚を大戸屋独自のグリルで焼きあげており、日本人のみならず香港のお客さまからもご好評をいただいております。
 
 
——PBにこだわるのは?

 大戸屋は、料理は素材、発酵技術、職人の技で決まると考えています。うちはチェーン展開をしているので、他社に勝るためには素材と発酵技術での勝負となります。特にお店で使うたれをPBにすることで他社に負けない独自の味を提供し差別化を図っています。また安全性とおいしさを追求するために、日本では水耕栽培の工場を実験的に始めています。
 
 
——海外支店ならでの特徴もあるようですね。

 食器は一部日本と異なるものを使っていますし、香港独自のメニューもあります。香港人はサーモンが好きなので、あぶったサーモンとマヨネーズを使ったサーモン重は特に人気です。ただしそれは一部だけ。基本的には日本と同じものを提供するのが原則なので、あえて香港人に合わせて料理することはありません。生野菜、大根おろし、焼き魚は香港人の口に合わないと当初言われていましたが、多くの方の注文を受けています。
 
 
——食器にもこだわりが?

 料理によっては漆の食器を使っています。見栄えの美しさもありますが、定食だからといって安い食器で出す概念はありません。漆器はもともと家庭で使われていたものですし伝統的な和食器を使うことで料理がより引き立てられます。日本もそうですが、大戸屋は女性のお客さまのご利用が多いのが特徴です。女性は食器、盛り付けに関心を持っている方が多く、店の雰囲気やサービス全般にも厳しい目を持っていますので、女性が多いのは刺激になります。

 
——昨年の震災の影響は?

 しばらくはお客さまの足が遠のいていたのですが、多くのお客さまから激励の言葉をいただき本当にうれしかったです。
 
 
——中国本土への進出は?

 食材の輸入輸出はいろいろと制限があるので難しいですが、今年6月に上海に1店舗目を出しました。香港ほか海外で学んできたことを生かして事業を拡大できればと考えています。

 
——香港の外食産業をどうみていますか。

 香港は家族で外食する機会が多くいろいろな外食スタイルを受け入れている場所です。また日本の文化や和食を好む人が増えてきている一方で海外の街には和食もどきの料理が氾濫して香港も例外ではありません。私たちは海外に住む外国人には日本の家庭料理を正しく伝え、海外に暮らす日本人には日本と変わらぬ料理を提供して喜んでいただきたいと思っています。
 
 
——今後の海外での事業展開は?

 現在はタイ、台湾、香港、シンガポール、ジャカルタ、上海、ニューヨークと世界に66店舗出しています。出店するたびに思うのは日本食に対する信頼度、関心度の高さです。今後は特にアジアを中心にさらに拡大していきたい。

(この連載は月1回掲載します)

【楢橋里彩】
フリーアナウンサー。NHK宇都宮放送局キャスター・ディレクターを経てフリーに。ラジオDJとして活動後07年に中国に渡りアナウンサーとして大連電視台に勤務。現在はイベントなどのMC、企業トレーナー、執筆活動と幅広く活躍中。