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最新号の内容 -20120518 No:1358
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香港にマグロ文化をすき間戦略を徹底

 経済のグローバル化が進む中、自らの組織のために粉骨砕身するリーダーたち。彼らはどんな思いを抱き何に注目して事業を展開しているのか。さまざまな分野で活躍する企業・機関のトップに登場していただき、お話を伺います。(インタビュー・楢橋里彩)
 

帝有限公司(Tei Enterprises Limited)       
会長 氷室幸夫さん     
【プロフィール】
 1936年福岡県生まれ。59年関西学院大学経済学部卒業後、サッポロビールに入社。サッポロUSA社長・ナパバレーワイン醸造所社長を歴任。定年退職後は飲食店経営コンサルタント兼サッポロビール顧問。2003年に香港初のマグロ専門取扱会社として帝有限公司を設立。仕事の傍ら日本全国各地で講演活動を行う。
 
 
——マグロの卸売業を始めたきっかけは?
 香港人はサーモンが好きでしょ。サーモンがこれだけ出るならマグロもいけるんじゃないかと。日本の漁業組合の知人を頼ってサポートを依頼したら二つ返事で話が決まりました。当時マグロは香港の一部の富裕層だけが楽しむ食材だったので、まずは香港にマグロ文化を育てるのが目標でした。
 
——事業をする上で何が大変でしたか。
 コーズウェイベイの小さなオフィスを借りて冷蔵庫を置いて始めました。最初はマグロの高級な部位のみを仕入れ、徐々に丸ごと買うようにしましたが大トロ以外は売れない。相当悩みましたね。とはいえ香港には日系飲食店や海鮮魚を扱う店があふれている。生き残るためには差別化が必要です。すき間戦略を徹底しました。
 
——どんなことを?
 一般的にマグロは大トロ、中トロ、赤身といいますが、中央、尾、背中にもあります。それを細分化して20〜30の部位にしました。夜中に注文を受けて配達もしました。最初はお客さんのニーズも手探りでしたから。明確に分かるまでは、どんなことでも、どの時間帯でも対応しました。
 
——つまり24時間。
 そうです。お得意先は店が閉店してから注文がきますから遅くなります。でもお客さんが求めるものに完ぺきに応えたい。そういう積み重ねから信頼関係が生まれてくるものなんです。商品が良いだけでは売れません。売る人間の真心があって初めて商品が生きてくるんです。
 
——それが03年に出店した「どらや」につながっているわけですね。
 より大衆受けするものを考えた末、マグロ専門飲食店をつくることにしました。売れる部位とそうでないものを解消するためにも料理として提供していこうと考えました。
 
——お客さんの反応はいかがでしたか。
 時間はかかりました。しばらくお客さんは来なかったですし。少し食べてはしを置く人もいたくらいですから。それでもあきらめずに信じました。当初は日本人客が多かったのですが今は逆転。狙い通りです。
 
——常に挑戦していきたいという気持ちは、どこから生まれるんですか。
 前職を定年退職した時、悠々自適な生活がイメージできなかった。生涯現役で貫きたいと思っていました。サラリーマン時代にはたくさん学んで自分に身につけようと必死でしたし、今はそれが生きていますね。アイデアはいつもあふれてきますよ。
 
——ここ最近、飲食業界は厳しかったのでは?
 昨年は苦労しました。震災、放射能問題、風評被害の上、円高で一挙にいろいろな困難が覆いかぶさってきた。それでもポジティブでいました。上がパニックになっていたら下も動揺しますから。年の功かもしれませんが、日本の高度経済成長時代を担ってきた年代ですから、事業をする上でそういう荒波を越えていくのは一種の試練だと思っています。
 
——ビジネス展開する上で日本と異なる点は?
 香港は卸業に関しては自由貿易だと感じます。日本のほうがむしろ厳しい。大きな違いは飲食店。家賃の問題です。高い上に更新するときは一気に何十パーセントと上がる。香港で事業をやるにはしっかりと利益が出るように事業プランを考えなければいけません。
それから日本は飲食店を出すときに保険所に届け出れば免許はすべて取れますが、香港は飲食店免許を取得後、新たに刺し身や酒の取り扱い免許を取らないといけないのも大変でした。
 
——今後新たな事業に挑戦されるそうですが。
 日本から海外に進出したい外食産業の企業はありますが、足踏みしている企業も多い。これまでもたくさん相談を受けています。そこで今春FFJ(Food From Japan)という会社を立ち上げ、香港に出店したいという店の相談、サポートをしていこうと考えています。
 
——トップとして注力してきたことは?
 常に従業員の幸せを実現させていく気持ちを持つこと。経営者は確実に社員の家族を守るべき立場ですからね。何といっても従業員の幸せな顔を見るのが私のやりがいです。(このシリーズは月1回掲載します)

【楢橋里彩】フリーアナウンサー。NHK宇都宮放送局キャスター・ディレクターを経てフリーに。ラジオDJとして活動後07年に中国に渡りアナウンサーとして大連電視台に勤務。現在はイベントなどのMC、企業トレーナー、執筆活動と幅広く活躍中。