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最新号の内容 -20120420 No:1356
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情報発信から提案型サポートへ

 経済のグローバル化が進む中、自らの組織のために粉骨砕身するリーダーたち。彼らはどんな思いを抱き何に注目して事業を展開しているのか。さまざまな分野で活躍する企業・機関のトップに登場していただき、お話を伺います。                  
(インタビュー・楢橋里彩)
 

 
日本貿易振興機構(JETRO)  
香港事務所所長 小野村拓志さん     
【プロフィール】
 1988年に上智大学法学部を卒業後、同年にJETRO入職。輸入促進部、総務部を経て94年、マドリード事務所に4年半駐在。帰国後は事業統括部、企画部を経て06年からクアラルンプール事務所次長。総務部人事課課長を経て11年から現職。趣味はウクレレ、香港の路地裏探索、そしてまったりと日本酒。
 
——55カ国・地域に73事務所がありますが、香港の特徴は何ですか。

 ジェトロは1951年に発足して以来、日本と諸外国の貿易と投資を拡大して各国と経済協力を促進しています。特に香港は世界でも有数の日本食需要が高い場所で、日本からの食品輸出の4分の1が香港向けです。日本の食文化がどれほど香港で親しまれているか分かります。ほかにサービス産業、教育、金融・貿易、観光業といった分野の日系企業の活躍もめざましいです。
 
——香港でのビジネス展開のメリットは?
 
 中国本土と制度が異なることが一番大きいです。国際金融センターの機能に加え、物流のハブなので、手続きは速いし集荷されたものを間違いなく分散させることができる。ビジネス環境としては一国二制度ゆえのクリアな法律制度が挙げられます。最近は金融センターでいえば上海、シンガポール、物流では深圳、上海が伸びて競合は増えていますが、香港にとって大きなメリットは本土を抱えていることですね。
 
——東日本大震災以降、日本食材が敬遠されがちでしたが徐々に回復しているようです。この背景には何があると思いますか。
 
 香港のレストランと日本食輸入業者と話しをし、放射能汚染の情報が少ないことに気づきました。そこでまず私たちが持っている情報を発信し始めました。香港各界や総領事館と共催で普及啓蒙セミナー、そして日本食のイベントも行いました。こうしたことも回復につながったと思います。
 
——地道な活動で信頼を得てきたのですね。
 
 しかし完全に戻るかと言うと厳しいです。これまでは日本の食材は高くてもおいしいから買うという図式が成立しましたが、今、円高でさらに値上がりしている。そこに台湾や韓国の企業も参入してきています。価格低減の工夫や新しくかつストーリーのある物の紹介に努めます。
 
——近年、日系企業のアジア進出も増えていますが、どのようなサポートをしていますか。
 
 まず個別案件のサポートに重点を置いています。今まではセミナーなどで一度に情報を発信していましたが、今は世界各国の事務所の最新情報も提供しながら一社一社を成功するまで見届けています。香港に来られる方は香港の市場だけを狙っているわけではないはずです。であればここを拠点にさまざまな国の情報を提供していくということです。
 
——提案型のサポートですね。
 
 これまではニーズを把握した上でそれに合った情報発信のみでしたが、海外でビジネスを成功させるためのより深い提案が必要だと感じています。生産拠点のつくり方、海外投資による法務、労務、税務から人材雇用、パートナー選びなど、香港の日系企業の皆さんの悩みを積極的に聞くことでビジネス環境を改善するために日本の政府に対して提言していく機能も担いたいと考えています。
 
——CEPAの拡大で香港から本土へ進出する企業も増えているのでは?
 
 CEPAがなくても本土へのゲートウエーの位置づけは変わりませんが、よりチャンスが広がった重要な政策です。また特定のサービス産業に対して香港の企業進出が可能になったことや物の移動に関税がかからない点は大きいです。
 
——今後、需要が高い業種は何でしょうか。
 
 サービス業、教育系、コンサルタント業です。香港はショーケース的な役割を果たしている点があります。ここで売れたものは本土でもアジアでも認知されやすい。しかも観光客の6割が本土から来ているのも大きく影響します。また企業が香港に集中することで、ビジネスの相談窓口が必要となりコンサルタント業務は増えますし、人が増えると人材育成に力を入れるようになる。ますます需要は上がるでしょうね。
 
——注目しているビジネスはありますか。
 
 今、香港はワインがブームですが、日本酒やラーメンをもっと広げたいですね。政府観光局が香港人を対象に「日本に旅行する理由」の調査をしたとき、1位は食事でした。特にラーメンを食べたいという人が多かったんです。このブームをさらに伸ばしたら定着するでしょう。
(このシリーズは月1回掲載します)

【楢橋里彩】フリーアナウンサー。NHK宇都宮放送局キャスター・ディレクターを経てフリーに。ラジオDJとして活動後07年に中国に渡りアナウンサーとして大連電視台に勤務。現在はイベントなどのMC、企業トレーナー、執筆活動と幅広く活躍中。