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最新号の内容 -20120420 No:1356
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《38》世界トップの香港ワイン市場

 世界のワインオークション成約額において、2010、11年の2年連続で香港がトップであったことをご存じだろうか。10年10月には「1869年シャトー・ラフィット・ロートシルト」が750ミリリットルサイズとして史上最高の約23万2700米ドルで落札されるなど、香港はいまや世界のワイン関係者の耳目を集めるワイン・ハブとなっている。足元のマーケットでも、それまでは香港の宴席で供される酒と言えば高級ブランデーが定番であったが、08年に訪れたワインブームをきっかけに、宴席の主役はワインに移り変わった。ワイン需要の増加を反映してワインボトルの展示棚を設ける中華レストランは増加し、スーパーマーケットの陳列棚ではワインが幅を利かせ、ワイン専売店のチェーン網も拡大している。本稿では国際ワイン・ハブとして飛躍的に地位を高める香港ワイン市場の現状について紹介する。
(みずほコーポレート銀行 香港営業第一部 中国ASEAN・リサーチアドバイザリー課 陳志堅)

酒税撤廃で増加したワイン輸入量

 香港がワイン・ハブとなる契機となったのは、香港特区政府が08年に実施した、「摂氏20度で度数30%以下の低アルコール類」に対する酒税の撤廃、そして同アルコール類の貿易や製造、保存、運搬にかかるライセンスや許可制度の廃止である。
 
 これにより、ワインを含む度数30%以下のアルコールについては税率が06年までの80%、07年の40%から一足飛びに免税に。06年は約1億米ドルにすぎなかったワイン輸入額は、直近の11年には約13億米ドルと飛躍的に増加した(図表1)。
 
 
 
活況を呈するワインオークション
 
 酒税の撤廃は、クリスティーズやサザビーズなどによる国際的なワインオークションの開催を香港に呼び込むことになった。大手競売会社によるオークションの増加により、10年には成約額1・6億米ドルでニューヨークを超え初の世界一となり(図表2)、前出の「1869年シャトー・ラフィット・ロートシルト」をはじめ、世界のワイン関係者が注目する高額落札のニュースが香港で相次いでいる。11年に入っても香港におけるワインオークションは勢いを増し、成約額は前年比39%増の2・3億米ドルで世界首位を維持したほか、オークションの開催そのものがワイン輸入増を後押ししているといえよう。
 
 活況を呈するワインオークションの重要な立役者となっているのは中国本土の消費者だ。本土の愛好家がわざわざ香港で高級ワインを購入する背景には、本土における45%という高率のワイン輸入関税もさることながら、偽物や劣等品を中級品、高級品と偽って売るといった悪質な販売手法の横行がある。
 
 一方、中国ではワインの消費量が急増しており、11年は中国(香港を含む)が米国、イタリア、フランス、ドイツに次ぐ世界5位、消費量は19億本相当に上ったとされる。中国国内での旺盛な消費意欲にともなう香港—中国間の物流増に対応するため、香港・中国両政府は10年6月、「中国とのワイン通関簡便化」を深圳税関で試験的に先行導入。この結果、実施からわずか2カ月後の同年8月には、深&`通関を通じた本土へのワイン輸入量が前年同月比6割超となる1028万リットルに達し、その後も増加の一途をたどっているという。
 
 
ワイン・ハブ化がもたらすその他の波及効果
 
 ワインの輸入増やオークションは、香港の地場経済にも新たなビジネス拡大をもたらしている。もともとワインは温度や湿度、振動などによって品質が大きく劣化しやすいほか、輸出入のたびに関税がかかるのを避けるため、一定の保管場所に置かれるケースが多い。オークションが開催される場所で、関税を納めることなく保管できる香港は、ワイン関係者にとって絶好の保管場所となり、酒税撤廃後、オークション用の輸入ワインや、コレクターが収集した高級ワインなどの保管ニーズが急速に高まった。需要増を受け、数万本規模の貯蔵スペースを有し、ワインの品質を維持できるだけの良質な設備を備えた高級ワインセラーが香港域内に続々と設立されるなど、ワインセラービジネスが急成長を遂げている。
 
 こうしたなか、特区政府は09年に「ワイン貯蔵システム認証制度」を導入して貯蔵サービスに対する品質基準を設け、「香港で購入し、香港で貯蔵」することに対する信頼性を世界のワインコレクターにアピール、同ビジネスの成長を後押ししている。前述の通り、ワインにかかる各種ライセンスや許認可制度は酒税撤廃とともに廃止されており、単なる販売であれば、特にライセンス申請の必要はなく、比較的少ない資本金でもワイン専売店などに手軽に投資できる環境であるといえよう。
 
伸びる地場消費
 
 ワインビジネスの拡大は、香港域内でのワイン消費量にも影響を与えている。10年のワイン輸入からワイン再輸出を差し引いた分を香港での域内消費量とみなすと、1人当たり年間消費量は750ミリリットルサイズのワイン4本相当の計算となる。また、1本当たりの平均価格は07年の79香港ドルから、10年には191香港ドルに倍増している。さらにグレード別消費量をみると、グレードの高い、いわゆるファインワインにとりわけ消費が集中している。購買力のある香港の高所得層や中国の富裕層などがファインワインの消費をけん引しているものとみられる。

 この他の傾向として、中華圏では赤が縁起の良い色であることや、赤ワインが健康に良いという考え方が広まっていることを背景に、圧倒的に赤ワインが人気である。産地別ではフランスのボルドー産ワインの人気が高いのに対し、ブルゴーニュやローヌなどは知名度が低く、価格も相対的に低い傾向にある。ワインの知識を豊富に備える消費者はまだ一部に過ぎないとみられるなか、結婚した年や生まれた年など自分にとって記念すべき年でワインを選ぶケースが多く、価格帯も記念の重要度によって決定する傾向が強いもようだ。
 
まとめ
 
 香港がワイン販売と貯蔵拠点としてわずか数年間で飛躍的に国際的な地位を高めた要因は、世界有数の自由な経済体制や整備された物流インフラなど香港が備える強みをベースに、世界経済をけん引する中国の消費や投資需要をうまく取り込んだ点にある。中国をはじめ、アジアにおけるワイン収集の歴史は浅く、投資を目的に高級ワインを購入するワイン初心者も多いとされる。一方、中国をはじめとするアジア各国は今後、世界の高級ワイン需要の担い手と期待されている。ワインをめぐるさまざまなビジネスが拡大するなか、香港がワイン・ハブとしていかにその地位を高めていくのか、今後の動向が注目されよう。
(このシリーズは月1回掲載します)
 
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