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最新号の内容 -20120101 No:1349
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港珠澳大橋はいつ完成するの?
〜広東との連携の仕組み

 政治、経済から社会、文化に至るまで、知っているようで意外にあやふやな香港の「仕組み」についてイチから勉強する好評連載。第9回は、香港と広東省の連携の仕組みについて解説する。  
(ジャーナリスト・渡辺賢一)

世界最長の海上橋2016年完成へ

 香港と広東省珠海市、マカオを結ぶ世界最長の海上橋「港珠澳大橋」の香港側の建設工事がいよいよ本格的に動き出した。

 すでに珠海側では2009年12月15日、珠海・マカオの税関・出入境管理所が設置される人工島の埋め立て工事が着工。この大橋は、大型船舶の航行を妨げないように中心部を海底トンネルとする設計で、橋とトンネルの転換点に東京湾アクアラインの「海ほたる」と同じような人工島を東西2つ設けることになっているが、その西人工島と東人工島の基礎工事も2011年12月7日までに完了した。

 ところが香港側の工事は、2010年1月、橋の建設予定地であるランタオ島東涌に住むある老婦人が、香港特区政府によって承認された環境アセスメントが無効であるとして、建設許可を取り消すよう訴えたことで着工が延期されていた。

 裁判は2011年9月まで続き、一時は政府側を敗訴とする判決が下されたが、その後の上告によって政府側の逆転勝訴となり、ようやく香港側の工事が動き出すことになった。

 着工の遅れは生じたものの、特区政府は当初の予定どおり2016年の大橋完成を目指すとしている。ただし、プロジェクトの遅滞によって香港側の建設費は当初予算よりも65億ドル多い480億ドルに膨らむ見通しだという。

 いずれにしても、珠海側で建設が始まっている港珠澳大橋が珠江河口の中心部でぷっつりと途切れ、文字どおり「無用の長物」と化してしまうことは免れたようだ。

珠江デルタ西部と香港を30分で結ぶ
 
 そもそも、珠江河口の東端と西端を結ぶ大橋の計画は1980年代から存在した。香港のインフラ建設大手、合和実業(ホープウェル)の胡応湘(ゴードン・ウー)会長が1983年、珠海市政府に提出した「伶洋大橋」計画が最初である。香港の屯門地区を起点に、珠江河口に浮かぶ内伶$١島、淇澳島などを結んで珠海に至るもので、その完成によって香港と珠江デルタ西部の時間的距離は大幅に短縮され、香港からデルタ西部への製造業の移転や、デルタ西部から香港への観光が促進されるというのが構想の狙いだった。
 
 その後、1997年の香港返還に向けて香港国際空港が建設され、香港の中心部と空港を結ぶ高速道路「ランタオリンク」が整備されると、胡氏は青馬大橋などランタオリンクを構成するインフラを生かすために、大橋の東端を屯門ではなくランタオ島に接続する構想を掲げる。さらに、橋の両端をY字形(二股)にして、西端は珠海とマカオ、東端は香港と深を結ぶアイデアも披露した。
 
 しかし、建設には膨大な費用がかかることなどから、すぐさま具体化する動きはなかった。計画が再び日の目を見るようになったのは2000年ごろのことだ。
 
 中国への返還から約3年が経過した香港では、上海や深など本土都市との競争の激化に対する懸念が広がっていた。かつて世界一を誇った海運コンテナの取り扱いがコストの安い本土の港湾に奪われ、本土から香港を経由する貿易が減少するのではないかとの不安が高まったのだ。
 
 そこで着目したのが、珠江デルタ西部と香港を結ぶ大橋の建設だった。デルタ西部の珠海、中山、江門などの都市から陸路で深の港湾にモノを運ぶには、珠江河口を迂回しなければならず、3〜4時間はかかる。
 
 しかし、珠江河口の西端と東端を結ぶ橋が出来れば、輸送時間は一気に30分前後まで短縮される。リードタイムをぎりぎりまで縮めることが要求される今日の物流において、これは大きな効果だ。コスト競争力では深の港湾に太刀打ちできないが、大橋ができれば速さで勝負できると香港の財界人たちは考えた。唯一、香港一の大富豪である李嘉誠氏だけは、自らの会社が珠江デルタ西部で運営する港湾のコンテナが大橋を経由して香港に流れることを恐れて反対を表明したが、他の財閥の多くは大橋の建設を支持した。
 
 財界の要請を受けて特区政府も動き出した。
 
 2002年9月に開かれた香港と中国本土との大型インフラ協力会議で、大橋建設についての共同研究がスタートした。さらに同年11月には、朱鎔基・首相(当時)が香港の大橋構想に対する支持を表明。「お墨付き」を得たことによって計画推進は既定路線化された。
 
 2008年10月28日には、中国国務院(内閣に相当)が大橋に関する事業可能性調査(FS)を承認。2009年12月、ついに珠海側での着工にこぎ着け、世界最長の海上橋建設プロジェクトは動き始めた。
 
への接続が実現しなかった理由
 
 計画によれば、港珠澳大橋は香港のランタオ島を起点に珠江河口をまたぎ、珠海・マカオの目前の人工島でY字形に分岐してそれぞれの都市を結ぶ。全長61・5キロメートルで、うち主橋35・6キロメートル。先ほども述べたように、中央部分は大型船舶の航路を確保するため6・7キロメートルの海底トンネルとなる。
 
 香港側の起点は、香港国際空港の東北部に新たな人工島を築き、ここで出入境審査や税関審査を行う計画だ。一方、珠海・マカオ側は、分岐点となる人工島に中国本土、マカオそれぞれの税関・出入境管理所を置く。この方式を「三地三検」と呼んでいる。主橋の総工費は385・4億元。このうち58%(223億元)は借り入れ、残りの162億元は香港43%、マカオ12・5%、中国本土(中国政府と広東省政府)44・5%の比率で出資する計画だ。
 
 ところで、胡応湘氏の当初の構想には、東端も香港と深を結ぶY字型とするプランもあったことはすでに述べたとおりである。これが実現しなかったのは、「深にもつながるようになれば、結局珠江デルタ西部のコンテナは深に流れてしまう」という香港の財界の反発があったからだ。
 大橋計画から外されたことに、深市側は強い不満を持っているとされるが、香港の繁栄を何とか支持したい中国政府としては、香港の財界の要求に耳を傾けざるを得なかったのだろう。
 
 香港と広東は、互いにメリットがあると思えば連携もするが、つまるところは互いに競争相手であり、駆け引きも多い。ただし、中央政府に枠組みを決められれば、それに従わざるを得ない。特別行政区である香港とて例外ではない。 
(このシリーズは月1回掲載します)

渡辺賢一
ジャーナリスト。『香港ポスト』元編集長。主な著書に『大事なお金は香港で活かせ』(同友館)、『人民元の教科書』(新紀元社)、『和僑―15人の成功者が語る実践アジア起業術』(アスペクト)、『よくわかるFX 超入門』(技術評論社)『中国新たなる火種』(アスキー新書)などがある。