映画『2046』のタイトルの意味は? 〜一国二制度の仕組み
政治、経済から社会、文化に至るまで、知っているようで意外にあやふやな香港の「仕組み」についての知識をイチから勉強するための好評連載。第4回は、一国二制度の仕組みについて解説する。(経済ジャーナリスト・渡辺賢一)
35年後には香港も社会主義に? 香港映画の巨匠、王家衛(ウォン・カーウァイ)監督がメガホンを取って2004年に公開されたSF映画『2046』。トニー・レオン、コン・リー、フェイ・ウォン、チャン・ツィイー、木村拓哉などアジアを代表する豪華スターが顔をそろえたにもかかわらず、難解すぎる内容のせいか、大ヒットとは言い難い興行成績に終わった。 香港とマカオは台湾統一の試金石「一国二制度」の中身について、もう少し詳しく見てみることにしよう。 中国は1997年7月1日に返還された香港と、1999年12月20日にポルトガルから返還されたマカオの2カ所を「特別行政区」とし、一国二制度に基づいて資本主義制度の維持を認めている。その根拠となる中国の憲法第31条には次のように書かれている。
「国家は必要がある場合には特別行政区を設置することができる。特別行政区において実行する制度は、具体的状況に照らして、全国人民代表大会が法律により規定する」
そもそも一国二制度は、台湾統一のために考え出されたアイデアだった。
もともと中国は武力による台湾解放を目指していたが、>H氏の意向に沿って、平和的統一と、統一後も台湾の現状を維持する方針が1978年に開かれた中国共産党第11期中央委員会第3回全体会議によって採択された。統一後も一国二制度の枠組みのもとで、従来からのビジネスや生活を保証することによって、台湾の人々を安心させようというのが中国の狙いである。
香港とマカオにおける一国二制度の実施は、いわばその試金石というわけだ。逆に香港、マカオにおける一国二制度の実験が失敗すれば、中国の台湾統一への道は遠のくことになる。
「基本法」第2章では、外交(一部を除く)と軍事以外の権限については、香港に「高度な自治」を認めている。中国から香港への干渉を最小限に抑えて一国二制度を機能させるためだ。
香港がその枠組みのなかで政治的安定や経済的繁栄を実現すれば、中国は一国二制度が理想どおりに機能していることを台湾にアピールすることができる。
「高度な自治」はレトリックにすぎない だが実際には、香港政治は1997年の返還以来、長きにわたって混迷が続いている。市民の香港特区政府に対する不信は根強い。7月1日に起きた21万人規模(主催者発表)のデモは、その不満の表れのひとつだ。
不満の根底にあるのは、「高度な自治」「港人治港(香港人による自治)」を認めるとしながらも、実質的に中国の意向で香港の政治が動かされている実態だ。
特区政府のトップである行政長官は、親中派の人士らで構成される選挙委員会が間接選挙によって選出し、中国政府によって任命される。立法会議員も定員の半数は直接選挙ではなく、業界ごとに組織された職能別選挙で選出する状況では、外見的には「港人」(香港人)でも、実質的には中国の息のかかった政治家たちが牛耳ることになる。
司法においても、香港は中国の意向に背くことはできない。「ミニ憲法」である「基本法」の解釈権は、全人代常務委員会が握っており、香港の司法当局が勝手に解釈することは認められていないのだ。
立法、行政、司法の三権すべてにおいて、香港はその実質的な権限を中国に奪われているのである。これは、一国二制度の仕組みが、経済はともかく、香港の政治には実質的に適用されていないことを意味する。
そもそも「特別行政区において実行する制度は、具体的状況に照らして、全国人民代表大会が法律により規定する」のであるから、一国二制度のあり方そのものさえ、中国はいかようにでも決めることができる。
「高度な自治」はあくまで「高度な」だけであって、「絶対的な自治」が認められたわけではない。このレトリックを読みとらなければ、一国二制度の本質や現在の香港が抱える矛盾を理解することはできないだろう。
渡辺賢一 ジャーナリスト。『香港ポスト』元編集長。主な著書に『大事なお金は香港で活かせ』(同友館)、『人民元の教科書』(新紀元社)、『和僑―15人の成功者が語る実践アジア起業術』(アスペクト)、『よくわかるFX 超入門』(技術評論社)『中国新たなる火種』(アスキー新書)などがある。 |
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