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最新号の内容 -20170407 No:1476
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中国における移転価格調査の状況について(後編)

 近年、各国は、移転価格に関する管理レベルを高めるとともに反租税回避調査を強めている傾向です。グローバルベースで「税源浸食と利益移転(以下「BEPS」)」に対する取り組みが進んでいるなか、企業の関連者間資料でも透明性の高い情報の開示が求められるようになり、各国における税務当局間の情報交換もより広く行われるようになっています。今後、各国の税務当局が主体となって、納税者に対するリスク評価及び調査対象の選定が進むことにより、グローバルベースでの租税回避防止に向けた活動が一層厳しくなることが想定されます。このような背景のもと、中国は、移転価格調査が厳しいとされる国の一つとして、中国税務局による毎年200件前後の移転価格調査(※1)が実施され、数十億人民元から百万億人民元超の税額が各企業に対して追徴されています。今回は、中国の租税回避防止を中心として、中国移転価格税制の発展、移転価格調査のプロセスおよびその対応の留意点、中国移転価格調査の動向について解説させて頂きます。
(デロイト・トウシュ・トーマツ香港事務所 フローラ 曽)

 

(前編から続く)

移転価格調査の資料収集段階の留意点

 中国の税務局は、まず移転価格の潜在的な調査対象目標を選別し、その後、各企業に関連取引に関する資料(海外取引と関わる海外関連会社の資料を含む)の提出を要求することが多いと言われています。そのため、税務局からの膨大な資料の提出要求に対応する際は、関連データの正確性、整合性および関連性を確認することが必要です。また、海外資料を提供する場合には、海外関連会社の協力も非常に重要となります。


移転価格調査案の形成および結案

 2号通達によると、正式調査が入り、その調査結果と企業の関連取引が独立企業間取引の原則に合致していることが確認されると、税務機関は各企業に『特別納税調査結論通知書』を交付しますが、企業の関連取引が独立企業間取引の原則に合致していない場合には、課税収入または課税所得額を減少させることによって、移転価格調整を実施します。

 なお、実務上は、税務局と各企業は移転価格調整案を双方合意のもと作成・調整し、各企業が追加納税するケース(※3)がほとんどです。調整案の合意に向けて、税務局と各企業は調整案を数回あるいは数十回見直すケースもあるため、各企業は税務局と充分なコミュニケーションおよび交渉を行うことが必要です。

 また、上述したプロセス図で示したとおり、主管税務局が同意した調整案は、省税務局および国家税務総局の承認を得ること必要です。


追跡管理期間の留意点

 2号通達によると、税務局は、企業に対して移転価格納税調整を実施した後、企業が調整した最終年度の翌年度から五年間の追跡管理を行います。

追跡管理期間において、税務局は、企業の投資、経営状況、納税申告額および関連者企業間の業務状況に対する監督管理を行います。通常、税務局は調査期間と同程度の利益水準を求めるため、そこに差異があり各企業がその合理性を証明できなければ、税務局は自主調整の要求、再調査を要請することができます。実務上も、この追跡管理期間で、税務局による再調査が行われたケースがありました。


⑶中国移転価格調査の動向

案件数および調整額の増加

 2005年から2015年までの中国における移転価格調査の案件数および追徴額は下記の表のとおりであり、中国における移転価格調査の追徴額は、年々上昇しており、ここから推測されることは、将来、税務機関による調査・監督が徐々に強化されると考えられます。

 中国の税務局は、国際課税を専担とする国際税務専門官の増員、国際的な租税回避案を担当する専門部署を設置するなど、調査体制の充実・強化に取り組んでいます。また、国際課税に関する法規や租税条約、経験交流会などの研修を実施し、各税務局の国際課税に係る調査能力の向上も図っています。BEPSが取り巻く環境下において、今後、中国も移転価格に関連する規定の規範性を高め、中国税務局による租税回避防止調査の強化がなされることは間違いないと考えられます。(図表)

 

出所:国家税務総局


調査する業界および取引類型の拡大

 中国では、移転価格調査の税金追徴額が増えていくとともに、調査対象となる業界範囲も広がっている傾向が見受けられ、具体的には、製造業、自動車業から贅沢品、製薬業などの業界にも調査が及んでいます。また、税務局によつ移転価格調査の対象は、モノの売買取引などに集中していた過去と違い、持分譲渡、無形資産、金融およびグループ内サービス取引にも拡大しています。


⑷まとめ

 中国の税務局は、10年間の遡及調査を行うことができ、追跡管理期間5年間を含めると、各企業は最長で15年間の調査が及ぶ可能性があります。また、グローバルベースでBEPSに関する活動機運が高まっており、中国の税務局も、この活動に積極的に参加する動きを見せております。中国国内における法改正により、中国の移転価格に関する管理・監督が強化されるなか、各企業は、必要に応じて専門家の指導のもと、日常の経営の中で、移転価格に関するリスク管理、関連取引の合理性への再確認、グループ全体のバリューチェーンの利益配分等の事前レビューを行うことが必要です。
 

※1…「中華人民共和国企業所得税法」によると、企業のその関連者との間の業務取引が第三者間の取引原則(以下「独立取引原則」)に合致せず、企業或はその関連者の課税収入或は所得額を減少させる場合、税務機関は合理的な方法に照らして調整する権限を有する。
※3…2008年以降に発生した取引に対して追徴する企業所得税額については、日毎に利息を加算しなければならない。


(このシリーズは月1回掲載します)

 

筆者紹介

フローラ 曽(Flora Zeng)
Deloitte Touche Tohmatsu香港事務所
日系企業サービスグループ シニアマネジャー 中国税理士
中国における税務と移転価格専門サービスで10年超の経験を有する。多数の日系企業に対し移転価格同期資料の作成、移転価格調査抗弁、移転価格ポリシーの構築等に関する助言を行い、日中APAもサポートしている。2016年10月よりデロイト トウシュ トーマツ香港事務所に駐在し、日系企業に対する各種の税務と移転価格アドバイザリーサービスを提供している。
連絡先:flozeng@deloitte.com.hk
サイト:www.deloitte.com/cn

※本記事には私見が含まれており、筆者が勤務する会計事務所とは無関係です。