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最新号の内容 -20170407 No:1476
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梁長官への評価と「香港独立」批判 

110回 兩會(二つの会) 

 香港メディアの香港政治関連の報道では、香港ならではの専門用語や、広東語を使った言い回し、社会現象を反映した流行語など、さまざまなキーワードが登場します。この連載では、毎回一つのキーワードを採り上げ、これを手掛かりに、香港政治の今を読み解きます。
(立教大学法学部政治学科教授 倉田徹)
 

全人代と全国政協

中央の対香港政策を知る絶好の機会
 

全国政協副主席に就任した梁振英・行政長官(写真・政府新聞処)

 

中国の二つの「議会」

 今回のキーワードは「兩會」です。中国語で「二つの会」という意味の言葉ですが、政治用語においては具体的には全国人民代表大会(全人代)と、中国人民政治協商会議全国委員会(全国政協)のことを指します。全人代は、中国の立法権を行使する国権の最高機関です。全国政協は、主に中国共産党が党の外の人たちと政治を議論する場です。この2つの会議は、いずれも中国にとっての「議会」ということができます。

 しかし、全人代のメンバーは約3000人、全国政協も2000人を超えます。全人代と全国政協の会議は、通常毎年3月初旬から中旬にかけて、北京で開催されますが、これほどの人数が年に一度集まるだけで、国の法律を実質的に議論し、決定することはできません。「党が手を揮い、政府が手を動かし、人代が手を挙げ、政協が拍手する」との言葉もあるように、実際には「兩會」は党の政策を追認する場で、議会としての機能は弱く、むしろ党が指揮し、政府が執行する政策についての、指導者の報告が最も注目を集めます。

 そして、そういった政策の中には、香港に関するものも含まれます。つまり、「兩會」は、中央政府の対香港政策を知る上での、絶好の機会となるのです。


行政長官選挙:余裕の対応?

 今年の全人代は3月5日から15日、全国政協は9日から13日の開催でした。ちょうど行政長官選挙と重なっただけに、「兩會」前の時期に注目されたのは、「兩會」参加のために北京入りした香港のメンバーに対し、選挙に関する中央政府のメッセージが伝達されることでした。

「兩會」開催期間中は、指導者たちが各省の代表団を回ってスピーチを行います。全人代には香港からのメンバーが36人、全国政協には香港からの招待枠などで100人を超えるメンバーが参加しています。習近平・国家主席はかつて中央政府の対香港政策を統括する中央港澳工作協調小組の長を務めており、2009年から2012年にかけて、毎年香港代表団の会議を訪問しました。国家主席就任後は、小組の長となった張徳江・全人代委員長に役割を譲りましたが、今回は習主席が香港代表団を訪ねて、行政長官選挙に対する意思表示をするとの事前の報道もありました。しかし、結果は空振りでした。

 確かに、今回の行政長官選挙については、中央政府の意思とされる情報が信じるに値するものなのかどうか、様々な説が飛び交いました。しかし、前回の行政長官選挙と異なるのは、有力候補同士の激しいスキャンダル合戦のような、不測の事態で日々急変する展開にはならず、曽俊華・前財政長官の支持率が高いとは言っても、林鄭月娥・前政務長官を引きずり下ろし、候補者をすげ替えることを北京に決断させるほどの致命的な差には到らなかったことです。候補者の指名では、林鄭前長官が580名、曽前長官は160名と、大きな差がつきました。

 この情勢であれば、習主席が引きずり出されるまでもありません。北京から露骨な意思表示をして、香港の「高度の自治」を壊したとの批判を受けたり、中央政府が焦っているとの印象を内外に与えたりするよりも、香港の意思を尊重する形をとるほうが、中央政府にとって有利です。習主席の沈黙は、むしろ選挙に対する余裕の表れと言えそうです。


強硬路線の根拠づけ

 しかし、選挙後を展望すると、中央政府が香港に対して、余裕のある寛容な政策をとるとは思えないシグナルが出されました。

 一つは、梁振英・行政長官の全国政協副主席就任です。副主席は総勢22名もおり、香港からのもう一人の副主席である董建華・元行政長官が典型例ですが、基本的には一線を退いた高官に与えられる、実権の伴わない名誉職と見られます。しかし、政治情勢の混乱を招き、再出馬断念に至った梁長官に対して、国家指導者という肩書きを与えることは、少なくとも、全国政協副主席になれなかった曽蔭権・前行政長官とは違う待遇であり、中央政府が梁長官の強硬路線を肯定的に評価していることの証しです。また、7月までの短期間とはいえ、国家指導者が行政長官を兼務するのも初めてのことで、民主派は自治の侵害を懸念していますが、言い換えれば、中央政府の香港の自治に対する配慮が、恐らく返還直後からはかなり減退していることのしるしと言えそうです。

 もう一つは、国家指導者の口から、香港独立に対する批判の言葉が繰り返し発せられたことです。3月5日の全人代開幕日に、李克強・総理が行った政府活動報告の中には、「香港独立には活路はない」との文言が含まれました。総理が公式の報告で香港独立に言及したのは初めてです。また、張徳江・全人代委員長は翌6日の全人代香港代表団の会議で、一国二制度の「ボトムライン意識」を強調し、香港独立はもちろん、「中央政府の権力や基本法の権威に挑戦し、香港・マカオを利用して中国本土に対して浸透・破壊活動を行うこと」は、中央政府のボトムラインに触れる行動であり、中央は決してこれを無視することなく、手を出すと述べました。3月13日の全国政協の閉幕に当たって採択された全国政協常務委員会の活動報告では、断固として香港独立に反対し、香港の政協委員が学校で国情教育を行うことを支援するとの文言も加えられました。

 周知の通り、「独立派」と見なされた若者たちは、去年後半から選挙への出馬を不可能とされたり、訴訟で議員資格を取り消されたりしており、活動は大いに打撃を受けて沈滞しています。しかし、中央政府はこれにまだ満足してはおらず、香港独立の動きを「萌芽のうちに消滅させる」との方針なのです。

 こうした中央政府の方針は、次の行政長官を確実に拘束します。林鄭前長官のマニフェストには、23条立法は論争性が高いため、社会の雰囲気作りを優先させる旨が書かれていますが、「雰囲気作り」にどれほどの時間をかけることを中央政府が許すかは疑問といわざるをえません。

 香港政治の今後5年を決めるのは、3月26日の行政長官選挙よりも、むしろこの「兩會」であったのかもしれません。

(このシリーズは月1回掲載します)


筆者・倉田徹

立教大学法学部政治学科教授(PhD)。東京大学大学院で博士号取得、03年5月〜06年3月に外務省専門調査員として香港勤務。著書『中国返還後の香港「小さな冷戦」と一国二制度の展開』(名古屋大学出版会)が第32回サントリー学芸賞受賞