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最新号の内容 -20170324 No:1475
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曽蔭権 

汚職容疑で起訴され有罪判決が下った曽蔭権・前行政長官に執行猶予なしの禁固刑が言い渡された。


 2月17日、高等法院(高等裁判所)は曽蔭権(ドナルド・ツァン)前行政長官に対する起訴内容の1つである「公職者の行為失当」で有罪判決を下し、22日に同罪について禁固20カ月の量刑を言い渡した。執行猶予は認められなかった。

 曽氏は20日に保釈期限が切れたため茘枝角の拘置所に収監。直後に胸の痛みなどの不調を訴え救急車でエリザベス医院に運ばれ入院していたが、同日は出廷し自身で量刑を聞き届けた。他の起訴内容である「行政長官が利益を受けた罪」については9月にあらためて審理が行われる見通しだ。

 トップを務めた人物が禁固刑を受けるのは香港史上初めて。裁判所には懇願書42通が弁護人を通して提出され、陳方安生(アンソン・チャン)氏や曽俊華(ジョン・ツァン)氏、林鄭月娥(キャリー・ラム)氏、李柱銘(マーチン・リー)氏ら元高官や現職高官、民主派の元議員らが減刑を求めていた。

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 曽氏は1944年、日本統治下の香港で生まれた。6人兄弟の長男で、父親は警察官だった。大学予科を卒業後、香港大学建築学院に合格するも、貧しかったため進学を断念して製薬会社の営業マンとなる。その後、1967年に香港政庁に入庁。二級行政主任、政務主任、フィリピンのアジア開発銀行(ADB)の出向を経て1981年に米ニューヨークのハーバード・ケネディースクールに留学。行政学のマスターを取得した。

 帰国後も政庁でキャリアを積み、プライベートではマカオの老舗菓子店の娘だった妻との間に2人の子供をもうけた。

 1995年には最後の香港総督、クリストファー・パッテンの下、華人初の財政長官に抜擢される。1997年の香港返還前夜、英国からナイトの称号を授与されている。

 返還後のアジア金融危機では公務員の月給を一時的に引き上げるなどの措置を講じた。また、当時金融管理局(HKMA)のトップだった任志剛(ジョセフ・ヤム)氏と連携して投機筋の攻勢から香港ドルを守り、連邦準備制度理事会(FRB)のアラン・グリーンスパン議長(当時)や攻勢を仕掛けたジョージ・ソロス氏から賞賛を受けた。

 2001年にアンソン・チャン政務長官(当時)が個人的な理由で辞職すると、その後を継いで政務長官に就任。2003年に重症急性呼吸器症候群(SARAS)が猛威を振るった際には香港全土で清掃キャンペーンを推進した

 2005年に董建華・行政長官(当時)が健康上の理由から辞任。曽氏は行政長官代理を務めた後、選挙により正式に就任した。行政長官を二期務めた曽氏は、鳥インフルエンザの流行時に大胆な政策を打ち出し、交通インフラのさらなる整備や歴史建造物の活用を含めた再開発を推し進めるなど実績を残した。
 

猫狗条例

行政長官在任中はさまざまな政策を推し進め、その手腕を大いに発揮した曽氏(左)だったが(右は許仕仁氏)

  しかし、退任直前の2012年に財界との癒着疑惑が次々と持ち上がった。プライベートで参加したマカオへの豪華クルージングや東亜銀行の会長夫婦と自家用機を使い日本へ紅葉を見に出掛けたことなどが接待ではないかと疑われた。さらに退任後に居住するため深‮&‬`市で賃貸した高級住宅には業者への利益供与が絡んでいるとみられるなど、数々の問題が取りざたされ、汚職を取り締まる独立機関の廉政公署(ICAC)が捜査に乗り出した。

 深圳の高級住宅は福田区の香蜜湖に近い東海花園君豪閣で、多くの富裕層が住み家賃は数万〜十数万元といわれる。曽氏が賃貸したのは最上階36階を含む3フロア計630平方メートルで、屋上庭園や270度を展望できるガラス張り浴室など豪華な内装を施している最中だった。曽氏は年間80万元で3年間契約したというが、その家賃の妥当性や内装費など不明瞭な点があまりにも多かった。

 建設したデベロッパー深‮&‬`東海集団の黄楚標・会長は「深圳の李嘉誠」とも呼ばれ、不動産事業を手がけるほかに香港のデジタル放送局・香港数碼広播の主要株主でもある。このため曽氏とは放送ライセンス発給をめぐる癒着が疑われ、ICACが捜査を進め、2015年10月 、曽氏は公職者の行為失当などでICACから正式に起訴された。曽氏には今後、「行政長官が利益を受けた罪」の裁判が9月に控えており、その判決が注視される。

 大物政治家の有罪判決では「香港史上最大の汚職」と言われた元政務長官の許仕仁(ラファエル・ホイ)氏の収賄事件がある。許氏には2014年に禁固7年半と特区政府への1118万2000ドルの返還が言い渡されている。また、許氏に多額の賄賂を渡した新鴻基地産発展(サンフンカイ・プロパティーズ)の郭炳江(トーマス・クオック)合同会長や香港取引所(HKEX)の関雄生・元高級副総裁にも懲役と罰金刑が下っている。

 許氏は2005年の政務官就任前から計1968万2000ドルの賄賂を郭氏から受け取っていた。生活は派手で、在任中に若い上海人女性と不倫関係にあった。許氏の裁判では当時行政長官だった曽氏をはじめとする多数の政財界人が情状酌量を求める嘆願書を寄せ、判決内容は減刑されている。
 

(この連載は月1回掲載します)