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最新号の内容 -20170101 No:1470
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新春特別インタビュー
指揮者ズヴェーデンに聞く
香港フィル音楽監督

香港フィルハーモニー音楽監督兼首席指揮者ヤープ・ヴァン・ズヴェーデン

  創設から42年目のシーズンを迎える香港フィルハーモニー管弦楽団(香港フィル)。2012年からその音楽監督を務めるヤープ・ヴァン・ズヴェーデンは、2018/19シーズンからニューヨーク・フィル音楽監督に就任することが2016年1月に発表され、同年6月には香港フィルとの契約も延長。2021/22シーズンまで香港フィル音楽監督を務めることになった。音楽監督就任の経緯や、今後の展望などについてズヴェーデンに話を聞いた。 (聞き手・綾部浩司/取材協力と写真提供・HKPhil/文中敬称略)

 

——音楽監督就任前、2006年に香港フィルと初共演した当時の印象、2012/2013年シーズンより香港フィル音楽監督を受諾した理由、そしてニューヨーク・フィル音楽監督就任決定後に香港フィルとの契約期間を延長することになったきっかけを教えてください。

 初共演の際に強く感じたのは、さらに成長する可能性があるオーケストラということです。楽員それぞれの才能の芽が信じがたいほど素晴らしいオーケストラだと印象づけられました。自分がそのようなオーケストラに水を注いでいけば、必ずその芽が実をつける、と思いました。香港フィルは限りない成長の可能性を秘めているということが受諾に至った最大の理由です。

 音楽監督就任後、香港フィルは毎日・毎週・毎月そして毎年成長を続けています。その結果現在では香港市民にとって素晴らしいオーケストラ、そして世界にとって素晴らしい音楽大使となっています。

 ニューヨークフィル音楽監督との契約と重複して今回香港フィルとの契約を更新することになったのは、このオーケストラの将来がとても明るく、私たちがこれから共に音楽を創り上げることでさらに成長し続けていくと思うからです。今後香港フィルは世界で最も優れたオーケストラのひとつになるでしょう。(筆者注:ズヴェーデンは香港フィル音楽監督就任会見の際「香港フィルをアジアのベルリンフィルに育て上げる」と述べた)
 

——音楽監督として特に香港フィルに求めていることはどういう点でしょうか? 

 オーケストラはカメレオンのようでなければならないと考えます。つまりモーツァルト、マーラー、ワーグナー、現代音楽など、それぞれ異なった音楽スタイルに対して変化する必要があります。香港フィルの大きな特徴は、そのような音楽スタイル変化が非常に柔軟である点かと思います。

 指揮者としては、まず自分が作曲家にいかに近づいていくか、そして自分もカメレオンとなっていかにオーケストラに指示・トレーニングするかがとても重要です。そのため自分には10万パーセントの事前準備を課しています。当然それはオーケストラと指揮者が作曲家と観衆への義務だからと考えるからです。

 芸術家としての真摯な心と豊かな才能が無ければ音楽に対して自由になれないし、素直になれません。
 

香港フィルの展望を熱く語る。29年振りの日本公演(4月)の話題も

——1月19日と1月22日にワーグナーの『ニーベルングの指輪』の「ジークフリート」が上演されます。この大曲『ニーベルングの指輪』の全曲は一昨年から毎年1作品ずつ4年をかけて、演奏会形式で演奏され、ライブCD録音(NAXOS)もしていますが、このような計画はどうやって決まりましたか?

 このプロジェクトは自分が決めました。『ニーベルングの指輪』全曲を演奏することは素晴らしい音楽家やオーケストラの向上には非常に効果的だと考えます。オーケストラはさらにオールグランドとなり、音楽家としては多様な音楽スタイルを広げることになります。
 

——香港フィルのシーズン・プログラムを組む際にどのような点を重視されていますか?

 いくつかのハイライトを入れること、そして作品のバランスですね。ハイライトとしては昨年からスタートしたワーグナー・リング・サイクル、今年からはマーラー全交響曲サイクルが始まりました。作品のバランスですが、取り上げる曲がロマン派の作品ばかり、もしくは現代音楽ものばかり、ではオーケストラにとっても観衆にとっても良くありませんので、シーズンを通してバランスのとれた曲目を取り上げるようにしています。

 アーティスト・イン・レジデンスの開拓、香港や中国の若手作曲家コンクールなど、さまざまなアイデアが浮かんでいるのですが、家族と一緒で息子が娘がこんな風に育ってくれたらと思い浮かんでも、必ずその通りにはいかないものですから、なかなか難しいものです。

 香港フィルを語るヤープの言葉すべてに彼の音楽と同様の強い説得力がみなぎり、コンサートを聴いているかのようなインタビューだった。