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最新号の内容 -20170101 No:1470
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 日本中が興奮と感動した2016年開催のリオデジャネイロ五輪。史上最多を更新する41個と、日本選手のメダルラッシュに沸いた。そのなかでも柔道男子は7階級すべてにおいてメダルを獲得、実に52年ぶりの快挙となり“お家芸の復活”と注目された。こうしたなか、外務省は「2016年度スポーツ外交推進事業」として昨年10月9〜12日、柔道全日本男子監督の井上康生氏(東海大学体育学部武道学科准教授)、谷本歩実・コマツ女子柔道部助監督、秋本啓之・了徳寺学園柔道部コーチの3人を香港に派遣し、香港柔道総会主催の柔道講習会や香港バプティスト大学における講演会に講師として参加、香港オリンピック協会や香港日本人学校を訪問、スポーツにおける国際協力と国際交流の促進を図った。今回は日本・香港間の友好関係の促進と2020年東京五輪・パラリンピックに向けた今の思いについて来港した井上康生・監督に話を伺った。(インタビュアー・楢橋里彩)

【プロフィール】 1978年宮崎県都城市生まれ。東海大学体育学部卒業。2000年シドニー五輪100キロ級で金メダル、世界柔道選手権3度優勝。2004年アテネ五輪で日本選手団の主将に選ばれたが、準々決勝、敗者復活戦で一本負けを喫する。2008年現役引退。その後イギリスに2年間の指導者留学の後、2011年東海大学柔道部男子副監督に。2012年、全日本男子代表監督に就任。リオデジャネイロ五輪では7階級全てでメダルを獲得、2020年東京五輪の男子柔道監督の続投が決定している。 


——今回は初めての来港ですか?

 我々3人とも初めての香港です。初日から観光も楽しみながら充実した時間を香港で過ごせています。街の雰囲気も喧騒もとても新鮮でいいですね。特に食事に関してはとても身近に感じます。

 飲茶が好きなので、本場のものが食べられて嬉しいですね。滞在中に地元の大学で講演会を行ったが印象に残っているのが日本語を上手に操る人が多いことです。しかもとても親切。初めての香港とは感じられないほどでした。

井上監督とインタビュアー

道場の様子

——リオ五輪が終わってしばらく経ちましたが振り返っていかがでしょうか。

 香港に来る2週間前に2020年の東京オリンピックの監督を続投することが決まりましたので正直、リオ五輪とは異なった環境下、またプレッシャーのなか新たに闘わなくてはいけません。そういう意味ではさらに“新たな危機感”を感じながら、気持ちを引き締め直しています。監督として指導する立場としては仕事に関してやりがいを感じたり、選手とともに成長させてもらっている部分は多くあり、同時に喜びを感じています。ですが基本的にはプレッシャーを感じながら毎日戦っているのが現状ですね。リオ五輪が終わって正直ほっとした部分はあるが、それは日々、厳しい環境のなかで生きているからこそ感じるものだと思っています。
 

——今回のメダルを全階級獲得というのは1964年東京五輪以来の大快挙ですが、この結果をどのように受け止めていますか

 選手たちにはよく頑張ったと褒めました。1964年開催の東京五輪では4階級しかなかったので、今回の7階級すべてでメダル獲得でいたのは世界的にみても初めてではないでしょうか。これに対しての誇り、選手に対しての敬意は深くもっています。ただ、一方で一監督としては今回のオリンピックの結果は満足はしていません。
 

——といいますと?

 もっと一人一人の選手たちの能力を引き延ばせたはずだという‘悔い“が残っているのです。幸いなことに次の東京五輪監督も続投が決まったので、そこで新たな挑戦と目標を立て直していきたいと思っているところです。
 

——今回リオ五輪では、日本柔道を復活に導いた監督の柔道の“立て直し”などについても注目されましたがその点はいかがでしょうか。

 世界の柔道は常に変化と発展をし続けているなか、必要なものはどんどん取り入れていこうという方針で動きました。例えばモンゴル相撲やブラジリアン柔術などといった海外の格闘技はそれぞれの文化で生まれたものです。日本の柔道と異なる部分も理解したうえで今の“新しい形の柔道”なんだと思います。ですので強化トレーニングの中に取り入れてきました。

 さらに私が一番大事にしたのは、選手それぞれの良い部分を引き出すことでした。人それぞれ短所はあるので、日本人だからこうだ、日本人だからこれは弱点だと一括りすることは到底できないですから。

 これは柔道の世界だけでなく一般的にもいえることですが、目をそらさずに己の弱点部分をどこまで見つめられるか、知ることができるかということが最も大切なことだと思っています。そしてそれぞれの素晴らしい点、個性をいかに伸ばしていけるかということです。

 格闘技の知識を吸収するだけでは到達しないものであり、その“知識”をいかに自分しかつくれない想像力、たどり着けない世界を拓いていけるか、それが個性を伸ばすことにつながると思っています。

 厳しい世界ではありますが、常に「平均以上」にあげていかなければ安定した勝利は勝ち取れません。勝ち続けるために必要なことはとことん自分を知ることだと選手たちには常に言い聞かせています。

柔道場のみなさん

——東京五輪まであと3年、それまでにやることは多いですね。

 きっとあっという間でしょうね。この期間にどれだけやるべきことをやれるかに尽きると思います。男子柔道に関しては現段階では、土はしっかり耕され土台はできていると確信しています。そして次の東京五輪に向けて新たに種を蒔き、水を与え、太陽を浴びせ、3年後に大輪の花を咲かせられるか。その準備を着々としていきます。
 

——香港では半世紀にわたって「柔道館」が運営され、多くの生徒が学んでいますが、今後の日本の柔道がどのような発展していくことを願っていますか

 特に私が願っているのは子供たちに対し、柔道が勝負の世界だけに存在するもの、オリンピックでメダルを取ることに意味があるものではなく、柔道を通した所作、精神を学ぶことが、いかに社会貢献につながるものか、伝えていくことです。そのために今後も様々な取り組みをしていきたいと思いますし、一柔道家として少しでも尽力できるよう、努力し続けていきたく思います。

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世界一家賃の高い柔道場

香港柔道館館長岩見武夫氏

 今回取材したのは銅鑼湾にある「香港柔道館」。世界一高い場所に位置する道場として知られているこの道場ではこの日は50名近い生徒が集い、井上氏らによる背負い投げや内股、さらには寝技などのかけ方をこまかく実演しながら熱心な指導が1時間にわたって行われた。参加者の一人30代の男性は「井上監督の現役時代を見て憧れて柔道を学び始めた。今回直接指導を受けられ貴重な体験をできた」と嬉しそうだった。香港柔道館館長であり柔道の伝道師でもある岩見武夫氏は、学生時代は柔道、レスリング選手としても様々な国際試合に出場してきている。

井上監督といっしょに 

 50年前、香港は柔道の指導者もおらず、手が届かない未知のスポーツだった。こうしたなかで近所の子供たちに教え日本のスポーツ文化を伝えていけたらと始めたのが最初のきっかけだったという。「まさかこんなに長く続くとは当時は想像もできなかった」。現在は21か国、6歳から70代までおよそ150名が所作、礼儀作法を学ぶ。今回の井上監督の来港については「世界トップの方が来てくれて非常に光栄だ。生徒たちにとっても大きな刺激になったと思う」と語った。今後も積極的に世界の柔道家を招聘し様々な国際交流の架け橋になる活動をしていきたいと意欲的だ。