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最新号の内容 -20161216 No:1469
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細川俊夫作曲のオペラ
『松風』アジア初演に喝采

『松風』アジア初演

舞台の天井から宙づりになって歌う松風(半田美和子)と村雨(キム・ジヘイ)

 

  世界で活躍する作曲家、細川俊夫のオペラ『松風』が10月22・23日、香港カルチュラルセンターでアジア初演された。世阿弥の能『松風』の物語を踏襲した同オペラは貴族(在原行平)を愛した美しい姉妹(松風と村雨)が亡霊として現れ昇天する心の平安や愛が描かれている。

 

 2011年のベルギーでの初演を皮切りに欧米各地で上演されているが、観衆の反応について細川は、「ヨーロッパのリアリズムの演劇からみると、『松風』はいわゆるゴーストストーリーで、理解困難かもしれないと危惧しましたが、誰もが抱える魂の苦しみや悲しみ、それらを乗り越えて魂を浄化していくこと、それは非常に普遍的で、ギリシア悲劇にも似ており、観客によく伝わったようでした」と語った。

 

『松風』アジア初演
歌・演出・ダンスが融合した斬新な舞台

 

 作曲家として自身の作品がさまざまな演奏や演出がされることについては「自分が意図したものと全く違った表現になっている、と感じる時もあります。でも素晴らしい演奏や演出をされると、自分が思っていたよりもっと上にいく喜びがあります。今回の『松風』の演出のように想像もつかなかったようなものが出来上がることは、私の次の仕事にも刺激を与えてくれます」と述べていた。

 

 ドイツの演出家サシャ・ヴァルツの『松風』の演出・振付の特徴は能と歌・演出・ダンスの融合だ。冒頭に松風と村雨が暗闇に張り巡らされた網を、蜘蛛が這うようにして2人が降りてくる。舞台の天井から宙づりになった主役の歌手たちが魂の切ない二重唱を奏でる、といった通常のオペラにはみられない演出と歌手の声の素晴らしさには度胆を抜かれた。

(文中敬称略/取材と文・綾部浩司/写真提供・康楽及文化事務署)