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最新号の内容 -20161202 No:1468
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第3四半期GDP1.9%増

2期連続で改善

クリスマスシーズンを迎えて個人消費はまずまずの伸びを見せている

 特区政府は11月11日、第3四半期の経済統計と通年見通しを発表した。第3四半期の実質域内総生産(GDP)伸び率は前年同期比で1・9%となり、前期の同1・7%からやや拡大。市場で予測されていた1・5%を上回り、2期連続で伸び率が拡大するなど改善が見られた。だが香港が経済成長を維持するには中・長期的に大きな問題を抱えている。(編集部・江藤和輝)
 

トランプショックの影響は

 第3四半期の世界経済の成長は緩やかな伸びにとどまったが、先の深刻なリスクはすでに減退、アジアの輸出回復に伴い香港の輸出も第3四半期に前年同期比1・9%増となった。雇用と収入も安定しているため個人消費は同1・2%増まで上昇。投資は4期連続の下落から上昇に転じ同6%増の大幅な回復となった。

 1〜9月のGDP伸び率は同1・4%で先の予測にほぼ合致し、第4四半期はさらなる成長が見込めることから、通年伸び率予測は8月に発表した1〜2%の中間である1・5%に修正した。一方、消費者物価指数(CPI)伸び率(基本物価上昇率)は第2四半期の2・3%から第3四半期は2・1%に縮小。通年伸び率予測は8月に発表した2・2%から2・3%にやや上方修正した。

 中国銀行(香港)の蔡永雄・高級経済研究員は11日に発表したリポートで、米国や中国本土を含む外部経済が徐々に回復していることや、金融・商業サービスが観光業の打撃を相殺していることを挙げ、通年のGDP伸び率は先に予測していた1・6%を達成できるとの見通しを示した。一方、恒生銀行の薛俊昇・首席エコノミスト代行は同日、GDP伸び率予測をもともとの1・3%から1・4%に上方修正した。ほかの機関のGDP伸び率予測は、国際通貨基金(IMF)が1・4%、香港大学が1・5%、ゴールドマン・サックスが1・2%などとなっている。

 注目される不動産市場だが、梁振英・行政長官らは4日、住宅市場の過熱抑制策の強化を発表した。政府は住宅物件の売買契約で物件価値に応じて課す従価印紙税を13年2月から実施している1・5〜8・5%から一律15%に引き上げ、5日午前零時から施行した。ただし政府は住宅を所有していない香港永住者の住宅購入を優先する政策を続けるため、購入者が永住権を持ち、取引時に香港で他の住宅物件を保有していない場合は新税率は適用しない。運輸及房屋局の張炳良・局長は、住宅価格指数が4月から6カ月連続で上昇し累計上昇幅が8・9%に達したことや、月間上昇幅も4月の0・7%から9月は2・8%に拡大したことを挙げ、「不動産バブルのリスク悪化を防ぐため政府は果断な行動が必要で、さもなくばマクロ経済と金融システムの安定を脅かし、社会への破壊力は相当大きい」と強調した。

 9月の住宅価格指数は295・5で、ピークに当たる15年9月の306・1との差はわずか3・46%。返還バブルのピークである1997年10月の172・9に比べると70・9%高い。抑制策発表から最初の週末に当たる5〜6日の新築物件の取引は前週末に比べ58%減、翌週末の12〜13日は同78%減、その翌週末の19〜20日は同30%減と効果を表し、取引量は過去9カ月で最低となった。

 過熱抑制策の強化で不動産業界では住宅価格が短期的に3〜5%下落するとみられていたが、米大統領選挙でドナルド・トランプ氏が当選した途端、金融市場の不安定性が増して資金がアジアに向かい、特に香港の不動産市場に流入し住宅価格が上昇するとの見方に変わった。英国の欧州連合(EU)離脱が決まった際にも香港の不動産市場で資金流入が加速した例もあるためだ。だがその後、資金の流れは米ドルに集中するなど、ことごとく予想を覆す動きが見られている。
 

コンテナ港トップ10脱落も

 中国銀行(香港)の黄思華・経済研究員は10日に発表したリポートで、トランプ氏の当選による香港の貿易への影響は軽微との見方を示した。米国は香港の2番目の貿易パートナーで、15年の貿易総額は709億米ドル、うち輸出は439億米ドル、輸入は270億米ドルとなっている。トランプ氏は選挙戦で保護主義的な貿易政策を掲げ、実現すれば香港の輸出は下振れ圧力が増す。しかし保護主義は産業界の経営コストを増やし、現行の国際貿易秩序を破壊するだけであり、実行は難しい。このため短期的には香港と米国の間の貿易に大きな影響はないとみる。

 香港港口発展局が発表した10月のコンテナ取扱量は前年同月比12・4%増の166万6000TEU(20フィート標準コンテナ換算)。9月の同0・7%減から大幅な増加に転じ、14年7月から27カ月連続の下落に歯止めがかかった(ただし今年8月は同2・9%減から同5・1%増に修正)。10月は沖荷役作業や内航輸送でのコンテナ取扱量が前年同月比30・6%増の伸びを見せたことが影響した。

 しかし恒生管理学院は最新の研究報告で、中国の沿海運輸権開放が香港のコンテナ運輸業にさらなる打撃を与えると警告した。中国海商法では沿海運輸権により中華人民共和国の国旗を掲げた貨物船だけが中国本土の港湾間で海上輸送を行うことができる。1国2制度の香港はこの制約を受けないため、外国船が香港と本土の港湾を往来することが可能で、中継港として有利な立場にある。だが同報告は、すでに上海の自由貿易試験区で沿海運輸権の段階的な開放が始まっていると指摘。全面開放されれば香港は5年以内に珠江デルタ以外のすべての中継貨物を失い、貨物量は対15年比で14%減、世界コンテナ港ランキングでは現在の5位から8位に後退すると予測。遠くない将来にはトップ10から脱落するともみている。

 香港には長期的に労働力の問題も立ちはだかっている。団結香港基金は10月末、高齢化に向けた人材導入に関するリポートを発表。香港の総人口は2043年の822万5000人がピーク、労働人口は19年の366万3000人がピークで、GDP伸び率は22年から毎年0・3ポイントずつ低下すると指摘。このためシンガポールの移民政策をまねて教育水準の高い移民を誘致するほか、米国のグリーンカードのようなビザシステムをつくり本土住民がネットで申請できるようにすることを提案。人口政策が変わらない場合、64年の総人口は720万人、労働人口は312万人だが、毎年1万5000人の移民を導入すれば総人口は810万人、労働人口は360万人で維持できると推計している。経済は改善に向かっているとはいえ将来的な問題は山積したままだ。