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最新号の内容 -20161202 No:1468
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 経済のグローバル化が進む中、自らの組織のために粉骨砕身するリーダーたち。彼らはどんな思いを抱き何に注目して事業を展開しているのか。さまざまな分野で活躍する企業・機関のトップに登場していただき、お話を伺います。
(インタビュー・楢橋里彩)
 

進出から半世紀、真珠のパイオニア

 

インタビュー The Executive's Voice

御木本眞珠寶有限公司 
董事総経理 熊井敏之さん

【プロフィール】

 1946年長野県出身。1970年に上智大学外国語学部英語科を卒業後、松下電器産業株式会社に入社。1986年にPanasonic UK Ltdに、1996年には Matsushita Graphic Co., Ltdに赴任。2001年より株式会社ミキモトに入社。翌年2002年より子会社の御木本眞珠寶有限公司董事総経理に就任、現在に至る。

 

——真珠養殖発明から123年を迎えますが、長い歴史の中でゆるぎない人気の秘訣は何でしょうか。

 先代の御木本幸吉の基本的な考え方を時代の変遷の中で忠実に守ってきたというのは大きいですね。そして現状維持にとどまることなく常に「進化」と「挑戦」をしてきた賜物ではないかと思います。
 

——御社が世界初の真珠養殖に成功したのは1893年。業界的に革命ともいえるでしょうね。

 大きな功績を残してくれたことは、今ここにいる私たちにとっても誇りです。今も変わらない我々のポリシーは「真珠の素材をいかに生かせるか」ということです。大量生産する商品も場合によってはありますが、弊社の商品は値段の上下に関わらず素材ありきです。素材がいかに美しく輝きのある商品に生まれ変われるか、加工技術が一番大事だと思っています。手作業でありCADでのデザインを作っていくなかで、いかに世界に受け入れられるか、またその時代に受けるデザインを作れるかなんですね。また弊社は製造して直営店のみで販売展開する「直営」にこだわっています。お客様のご要望に応じたものを作り、またどのように身に着けるべきかというようなアドバイスをさせていただく立場でもあります。
 

——取り扱う真珠はどのようなものでしょうか。

 代表的なところでいうとアコヤ真珠などですね。また南洋真珠には白、黒、金色があり、ジュエリーで使われている種類は多数あります。特にこの業界は「希少価値」が問われます。富裕層の方々はこうした商品をお求めになることも少なくありません。特に中国本土のお客様は「世界に一つしかない」という商品にこだわる方も多いんですよ。


——御社が香港に進出したのが1964年、およそ半世紀ですね。

 当時は香港で生産して米国などで販売する「卸し」を中心に事業展開していました。特に香港ドルと米ドルがペッグしているため、値段、コストが安定しているということもあり米ドルとリンクしている国に出荷するという拠点だったんです。これは今から10年前まで続いていましたね。香港での店舗展開はここ最近です。現在は香港は7店舗、マカオは1店舗展開しております。


——2010年にはCEPA(香港と中国本土の経済貿易緊密化協定)の認定を宝飾業界として香港で初めて認定されていますが、ビジネスにでどのような影響をもたらしましたか。

 CEPAにより香港製のジュエリーは中国の輸入関税がゼロになり、本土進出が可能となりました。本土で店舗を展開することにより当社ブランドの認知度が高まり、その後、本土のみならず、日本、香港その他海外で中国人のお客様が当社製品を買って頂けるきっかけとなりました。


——今、日本から香港への真珠の輸出量は農林水産物の約13%でトップを占め、香港で行われる展示会では日本のブースに人だかりができるほどですが、その点はいかがですか。

 翡翠やダイヤなどが圧倒的な人気だったのですが、2012年ごろから日本産の真珠は普及が目覚ましいと感じています。日本商品に対する安心、安全への評価を受けて、ミキモトの真珠製品をお買い求めるお客さまの数が急速に増えた実感があります。品質の良さに加え、きめ細かく現地の嗜好を調査して商品をラインアップするなど等が評価された結果だと思っております。


——香港の購入者は若年層が多いそうですね。

 20代の方も多くお越しになりますね。ですので中華圏ではよりカジュアルに若い方が気軽に身に着けつけられるような商品を取り揃えています。また香港では現地の若手デザイナーも多数起用しておりまして、中華圏ならではの伝統文化を取り入れて表現したジュエリー商品を販売しています。最近販売しているもので断トツ人気の商品に「8」を表現したものがあります。しかも真珠は8ミリ、そして88個の真珠を使っているという徹底ぶりです。値段は8万8000ドル(約115万円)と、すべて8に関連した商品に仕上げました。これが予想を遥かに上回り、特に香港ではベストセラーです。

(この連載は月1回掲載します)

 

【楢橋里彩】フリーアナウンサー。NHK宇都宮放送局キャスター・ディレクターを経てフリーに。ラジオDJとして活動後07年に中国に渡りアナウンサーとして大連電視台に勤務。現在はイベントなどのMC、企業トレーナー、執筆活動と幅広く活躍中。

ブログhttp://nararisa.blog.jp/