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最新号の内容 -20161021 No:1465
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▶107◀
中国労務③
中国の等級制度

 

 前回は中国(大陸側)における人事制度の概要について述べました。今回は人事制度の3つのフレームの1つである、等級制度について述べます。
(NAC名南広州事務所 福家 大輔)


職能資格制度に基づく等級制度と職務資格制度に基づく等級制度
 


日本と中国における等級制度の違い

 中国における等級制度の果たす役目は「従業員の役割、責任、能力を基準に社員一人ひとりに等級を付けること」となります。組織における各従業員の現在位置を確認するためのものです。ここで前回述べた、日本で長年使われている職能資格制度と、一般的に中国でフィットするとされる職務資格制度が再登場します。仮に日本の職能資格制度をベースに中国で等級制度を作成した場合、等級は従業員個々の「保有能力」を基準に決定されるため、上記の等級制度の定義のうち「従業員の役割」の部分が大きく薄れることとなります。日本の人事制度の場合、企業によっても変わるとは思いますが、基本的に同じ組織内のすべての従業員を1つの等級表で管理されるケースが多く、もし分かれている場合も総合職と専門職といったものにとどまる場合が少なくないかもしれません。これは従業員の持つ「保有能力」に重きを置いている、つまり職能資格制度に基づいているためです。翻って中国の等級表に目を向けますと、等級は従業員の役割、つまり職務(仕事)にひも付けられたものとなっています。そのため、個々の従業員の担当職務が分かれば自ずと所属する等級(の範囲)も判明することになりますし、等級を管理する際には基本的に職務別に管理することとなります。(※職能資格制度に基づく等級制度と職務資格制度に基づく等級制度の違いについては別表をご覧ください。)

 なお、中国で言う生産型企業(メーカー)の場合、製造担当部署、バックオフィス、専門性の高い職務を担当している部署等で等級体系をどのように管理されるか悩まれることも少なくないかもしれません。どのような管理方法が組織にフィットするか一概には言えませんが、いずれにしても、特に製造担当部署や専門性の高い部署に所属する従業員も含め、すべての従業員が個々のキャリアパスをしっかりとイメージ出来るものであることが望ましいといえます。そのためには、(現時点で該当者がいないとしても)高級管理職といった等級まで、ある程度組織の未来を見据えて道筋を付けておくことが良いかもしれません。そうすることで、特定の部署や職務を担当する従業員のモチベーションが低下するリスクを防ぐことが可能となるかもしれません。

 職能資格制度に基づく等級制度と職務資格制度に基づく等級制度の見た目の大きな違いとして一般的に2つが挙げられます。1つは前者の場合等級に対応する職位名が「部長(職)」、「課長(職)」といったものにとどまるのに対し、後者の場合「営業部長(職)」、「財務課長(職)」といった、より明確なものとなっている点で、もう1つは等級の定義(要件)が前者はどんな能力を保有しているかのみにとどまるのに対し、後者は一般的にそれぞれの職務に対応する職務記述書(ジョブディスクリプション)が用意されている点です。

 

ジョブディスクリプションとジョブローテーション

 職務記述書(ジョブディスクリプション、中国語では崗位説明書等)とは、それぞれの職位について詳細な洗い出しをしたものです。一般的に洗い出しの必要な項目としては、在職条件・職務内容・権限と責任・業務を遂行するために関わる上司と部下等多岐にわたります。それぞれの項目について恣意的な要素を除いて現状把握をし、それに基づき作られたもので、いわば丁寧に書かれた履歴書・職務経歴書のような、それを読んだ時にどんな職務なのかが隅々までイメージできるプロフィールのようなものです。

 前述の通り日本で職能資格制度による等級定義を作成する場合、ポイントはその人がどのような能力を持っているかとなるため、詳細なジョブディスクリプションを作成しなくても問題ない場合がほとんどです。しかし職務資格制度に基づく場合、基本的に等級と職務はイコールの関係となるため、しっかりとした等級制度を構築するためには、理想としては関係するすべての職務についてジョブディスクリプションを作成する作業が必要となります。また、もし組織の拡大に応じ部署と職位が増えた場合、それらについても個々のジョブディスクリプションを作成する必要があります。さらに場合によっては完成したそれぞれのジョブディスクリプションを日本語から中国語(またはその逆)、時には英語等へ翻訳する作業も必要になるため、多くの時間と手間がかかります。このように組織の規模によっては膨大な作業となるため、着手に二の足を踏まれる管理層の方も多いかと存じますが、その場合先ずは企業における重要度の高いポジションから開始されることをお勧めします。整備されたジョブディスクリプションがあるならば、等級制度は確固としたものとなります。

 ジョブディスクリプションをしっかりと常に最新のものに整備しておく副次的な効果として、退職や解雇による欠員補充の必要が生じ、直接的・間接的に関わらず人員募集をする際に、ジョブディスクリプションを基に正確且つ速やかに募集要項を作成することが可能となります。また、外部へ公開する募集要項と入社後実際に担当する職務内容にズレが起きにくくなりますので、採用・勤務開始の段になって「こんな仕事があるなんて聞いていない」と言われる労務リスクを未然に回避する効果もあります。なお、このようなケースで労働紛争に発展した場合、例えば人材紹介会社等を通じて公開された募集要項の内容も一定の効力を持つとされていますので、ジョブディスクリプションを作成される・されないに関わらず、人材の募集をかけられる際には、特に職務内容について、出来るだけ正確且つ詳細なものをご作成されることをお勧めします。

 日本ではゼネラリスト育成の観点からも採用されることの多いジョブローテーションですが、現実的に中国でジョブローテーションを実施することは困難で、大きな要因はジョブディスクリプションの部分でも述べた通り、基本的には等級と職務がイコールであるためです。もしジョブローテーションにより担当職務が変わった場合、従業員の現在位置も変わってしまうこととなりますし、その上等級にひも付いている給与も変わってしまいます。また、担当職務を変更する場合、大きなけがや病気のため職務の遂行が困難になった場合や、客観的状況に重大な変化が生じた場合等特殊な状況を除き、従業員と事前に協議した上で、書面で職務変更の変更内容に企業と従業員双方が合意した旨残しておかなければなりません。これは勤務地が大幅に変わる転勤のケースも同様ですので、注意する必要があります。

 次回は人事制度のフレーム3つのうち2つ目の給与制度について述べます。

(このシリーズは月1回掲載します)


福家 大輔 (ふけ・だいすけ)

NAC名南コンサルティング広州事務所/ マネージャー
同事務所にて人事労務コンサルティング、および付随する会計税務コンサルティングを担当。日系大手人材紹介会社での豊富な経験を経て現職。関西外国語大学卒。
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