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最新号の内容 -20160916 No:1463
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熊本復興と香港
①熊本市経済観光局


 今年4月に発生した熊本地震から数カ月が過ぎた。九州は香港市民にとって人気の観光地でもあり、今回の震災をめぐっても香港とはさまざまなつながりが見受けられる。復興作業が進む現地からリポートする。(インタビュアー・楢橋里彩)


 九州熊本地方を襲った巨大地震「平成28年熊本地震」から5カ月を迎える。最大震度7を2度観測するという、地震観測史上初めてのケースとなった。復興までに長い時間は要するものの香港からも多くの支援の声があがり勇気づけられていると熊本県の関係者は話した。

 香港からの九州エリアへの観光は近年、訪日観光者数を伸ばしており、特に熊本県はゆるキャラ「くまモン」効果で人気が高い。昨年熊本県には177万人が訪れた。こうしたなか、震災直後の4月21日には、香港日本文化協会による「熊本加油 がんばれ」募金活動がスタート、募金箱は香港市内のスーパーや日系飲食店を中心に120店舗、338カ所に設置された。短期間にもかかわらず、義援金は100万209香港ドル、日本円で約1400万円にのぼった。大半は香港ドルだったが、中には人民元、米ドル、台湾ドル、フィリピン・ペソ、インドネシア・ルピアなど香港以外の通貨による支援金も。さらに5月8日には香港市民の発案でチャンリティーランが開催され、700名以上が参加するなど九州・熊本へのサポートする声は多い。未だ再開されていない唯一の熊本〜香港直行便(香港エクスプレス)だが、取材中には、熊本を応援しようと香港から旅行で熊本にきた観光客にも出会った。

 今回の特集は3回にわたり、震災後の熊本の現状と取り組み、また課題点などについて各分野の方に話を伺う。1回目は、熊本市経済観光局をたずね、今の様子と観光業として大きな打撃を受けている代表的な観光地「熊本城」についての現状と今後の見通しなどについて伺った。


インタビュー①
熊本市経済観光局
観光交流部熊本城総合事務所 
所長 河田日出男さん

熊本市経済観光局の河田日出男さん

——安土桃山時代末期に建てられた熊本城ですが、どれほどの被害を被っているのでしょうか。

 熊本城は築城以来、明治22年の地震など、数度の地震被害を受けていますが、今回の被害は最大で、日本の城郭史上からも最大規模の被災となります。国の特別史跡は61件あり、そのうち城郭は15件で熊本城は、そのうちの一つで、51ヘクタールの指定面積があります。石垣の面積は立面で7万9千平方メートルありますが、このうち約10%の石垣崩落があり、膨らんだり緩んだりした石垣を含めると約30%の石垣については積み直し工事が必要となります。このほか、石垣上にある重要文化財13件すべてが倒壊や半壊、傾きなどの被害があります。また、現代に復元していた建造物20棟すべてに傾きや壁の剥落、屋根瓦破損などの被害があります。

——崩落個所も今回は多いですね。

 石垣の崩落は大小合わせて50カ所あります。崩落を免れた石垣もその上部が大きく膨らんだりしていて、とても危険な状態です。

——実際に熊本城に行ってみてきましたが、崩落した石にはすべてに番号が書かれているのですね。

 崩落した石材に番号があるのは、文化財として修復した箇所であり、石垣の解体に際して各石材に固有な番号をつけることで、元の場所に戻すときの重要な情報となります。今回の地震で崩落した石材に番号がないものは、築城から明治までの石垣工事で積まれていた石垣で、今回初めて崩落した個所となります。崩落した石材は元の場所に戻すのが原則で、落下地点を記録しておいて元の場所を推定することになります。番付はその記録作りの基本的作業となります。

 

崩落したすべての石材は、元の場所に戻すため番号がかかれている

——そうしたなか特に難航しそうな部分が「武者返し」だそうですね。

 そうです。「武者返し」と呼んでいる石垣は、大きく反りあがる勾配をもったもので、熊本城の石垣の代名詞となっていますが、江戸時代は「清正流」などと呼ばれています。その代表は大天守の土台となっている石垣で、最も有名な石垣ですが、今回の地震では大きな被害はありませんでした。
 文化財指定となっている石垣は、元通りに修復することが原則ですから、崩落石垣の修復はジグソーパズルをするような手間が必要となります。

 

——今回の復旧作業事業においては国が全体の7割を負担することになっていますが、河田さんはどうご覧になっていますか。

 熊本城の復旧費用を賄う財源については、当初より国に対して全額国庫負担による支援をお願いしているところですが、災害からの復旧事業との位置付けのもと、既存制度においても国の一定の財政支援は担保されており、市債への交付税措置なども組み合わせると、実質的な地元負担額としては最小限に抑えられるものと認識しています。また、熊本城復旧に対しては、これまで「熊本城災害復旧支援金」の形で10億円を超える支援金もいただいているところであり、全国からの熊本城復旧を願う多くの方々からの浄財についても大切に活用させていただくとともに、今後の復旧や将来の復元に向けて、現在休止している「一口城主制度」などをどうすべきか検討していきたと思っています。
 現段階では、立ち入り禁止個所はまだ多いものの安全性を確保できる場所を見極めながらできるだけ観光客の皆さんに身近にみられるように努めていきます。
 熊本城は香港からお見えになる観光客にもとても人気が高く、その人気はくまモンと同じほどです。特に桜の時期は花見見物客で人が溢れるほどです。同じ光景をみるためには時間は要しますが、「城の修復」という、通常では滅多に見ることができな貴重なの過程をこの機会にみていただけたらと思います。

 

インタビュー②
熊本市経済観光局 
観光交流部長 三島健一さん

左から2人目が熊本市経済観光局の三島健一さん 向かって右隣が筆者

——震災以降のこれまでの経緯について教えてください。

 震災後は熊本の一番のウリでもあった「観光分野」に打撃が走りました。JR新幹線は一時的に全線運休、高速道路も動かなかったので物流は福岡から熊本まで5時間〜7時間かかっていたほどです。ですが予想以上に早く復旧しました。またガス、水、電気は5月のGW連休で復旧しました。

——熊本市内の避難所の現状はいかがでしょうか。

 震災直後は、最大11万人が各避難所で生活していましたが現在はおよそ1000人。日中は500〜600人。6月から被災者向けの仮設住宅への入居がスタートし、徐々に生活再建が進みつつあります。

熊本市中央区にある一般財団法人熊本国際観光コンベンション協会にて

——地震発生から2カ月近く経ってからの仮設住宅入居は有感地震が頻繁にあったため着工が遅れていたようですが現在はいかがでしょうか

 熊本市内では193戸が入居済、今後の予定も含めれば500戸程になります。仮設住宅に適したまとまった土地の確保が難しいのですが、市営住宅の空き部屋の活用や、民間賃貸住宅約4600戸を市が借り上げ「みなし仮設」として提供するなど、住宅の確保に努めています。
 全壊家屋が約2400棟あり、半壊の家屋も含めると、今後かなりの数の民家の解体作業が必要となります。まだまだ厳しい道のりです。
 長屋など、古くからある古民家が多い新町・古町地区などでは、赤紙(全壊・居住不可能)が張られて、解体を余儀なくされている人、住宅ローンを支払い中で立て直しなど、二重ローンになるなどが多く想像以上に住宅問題が一番大きな問題となっています。元の生活に戻れるかどうかというのが一番復旧復興にあたっての最大の壁です。


——観光業に関してははどうですか。

 震災直後からGW連休までおよそ9割のホテルが営業できませんでした。GW書き入れ時のキャンセルは大きな影響でした。前震のあった4月14日の昼までは熊本城のまわりでは花見を楽しまれている海外からの観光客は多かったほどで、ここ数年、熊本城を訪れる外国人客が一気に増えていただけに大きな痛手です。(※H27熊本城入場者数:約177万人、熊本市への観光入込客数:約560万人)
 現在は、熊本市内のホテルは8割程度復旧しています。現在は、観光客というより行政関係者や保険業、建設業者などが全国から応援にきているため、その宿泊で埋まっているというのが現状です。観光消費にはつながっていないため未だに厳しいです。


——具体的には?

 熊本市内ではまだ営業できていない宿泊施設も一部ありますが、大方復旧の途上にあります。ただ、熊本方面から阿蘇への交通アクセスが、JRが寸断、道路網も迂回路はありますがメインの国道が寸断されており厳しい状況です。一方、天草、人吉方面はほとんど被害はないのですが、熊本全体が危ないという、いわゆる風評被害が生じている状況です。

——海外からの観光客はどうでしょうか。

 これまで台湾、韓国、中国本土、香港の4つの国・地域が圧倒的に多かったですね。現在は旅行会社からの団体ツアー旅行がストップしている状況です。ただ個人旅行の方は少しずつですが見られるようになりました。先日、台湾から来られた観光客の方に話を聞くと「ニュースでみていた以上に熊本が回復して元気なことに驚き、安心した」という言葉をいただきました。ニュース報道にもよるでしょうが、ネガティブなイメージがついていた分、街が元気でよかったと言ってくださったのは嬉しかったですね。

——観光名所の「熊本城」の復旧作業は困難を極めているなか、補正予算で計上した7000億円の「熊本地震復旧等予備費」のうち、210億円の使い道が決まりました。そのうち16億円は被災した熊本城(熊本市)や阿蘇神社(熊本県阿蘇市)などの文化財の修復にあてるということですが、この数字を、どうみていますか。

 熊本城は、日本三名城の1つとして全国的にも名高い城ですが、それと同時に熊本市民・県民にとっては心のより所、シンボルのような存在です。その分非常に辛い、悲しいものがあります。今は壊滅的な被害を受けていますが、しっかりと復旧していく方向で動いています。

 

熊本城の現在の様子(7月時点)。今回難航している部分が「武者返し」と呼ばれる石垣。大きな被害はなかったものの文化財指定となっている石垣は、元通りに修復することが原則のため、崩落石垣の修復は手間と時間を要する
 
石垣の崩落は大小合わせて50箇所。立ち入り禁止箇所はまだ多い

 熊本城の石垣はほとんどが400年前の石をそのまま使用しています。それが落ちているので元に戻すというのは、1つ1つを丁寧に復旧する必要がありますから、どうしても手間がかかります。まだ調査の段階ですが、復旧には20年程度の期間、600億円超の予算がかかると試算しています。国からの財政支援も当然必要です。復旧のシンボルとして、天守閣はできるだけ早く復旧させたいですね。2019年に熊本市でも開催される「ワールドカップラグビー」までにはなんとか天守閣だけでも復元できるようにしたいというのが目標です。今は城内には入れませんが、外から見ていただくことはできますし、今後の復旧の過程を「いましか見られない」レア感のある観光素材としてアピールしていくことも検討しています。

——熊本から香港をはじめ海外輸出している食品・農作物は多いと思いますが、今後の見通しは?

 2014年度の熊本県の農林水産物輸出額は約35億円、このうち農畜産物は約3億7000万円で、いずれも過去最高でした。特に農畜産物のうち、香港への輸出額は全体の6割占めるほどで、牛肉、いちご、サツマイモなどは特に多く熊本県産品は香港でもとても身近なものとなっています。
 今後も、積極的に香港に輸出していきます。そのなかでも、脂身の少なさ、ヘルシーさが受けている「熊本赤牛」などは健康志向の香港の方には好まれると思うので、新たな熊本食品ブランドを知っていただけるよう努めていきたいです。