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最新号の内容 -20160819 No:1461
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長寿

女性の平均寿命が日本を抜き男女ともに長寿世界一となった香港。喜びと同時に急速な高齢化への不安も…

 日本の厚生労働省の調査によると、2015年の香港人男性の平均寿命は8124歳、香港人女性の平均寿命は8732歳で、香港は男女ともに平均寿命が世界で最も高い国・地域となった。


 7月30日付『香港経済日報』によると、女性の平均寿命は1985年から26年間にわたって日本が世界トップだったが、2011年の震災後に2位に後退。その後は3年連続して1位をキープしたものの、2015年に8705歳となり、僅差で香港にその座を奪われた。3位はスペインの8558歳だった。また、男性の平均寿命はアイスランドとスイスが8100歳で2位、日本は8079歳で4位となった。

 香港が長寿世界一となったニュースは市民に喜びをもって迎えられたが、同時に、猛スピードで高齢化社会へ突入していることを改めて印象付けた。実際、香港の平均寿命の伸びは速く、特に女性は2014年と2015年を比較するとわずか1年で0・57歳伸び、日本の同0・22歳を超えている。過去10年でも香港女性の寿命の伸びは2・72歳で日本の同1・56歳よりも高い。

 男女ともに見ても、先ごろ発表された特区政府統計処の人口統計リポート「香港的女性及男性—主要統計数字(2016版)」で、2011年中期は1900人だった100歳以上の人口が2015年末には3800人に達し、この5年間で倍増しているとのデータが示されている。

 中国語では高齢者のことを「長者」と書く。この字が表す通り、高齢診療科の余達明・医師は、医療の現場では70歳は若者、80歳は中年、90歳でやっとお年寄りという感覚だと語る。香港人の長寿の理由についは、第一に汚水と食物の分別処理が進み伝染病などのリスクが大幅に減ったこと、第二に食が満たされ香港人の栄養状態が非常に良くなったことを挙げるとともに、香港の医療技術は世界トップレベルであり、緊急対応できる病院が多く、市民が利用しやすいことも重要な要因だとしている。余医師はまた、広東式の漢方スープを飲む習慣も健康に良い影響を与えていると考えており、「日本の味噌汁は特に栄養はないよ」と冗談ぽくコメントした(7月29日付『りんご日報』)。

 

公園のベンチでくつろぐお年寄り。香港では街で高齢者の姿をよく見掛ける

 

MPF

老後保障の拡充を目的に導入された強制積立年金(MPF)だが、保障機能に疑問の声が上がっている

 日本では近年、「下流老人」という言葉が使われるようになり、高齢者の貧困が社会問題となっているが、香港でも同様の問題が指摘されている。

 香港には以前から「生果金(フルーツ代)」と呼ばれる高齢者手当があり、65歳から69歳で収入や資産が一定の基準を下回る人と70歳以上の全員に毎月1290ドル(2016年7月現在)が支給されている。しかし、生果金は香港の発展に貢献したお年寄りに渡すお小遣いのようなもの。そこで2000年に導入されたのがMPFだった。

 MPFはそれまで公的な老後保障がなかった香港で初めて導入された年金制度と言える。被雇用者と雇用者の双方が給与額に応じて月々積立ていく方式で、運用方法を被雇用者が選ぶ確定拠出型。月収7100ドル以下の被雇用者は積み立てが免除されている。対象は18歳以上65歳未満。65歳で一括受給する。

 MPFを管理・運営する強制性公積金計画管理局(MPFA)は、2014年の65歳以上の人口は全体の15%で、5人の労働者が1人の高齢者を支えていたが、2064年には同36%に増加し2人の労働者が1人の高齢者を支えなければならなくなり、平均寿命は2064年に男性87歳、女性92・5歳まで伸びると予測。MPFの必要性を説いているが、MPFには雇用側の拠出分を解雇手当や退職金に充てる「オフセッティング」措置が認められているため、現役世代の失業保険代わりに使われるケースもあり、リタイア後の保障機能に疑問の声が上がっている。

 MPF導入後の2013年に政府は高齢者向け生活保護「長者生活津貼(長生津)」の支給を開始した。対象者は毎月2495ドル(2016年7月現在)を受給し、70歳以上で資産審査などをクリアした人は生果金と長生津の両方の受給が認められている。だが生活費としては不十分な上、年々増加傾向にある高齢者向け生活保護の額が財政を圧迫する懸念が高まっている。

 近年は市民団体が政府に市民皆年金制度を求める動きも活発化し、特区政府が半年かけて行ったリタイア後の生活保障に関する公開諮問の終了直前に当たる6月19日には、大規模なデモ行進が行われた。老後の生活保障の見直しは政府にとって喫緊の課題だが、失業保険など社会保障も絡むため、いまだ明確化されていない。

 

画期的な老後保障と目されたMPFだが

(このシリーズは1カ月に1回掲載します)