香港ポスト ロゴ
  バックナンバー
   
最新号の内容 -20160819 No:1461
バックナンバー

立法会選挙
独立派の出馬阻止

今回の選挙にはセントラル占拠行動に参加した多くの若者が立候補した 

  9月4日に行われる立法会議員選挙の立候補届け出が7月29日に締め切られた。届け出は154通で、前回の137通を超えて過去最高となり、定数70議席に対し候補者数は約300人に上る。特に本土派(排他主義勢力)や独立派の台頭で民主派候補が乱立。だが6人の候補者が「香港独立」の主張・推進を続けているため届け出が無効となり、その決定に対する反発で過激な勢力ほど有利とみられるなど、選挙結果の見通しは不透明だ。(編集部・江藤和輝)

 

立候補届け出は過去最高

 選挙管理委員会は7月14日、今回の立法会選では立候補届け出に香港基本法を擁護する確認書を含めると発表した。確認書には「私は以下の条文擁護を含め基本法擁護を理解している」として基本法第1条(香港特区は中国の不可分の一部)、第12条(香港特区は中央政府直轄)、第159条(基本法改正は国家の基本方針に抵触してはならない)を挙げ、候補者に署名を求めている。

 選挙管理委は「届け出で虚偽の声明を行えば刑事責任を負う」と強調。政府関係者によると、立候補の申請用紙にはもともと「基本法擁護と香港特区への忠誠を保証する声明」があるので、確認書への署名にかかわらず候補者の実質的言行が「独立を鼓吹、推進」していれば声明違反として立候補を無効にできる。

 立候補届け出は16日から始まり、本土派である本土民主前線の梁天琦氏、独立派である香港民族党の陳浩天氏、「セントラル占拠行動」参加者らの団体である青年新政の黄俊傑氏と游؟٧禎氏、香港衆志の羅冠聡氏、それに民主党、公民党など多くの民主派候補が確認書への署名を拒否。一方で署名した候補には親政府派のほかに民主派から分裂した中間派である新思維の狄志遠氏、さらには「香港建国」を掲げる元祖本土派である熱血公民の候補も含まれていた。

 選挙事務処は25日、親政府派、中間派、主流民主派には立候補資格を認める通達を送った。また東九龍社区関注組の陳沢滔氏は27日に選挙主任から立候補届け出が有効であるとの通知を受け取り、独立支持者の中で初めて立候補資格を得たほか、黄俊傑氏、游؟٧禎氏、羅冠聡氏も28日に届け出が有効と確認された。

 本土民主前線の梁天琦氏は22日に選挙主任からメールを受け取り、基本法擁護の声明に署名したのにメディアなどで独立を主張していることから、引き続き独立を主張・推進するか23日までに回答するよう要求された。梁氏は回答期限の延期を要求。並行して25日、高等法院(高等裁判所)に提訴し、緊急開廷によって選挙管理委の措置を覆すよう要求した。社会民主連線の呉文遠氏と陳徳章氏も同日、同様に提訴した。だが高等法院は27日、緊急開廷を却下。裁判官は「法廷は選挙中の段階で介入すべきではなく、確認書に署名していない一部候補者も立候補資格を得ている」として、緊急開廷する切迫性はないと説明した。

 梁氏は28日、独立推進を「徹底的に否定する」と選挙主任に回答し、彼が独立を主張しているとの報道も「伝聞」だとして否定。フェースブックも自身で投稿したことはないと説明。さらに基本法を擁護する確認書に署名した。だが梁氏は8月2日、選挙主任から届け出無効の通知を受けた。選挙主任は書面回答で「梁氏は二度と独立を主張・支持しないと明確には表明していない」と指摘し、「梁氏が本当に過去の主張と独立を支持する立場を変えたとは信じられない」と結論付けた。梁氏は「基本法が存在する限り私は被選挙権をはく奪される」と批判し「もう革命しかない」と表明。9月5日に選挙への異議申し立てを行うという。

 

直接選挙枠で勢力逆転も

 香港民族党の陳浩天氏は7月25日、選挙主任からのメールを受け取り、引き続き香港独立を主張・推進するかを26日までに回答するよう要求された。陳氏は「選挙主任に候補者の政見を審査する権力はない」として回答を拒否。引き続き独立と基本法廃止を主張すると述べた。30日に選挙主任から「陳氏は基本法を擁護する声明に署名したものの新聞報道やSNSで独立推進と基本法廃止を表明し、立法会条例に符合しないため届け出無効を決定」と通達されたため、異議申し立てを行い選挙やり直しを要求すると宣言した。

 31日には民主進歩党の楊継昌氏が届け出無効の通知を受けた。楊氏は届け出書類に含まれる基本法擁護の声明に署名していないばかりか「基本法を擁護しない」声明を提出し、同党が「香港と中国本土の政治的対等」を綱領に掲げていることなどが無効を決める要素になったという。

 国民香港の中出羊子氏も8月1日、選挙主任から届け出無効の通知を受けた。中出氏は基本法を擁護する声明と確認書に署名したものの、確認書で「広範囲に外国勢力と結託し香港の主権・前途問題に介入させる」と書き加えたほか、SNSなどで独立と完全な主権国家設立を公約として主張していた。一方で中出氏が属する「城邦派」の創始者である香港復興会の陳雲氏は「城邦論を唱えているが独立には反対」との立場を示したことから出馬が認められた。香港復興会を含め選挙協力している熱血公民、普羅政治学苑の計5人はすべて候補資格を得た。

 このほか英国に「中英共同声明」の失効宣言を要求し、香港における中国の主権を受け入れない「香港帰英運動」召集人で保守党の頼綺雯氏、選挙主任に独立の主張・推進を続けるという手紙を送った陳国強氏が届け出無効を通達され、出馬資格が得られなかった候補者は計6人となった。

 全国香港マカオ研究会の劉兆佳・副会長は7月24日、TVBの番組で「独立派の立候補資格を無効とすれば逆効果になる」と認めながらも、「独立派が立法会議員になれば立法会は独立宣揚のプラットホームとなり、外国勢力がこれら勢力を利用して中国にトラブルをもたらす」ことを中央が懸念していると指摘。国家の安全のためには親政府派が2、3議席失うのも覚悟していると明かした。

 香港大学民意研究計画は7月30日~8月3日、1056人を対象に候補者への支持を調査した。この結果、予想獲得議席は直接選挙枠で親政府派が17議席、本土派や過激派を含む民主派が16議席。残る2議席は無所属中間派の方国珊氏と王維基氏が獲得する。親政府派は現有議席を維持するが、民主派は現在より2議席減り直接選挙枠の個別採決で否決権を失う。さらに職能別選挙枠の区議会第2枠は民主派2議席、親政府派3議席となる。直接選挙枠と区議会第2枠はともに民主派と親政府派の勢力図が現在と逆転する見込みだが、果たして結果はどうなるだろうか。