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最新号の内容 -20160819 No:1461
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香港経済の下振れリスク

 

香港経済—今月のポイント

①ここ数カ月、小売売上高と輸出の前年同期比での減少率の縮小は、香港の第2四半期経済が改善していることを示唆している。

②しかしながら、耐久消費財の落ち込みが消費者の景況感の弱さを映し出していることや、世界的な景気減速が香港の輸出需要に影を落とすことなどを鑑みると、基本的な見通しは依然として弱い。

③英国の欧州連合(EU)からの離脱決定は景気の不透明感を増幅させるものである。こうした点を踏まえ、2016年の香港の域内総生産(GDP)伸び率予想を従来の1・5%から1・3%に引き下げる。

図表1 香港の不動産価格の推移

 

2016年のGDP伸び率は1・3%の見通し

 香港のGDP伸び率は第1四半期は前年同期比で0・8%と、過去4年で最も低い水準だったが、最近の統計は第2四半期のGDPの改善を示唆している。

 例えば、5月の小売売上高は前年同月比8・4%減と、減少率は4月の11・2%から縮小。3カ月ぶりの低さだった。輸出は0・1%減と、減少率は4月の2・3%に比べて鈍化し、2015年4月以来の低い水準だった。輸出改善で貿易赤字は4月の310億香港ドルから5月には262億香港ドルに縮小した。

 しかしながら、基本的な見通しは依然として弱い。5月の耐久消費財の小売売上高は約21%減と、減少率は2月以来の大きさ。世界的な景気不透明感の継続や金融市場の混乱による個人消費へのマイナス影響を反映した格好といえる。加えて、中国本土の景気減速などにより、本土から香港への旅行客数は5月は8・3%減と、減少率は4月の4%に比べて拡大。旅行客消費の減速につながっている。

図表2 香港のGDP伸び率の推移


 足元の貿易の改善は、世界景気の影響よりも商品価格の影響のほうが大きいとみられる。商品先物指数の一つで主要な商品で構成されているCRB指数は、2016年に約10%上昇した。しかし、先進国、とりわけ米国と欧州の成長は緩やかなものにとどまっている。アジアの主要輸出市場であるこれら地域の景気が回復しなければ、香港の貿易の安定した成長を見込むのは難しい。

 英国のEUからの離脱決定(ブレキジット)で不確定性が増幅したことにより、世界的に景気は一段と減速し、貿易の低迷につながると予想される。香港の貿易のうち英国向けが占める比率は、財貿易で約1・5%、サービス貿易で6・6%にとどまるが、英国のEU離脱で世界的に景気が減速すれば、香港の貿易への影響も避けられない。

 ここ数四半期、香港の企業や個人による投資や消費に対する姿勢は慎重になっている状況が示唆されているが、英国のEU離脱決定による不透明感の増幅で、さらに慎重になる可能性がある。企業の投資傾向を映し出す固定資本形成総額は3四半期続けて前年同期比でマイナスとなったほか、民間消費支出の前年同期比伸び率は0・7%と、2009年第3四半期以来の低い水準に鈍化している。

 英国のEU離脱決定以降、投資家は安全資産に資金を振り向け、米ドルを買う動きが広がった。米ドル高に伴い香港ドルも上昇。香港ドルの上昇は、貿易や投資にマイナス影響をもたらす。

 香港経済にのし掛かる下振れリスクを鑑み、弊行は2016年のGDP伸び率予想を従来の1・5%から1・3%に引き下げる。第2四半期の経済指標は、前年同期の基数の低さから反発する可能性もあるが、景気を見通すうえでの重要な要素である基本的なトレンドは目下、一段の減速を示唆している。

(恒生銀行「経済透視」2016年7月号より。このシリーズは月1回掲載します)