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最新号の内容 -20160722 No:1459
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ベトナムビジネス・会計税務入門⑥
~労務関連その1

  
 ベトナムの15歳以上60歳未満の労働人口が全人口に占める割合は70%弱であり、若い人口が経済成長を牽引しています。労働者は常に良い労働環境を求めて就職活動を行っています。国によって労働者と会社の権利・義務はさまざまに異なっています。その違いを知らなかったためにトラブルが起きたということが無いよう、事前に労働に関する法律をある程度は把握することが必要です。ベトナムに会社や駐在員事務所を設立し、外国人が赴任するにあたり必要な手続、また人材を採用するにあたって注意しなければならない点等、労務管理についてみていきましょう。

(NACベトナム事務所)

 

1労働許可書の取得

 ベトナムで働く外国人労働者は、原則として労働許可書を取得しなければなりません。労働許可書の期限は最長2年です。なお、有限会社の出資者、または所有者、株式会社の取締役構成員、ODAに従事する外国人労働者は労働許可書の取得を免除されています。

 雇用者は、外国人労働者の新規・追加・代替採用予定日の少なくとも30日前までに、管轄の労働傷病兵社会局に対して、外国人労働者の雇用の必要性を説明する報告書を提出し、書面による承認を得ます。この承認は人民委員会が発行します。法令上、提出から15日営業日で承認が下りますが、外国人労働者の雇用に関する説明が不十分な場合、再度説明を求められるケースもあります。

 外国人労働者の雇用に関する承認が下りた後、勤務開始日から少なくとも15日以上前に労働傷病兵社会局に労働許可書の新規取得申請を行います。申請には、規定フォームによる申請書以外に、以下の書類を準備する必要があります。

①警察証明書(無犯罪証明書)
②健康診断証明書
③任命書又は雇用契約書
④証明写真2枚
⑤投資登録証明書・企業登録証明書の公証コピー
⑥人民委員会が発行する外国人労働者の雇用承認書
⑦経歴・学歴を証明する書類

 上記①の警察証明書は、過去にベトナム滞在歴がある場合、ベトナム司法局が発行する司法履歴書、および日本などベトナム滞在以前に居住していた場所の管轄機関(日本の場合、警察)が発行する無犯罪証明書の両方を提出しなければなりません。

 ②の健康診断証明書は、ベトナムにある指定病院で労働許可証申請用の健康診断を受診し発行してもらいます。

 ⑦の経歴・学歴を証明する書類については、ベトナムにおける管理者、専門家、技術者のいずれかのポジションにより求められる書類が異なります。

⒜管理者、マネージャー

・過去に管理者以上の経験があることを示す証明書(雇用契約書、任命書など)

⒝専門家

下記いずれかの書類

・大学以上の学歴証明書およびベトナムで従事する業務に関連した3年以上の職務経験を示す証明書

・国外で専門家であることを認められた証明書

 上記⒝における学歴証明書は、ベトナムで従事する業務に関連の無い専攻の証明書の場合、学歴証明書として認められないケースがありますので、注意が必要です。

 なお、近年労働許可証を取得せず、不法に就労している外国人が増加しています。ベトナム当局も厳しく取り締まっており、最悪のケースでは強制退去もありえますので、就労する場合は、必ず労働許可証を取得しましょう。



2スタッフの雇用

 従来は、外国人への雇用規制があり、外国人の雇用は総従業員数の3%までしか認められていませんでした。しかし、2008年3月にこの規制は撤廃され、現在は雇用人数に規制はありません。

 また、法人および駐在員事務所ともにベトナム人雇用義務はありませんので、外国人のみで運営することも可能です。

 スタッフの雇用に関し、試用期間を設けることができます。労働法第27条によると、高度な技術を持つ者(短期大学卒業以上の学歴レベル)に対しては最長60日間、技能を持つ者(専門学校卒業レベル)に対しては最長30日間、その他の者については6日間となっています。試用期間の給与は、少なくとも正規雇用時の給与の85%でなければなりません。また試用期間中は、会社側、労働者側の双方とも、事前通告無しにいつでも契約解除をすることができます。



3労働契約書

 スタッフの雇用に伴い、雇用条件、給与、権利および義務についての合意書である労働契約書を締結します。労働契約書には以下の3種類があります。

①無期限労働契約書
②12カ月から36カ月までの有期限労働契約書
③季節労働または特定業務従事のため12カ月未満の有期限労働契約書

 ベトナムでの定年は、男性60歳、女性55歳となっています。従って①の労働契約書を締結した場合は定年となる歳までの契約となります。

 労働契約書には、契約期間、勤務時間、給与、勤務地等の労働条件を記載します。以前は、労働契約書のフォームを労働局で購入しなければなりませんでしたが、現在は、フォームに沿ってワード等で作成するケースが殆どです。労働者側による署名、会社側による署名及び社判押印後、それぞれ一部ずつ保有します。

 また、労働契約書はベトナム語で締結しなければなりませんが、参考として日本語あるいは英語などベトナム語以外の外国語で作成することも可能です。



4労働契約の終了
 
 労働法では、労働契約の終了は以下のケースで認められるとされています。


⑴通常の契約終了

①契約期間の終了
②契約に基づく業務の終了
③当事者間の合意による終了
④定年の年齢に達した。
⑤被雇用者に裁判所より懲役処分が下された、あるいは裁判所から業務の禁止宣告を受けた。
⑥被雇用者の死亡あるいは裁判所から失踪宣告を受けた。
⑦個人である雇用者が死亡した、裁判所より民事行為能力を失った、失跡した、又は死亡したという認定決定書を出された、個人ではない雇用者が活動を終了した。
⑧被雇用者労働法に基づく解雇処分となった。
⑨被雇用者が労働法に基づき一方的に労働契約を解除した。
⑩雇用者が本法第38条の規定に基づき、一方的に労働契約を解除した。雇用者が組織・技術の変更、経済上の問題、企業の吸収・合併・分割・分離の理由で労働者を解雇した。


⑵雇用者からの契約の終了

①被雇用者が、契約した業務を遂行しない。
②病気等により長期で休職した。

③天災等の不可抗力により事業を行うことができない。
④労働契約の一時履行停止後に欠勤をする。

 会社側は、事前に契約終了の旨を労働者に通知しなければなりません。無期限労働契約の場合は45日前に、12カ月から36カ月の有期限労働契約の場合は30日前、季節労働または12カ月未満の有期限労働契約の場合は3日前までに通知が必要です。


⑶被雇用者側からの契約の終了

①労働契約書で合意された労働条件が満たされていない。
②労働契約書で明記された給与が充分に支給されない、または支給が遅延する。
③虐待、セクシャルハラスメント、強制労働をさせられた。
④被雇用者本人あるいは家族に何らかの困難が生じ業務の継続ができない。
⑤被雇用者が選挙あるいは任命により国家の要職に就いた。
⑥被雇用者が妊娠しており、医師の診断により業務の継続ができない。
⑦病気等により長期で休職しなければならない。

 期限の定めの無い労働契約の場合、労働者側から契約を終了させる場合は、基本的には45日以内に会社側に通知しなければなりません。

 12カ月から36カ月までの労働契約で、①、②、③、⑦の理由のために労働契約を終了させる場合は、会社側に少なくとも3日前までに、④と⑤の理由は30日前までに会社側に契約終了の旨を通知する必要があります。季節労働又は12カ月未満の労働契約の場合は、⑥を除き3日前までに通知が必要です。


⑷懲戒解雇

 労働者が以下の行為を行った場合、会社側は懲戒解雇をすることができます。

①企業内部情報を外部に漏洩させた、資産を窃盗した等会社に損害を与えた。
②懲罰期間中に、再度同じ行為を行った。
③1カ月に5回以上、または年間で20日以上無断欠勤をした。

 懲戒解雇を受けた場合、その労働者は退職金を受けることができません。

(このシリーズは月1回掲載します)



筆者紹介
NACベトナム事務所 
NAC (Veitnam) Co., Ltd.
ベトナムへの進出支援・会社設立・ライセンス取得から現地の会計記帳・税務申告・監査・連結決算・人事労務まで、良質の会計綜合サービスをワンストップで提供中。
HP: vn.nacglobal.net

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