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最新号の内容 -20160722 No:1459
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#93
MICEが高める香港のビジネス・ハブ機能


 「華南ビジネス最前線」では、お客様からのご質問・ご相談が多い事項について、理論と実務の両方を踏まえながら、できるだけ分かりやすく解説します。第93回となる今回は、香港政府のMICE事業に関する取り組みについて取り上げます。 (三菱東京UFJ銀行 香港支店 業務開発室 アドバイザリーチーム)

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今月の質問

 香港政府がMICE事業の誘致に積極的に取り組んでいると聞きました。香港のMICE開催状況とその内容、またMICEに注目する狙いについて教えて下さい。

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 MICEとは、Meeting(企業等の会議)、Incentive Travel(企業による報償旅行等)、Convention(国際会議)、Exhibition/Event(展示会/イベント等)の頭文字を取ったビジネスツーリズムの総称を指す。一般観光と比較して、周辺地域において宿泊・飲食等のより大きな波及効果が期待できることから、近年多くの国が積極的に取り組んでいる。

 香港では、2008年12月に「クリントン・グローバルイニシアチブ」が米国以外で初めて開催され注目を集めた。香港政府がMICEに注力する背景には、香港の更なる発展に向け、これまでの主として中国人観光客に依存した集客から脱却し、より幅広いビジネス顧客の獲得へとシフトすることで、ビジネス・ハブとしての香港の魅力を高める狙いがあると考えられる。

 

⒈香港のMICE開催及び取り組み状況

 現在、香港には50以上の大小様々な展示会・国際会議施設(総面積15万平方メートル)が存在する。その中でも、香港島の中心部湾仔に位置するHong Kong Convention and Exhibition Center(HKCEC)、香港国際空港近くのAsia World Expo(AWE)、九龍半島側のKowloon Bay International Trade and Exhibition Center(KITEC) が主要施設であり、年間300件以上(2015年)の大小様々な展示会・国際会議等が開催されている。2015年は世界経済の不振や香港ドル高の影響から、香港のMICE参加者は若干の落ち込みを見せたものの、ここ数年増加傾向にある(図表参照)。

 

図表 : MICE地域別参加者および観光客数


 また、香港政府観光局は、2008年にMICE参加者のスムーズな受入れのための部門であるMeeting Exhibition Hong Kongを設立し、MICE参加者の宿泊施設確保、空港での専用入国審査カウンター設置、観光アレンジ、政府関係機関との調整等、企業のイベント企画から終了までの一貫サポート体制整備を進めてきた。こうした体制整備もMICE参加者の堅調な増加に繋がったものと考えられる。
 

⒉MICE市場の動向と香港の取り組み

 国際会議関連団体・事業者を会員とするICCAの統計によれば、2000年以降世界全体の国際会議、展示会等の開催件数は年々増加。アジア太平洋地域では、中国、シンガポール、韓国、オーストラリア等におけるMICE開催件数が急速に増加している。香港周辺では、マカオでも近年MICEビジネスに注力しているほか、深&`では今年9月に香港の展示場総面積の約2・6倍規模の新たな展示場の建設を開始する予定だ。また、シンガポールではMICEアレンジ企業に対する補助金制度を設け、資金面でのサポート政策を打ち出した。

 一方、香港では、MICE需要は高いものの、慢性的な土地不足により会場整備が滞っていることが課題となっている。そこで、2020年を目処にHKCEC近くに新たな6階建ての展示場を建設しさらなるイベント誘致を目指すほか、中国方面からセントラルに直結する地下鉄開通など利便性向上により大陸からの参加者増加を狙っている。


⒊MICEを通じた香港ビジネスの可能性 

 香港政府が期待するMICEの効果は、冒頭で述べたような観光・飲食面での経済効果だけではない。海外企業とのネットワーク構築を通じた新しいビジネスや、イノベーションの機会創出、情報と人材の相互流通による都市のビジネス競争力向上である。

 香港は以前より中国市場へのゲートウェイとしての役割を果たしてきたが、最近では中国政府が注力する中国企業の海外進出(走出去)における橋頭堡としての役割が期待されている。 香港への外国企業誘致を担う香港貿易発展局は、中国を含むアジアビジネスの 「跳躍台(springboard)」として香港の優位性をアピールしている。MICEによる人と情報の集積と交流は、中国企業のOutboundと、外国企業のInboundがぶつかり合うことで、新たな付加価値や波及効果を生み出しており、ビジネス・ハブとしての香港の可能性を広げることに寄与している。2015年のMICE参加者は先述の通り減少したが、中国からの参加者は若干ながら増加傾向が続いていることはその現われといえる。

 8月にはHKCECにてFood Expo 2016が開催され、日本企業も多数参加する模様である。香港のビジネス・ハブ機能を活用して日系企業がアジアビジネスをさらに拡大していくことが期待される。


⒋まとめ

 香港は、国際金融センターや中国へのゲートウェイとしての顔に加え、多国籍企業のアジア統括としての顔も持つ。今年6月には、香港に財務統括拠点(CTC)を設置する場合の優遇税制(企業所得税を半減の8・25%とする等の政策)が導入され、アジア統括拠点としての香港にさらに強みが加わった。

 これに対し、MICEは香港においてビジネス発展のための人・情報の出会いの場を提供するためのツールであるといえる。香港の自由なビジネス環境の中でMICEがアジアのビジネス・ハブとしての香港の魅力をさらに高めることを期待したい。

(執筆担当:前原寛之)
(このシリーズは月1回掲載します)

三菱東京UFJ銀行香港支店
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