〈63〉 月1回のこのコーナーでは、香港・日本・中国等を中心とした税金等に関する問題についてご紹介させていただきます。昨今、海外で事業を行っている経営者の方にとっても、後継者不足の問題や納税資金確保の問題は重要な課題になっているものと思われ、香港においても事業承継の相談を受けることが増えてきております。今回は、この事業承継に関連して、日本における事業承継税制の概要を解説いたします。
日本の事業承継税制
事業承継税制とは
中小企業の事業承継を円滑に進めることを目的として平成20年5月に「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律」、いわゆる経営承継円滑化法が成立しました。
この法律に基づき平成21年4月より施行された、「相続税の納税猶予制度」および「贈与税の納税猶予制度」をあわせて「事業承継税制」と呼んでいます。後継者である親族が会社の株式を相続したり、生前贈与を受けたりした場合に、相続税や贈与税の納税を猶予する仕組みを導入することで事業承継を促進するための税制です。
「相続税の納税猶予制度」と「贈与税の納税猶予制度」の骨子は概ね同一であるため、以下では相続税の納税猶予制度について説明いたします。
相続税の納税猶予制度
⑴相続税の納税猶予制度の概要
会社の後継者である相続人が、相続により非上場会社の株式を取得し、一定の要件を満たす場合には、発行済完全議決権株式総数の3分の2に達する部分について、課税価格の80%に対応する相続税の納税が猶予されます。
⑵相続税の納税猶予制度の適用を受けるための要件 ①対象会社の主な要件 次の会社のいずれにも該当しないこと。 ・上場会社 ・中小企業者に該当しない会社 ・資産管理会社(一定の要件を満たすものを除く)等
②後継者である相続人等の主な要件 ・相続開始の日の翌日から5カ月を経過する日において会社の代表権を有していること ・相続開始の時において、後継者及び後継者と特別な関係がある者で、総議決権数の50%超の議決権数を保有し、かつ、これらの者の 中で最も多くの議決権数を保有することとなること
③先代経営者である被相続人の主な要件 ・会社の代表権を有していたこと ・相続開始の直前において、被相続人および被相続人と特別の関係がある者で総議決権数の50%超の議決権数を保有し、かつ、後継者を除いたこれらの者で最も多くの議決権数を保有していたこと
④担保提供 納税が猶予される相続税額および利子税の額に見合う担保を税務署に提供する必要がある。
⑤経済産業大臣の認定 上記の要件を満たしていることについて、経済産業大臣から認定を受ける必要がある。
⑥事業継続期間の要件 相続税の申告期限から5年間は事業を継続する必要があり、以下の要件を満たしている必要がある。 ・認定を受けた会社の代表者であること ・雇用(従業員数)の8割以上を維持すること ・相続した対象株式を保有していること
⑶相続税の納税猶予制度を受ける際の注意点
適用は1社につき後継者1人となるため、例えば2人の兄弟に会社を継がせたいといった場合には、あらかじめ会社を分割して、それぞれの会社を兄弟に継がせるといった対策が必要となってきます。
また、事業継続期間の要件により、相続後5年間は従業員数の8割を維持しなければならないため、この間に不採算部門の撤退といったことを行って従業員数が8割以下となってしまうと、猶予されていた相続税を納付しなければならないこととなります。
したがって、適用については会社の動向を慎重に検討するとともに、事前に事業整理を行っておくといった対策が必要となります。 (このシリーズは月1回掲載します)
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