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最新号の内容 -20160722 No:1459
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港珠澳大橋

構想から34年。香港・広東省・マカオを結ぶ世界最大級の越境インフラが来年、いよいよ完成する

 

 香港、広東省珠海市、マカオの3地を結ぶ港珠澳大橋の橋りょうの結合が6月29日に完了した。全長55キロ。完成すれば世界最長となる洋上橋りょうは、構想から34年の紆余曲折を経て今年8月に全線が貫通する見通しとなった。広東省側の工事は順調だが、香港側の工事が遅れているため、電機設備などの設置工事を終えた後、当初の計画より1年遅い2017年末に試験開通となる予定だ。

 

港珠澳大橋の位置
 

 港珠澳大橋は香港のランタオ島を起点に珠江河口をまたぎ、埋め立て地上の分岐点を経て珠海とマカオに至るY字型の橋りょう。約35キロメートルのうち中央部分は大型船舶の航路を確保するため海底トンネルとなる。総工費約730億元、開通すれば珠海から香港まで車での所要時間は現在の3時間半から30分に大幅短縮される。


 港珠澳大橋の構想は香港デベロッパーの合和実業(ホープウェル・ホールディングス)の胡応湘(ゴードン・ウー)会長が2001年に特区政府に提案したもので、かつて1983年に胡氏が珠海市政府に提案した珠海と香港を結ぶ「伶仃洋大橋」プロジェクトを焼き直したものでもある。


 伶仃 洋大橋建設計画は1997年に中央政府の認可を経て広東省側で準備を進めてきたが、香港側がなかなか起点を決定しなかったため広東省側も次第に冷却化した。このため、あらためて浮上した港珠澳大橋構想に当初、広東省側の反応は鈍かったが、橋が架かることで開発の遅れた広東省西部の発展が見込めると考えた同省政府は一転して建設支持に回り、2004年初めに開かれた広東省と香港の合同会議「粤港合作連席会議」で、各地政府関係者からなる専従チームを設置、具体的な作業が進められてきた。


 2004年ごろには港珠澳大橋を深圳にも連絡させる案が浮上し、議論が白熱した。広東省側は深圳 にも連絡することで同橋りょう建設に意欲を示したが、珠海と深圳 が橋りょうで結ばれれば貨物が深圳に流れてしまうため、香港側が反発。中央の調停でこの案は見送られた。このため広東省側のメリットが小さいことから建設資金の負担でなかなか合意できず、プロジェクトは一時暗礁に乗り上げた。


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 2008年8月に行われた粤港合作連席会議では、約378億元と見込まれる主橋建設費のうち、中央政府が広東省政府と合わせて70億元、香港特区政府が67億5000万元、マカオ特区政府が19億8000万元を拠出することが決まった。主橋建設費の残り58%は金融市場から調達。中央政府による資金援助は香港に対する大きな贈り物といわれた。


 2009年10月28日に開催された国務院常務会議で港珠澳大橋の事業化調査報告が承認され、12月15日、正式に着工。起工式が行われた珠海では、港珠澳大橋の最初のプロジェクトとして珠海・マカオ側の税関・出入境管理所が設置される人工島の埋め立て工事が始まった。


 一方、香港側は2011年12月4日に税関の着工式を開催。住民が起こした港珠澳大橋の環境アセスメント裁判で特区政府が敗訴したため、当初は2016年の開通を目指していたにもかかわらず着工が1年近く遅れた。訴訟を起こした住民の背後に民主派の公民党がいるとの疑惑が浮上し、公民党が政治利益のために香港発展の足を引っ張っているなどとの批判が高まった。


 さらに2012年から2014年にかけては、初期段階でコストに含まれていなかった深‮&‬`湾公路大橋から港珠澳大橋にアクセスするための屯門西バイパス道路と屯門—チェクラプコク間アクセス道路の建設費の問題が浮上。香港側の税関・出入境管理所が設置される人工島と、3キロメートルのトンネル部分のコスト見積もりも当初より大幅に増加するなど、予算面でも問題が噴出した。しかも人工島は昨年、もとの位置から7メートル移動していたことが発覚しており、今年も鋼管杭のうち22本が外側に向かって3メートル伸びていたことが分かり、突貫工事の影響が懸念されている。


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 港珠澳大橋は香港と珠江デルタ西部を結び、広東省西部、広西チワン族自治区、ベトナムへの重要なルートとして戦略的意義を持つ。梁振英・行政長官は昨年8月、港珠澳大橋の建設状況や横琴新区などを視察するため珠海市を訪問した際、その重要性をこう強調したが、同時に2016年の完成は難しいとも語った。

 本来、香港側に問題がなければ予定通り今年開通していた港珠澳大橋。世界が注目する一大インフラ工事だけに、これ以上の遅れは許されない。来年の華々しい開通に期待が高まっている。 

(このシリーズは1カ月に1回掲載します)