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最新号の内容 -20160624 No:1457
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#92
中国の資本規制の動向と日系企業への影響


  「華南ビジネス最前線」では、お客様からのご質問・ご相談が多い事項について、理論と実務の両方を踏まえながら、できるだけ分かりやすく解説します。第92回となる今回は、「中国の資本規制の動向と日系企業への影響」について取り上げます。(三菱東京UFJ銀行 香港支店 業務開発室 アドバイザリーチーム)
 

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今月の質問

 近中国の資本規制が再び強化されたと聞きました。具体的な変更点や華南における日系企業のビジネスへの影響と対策について教えてください。

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 足元の中国の資本規制強化は、長期にわたる規制緩和や人民元国際化への取り組みと、経済・金融環境の変化に対応する中国当局の苦悩が現れたものと考えられる。

 2015年11月、人民元が国際通貨基金(IMF)の特別引出権(SDR)通貨バスケットの構成通貨に組み入れられることが決定し、人民元は基軸通貨化に向けた新たな一歩を踏み出した。人民元クロスボーダー取引が一部地域と企業に対しパイロット的に開放されたのは2009年、一部資本項目と個人取引を除き全面的に開放されたのが2012年2月であったことから見ても、人民元の国際化が急ピッチに進展していることが伺える。

 一方、昨年後半以降、人民元の下落懸念が招いた資金流出や、それを食い止めるべく政府が繰り出した口頭指導などの規制措置は、人民元の国際通貨としての不安定性を露呈してしまう結果を招いた。

 以下では、最近の中国政府の資金コントロール方策の動向と規制について広東省の状況を交えながら簡単に考察した上で、日系企業の対策について簡単に述べたい。 


中国における銀行経由のクロスボーダー決済収支(個人・企業)


⒈中国の資金流出対策と広東省における規制動向
 
 中国経済の減速により人民元の先安感が懸念される中、中国からの資金流出が進んでいる。2016年第一四半期、中国における銀行経由のクロスボーダー決済収支(個人・企業)は7343億人民元(約1123億米ドル)のマイナスと大幅な資金流出となった。

 中国では外貨管理制度により自由な資金の持ち出しができないことから、従来から偽装貿易や地下銀行等各種ルートを利用した海外への資金移動が行われてきた。例えば、中国・香港間の輸出入総額統計に中国側と香港側で大きな乖離がある(2015年末で10倍に達する)のは、こうした偽装貿易の結果であるとされる。こうした状況に対し、中国政府は貿易決済送金時の真実性審査の厳格化を求めているほか、昨年11月には中国 最大の地下銀行を一斉摘発した。

 個人富裕層の資産持ち出しに対する対策としては、海外での保険購入に上限を設けたほか、今年1月からは従来制限のなかった銀聯カードを用いた海外での現金引出に年間上限額(10万元)が設定された。

 企業に対しては、各地域の人民銀行や外貨管理局により、資本流出を制限するための口頭指導が行われている。中国拠点の余剰資金を海外に持ち出す手段として活用されている海外関連会社向け域外貸付について、広州では制度上は上限のない人民元域外貸付について、外貨同様に純資産の30%までとするよう指導が行われているほか、深‮&‬`では外貨域外貸付の上限額が多国籍企業の外貨集中管理向けに認められている純資産の50%から30%に引き下げられた。このほか、外貨買い・人民元売りによる外債の期日前返済を禁止する等の動きもあり、制度と運用にギャップが生じている。

 


⒉ 資金流入に対する緩和の動き

 一方、中国政府は資金流出に歯止めをかけるだけでなく、資金流入を促す政策も導入している。

 中国内企業の海外からの借入(外債)について、中国人民銀行は2016年4月29日、新たな外債政策である「全国において全範囲クロスボーダー資金調達マクロプルーデンス管理を実施することについての通知」(以下「本通知」)を公布し、5月3日から実施している。従来は海外からの借入限度額である外債枠は企業の総投資額と登録資本金の差額である、所謂「投注差」に限定されていたが、本通知により純資産額まで海外借入が期限や通貨に関係なく反復的に利用できるようになった。投注差の概念がなく個別認可を得る必要があった中資企業においても、事前承認制から事前備案制に手続が簡素化されたほか、外債枠を費消し海外からの資金調達ができなくなっていた外資企業も増資することなく新たに外債枠が生まれることとなった。この新モデルは今年1月に自由貿易試験区において先行導入され、僅か3カ月で全国展開されるに至った政策であり、中国への資金流入増加が期待される。



⒊まとめ〜日系企業の対策

 人民元国際化を推進する中国政府が軸足を資本規制緩和の方向に置いていることは間違いないところであるが、想定を超える急激な市場の変動に対応して機動的に資本規制を発動する事態は今後も繰り返されると予想される。中国でビジネスを行う企業にとって、この問題は避けて通れない課題であるといえる。

 口頭指導などの一時的な規制は、政府の思惑や国際情勢に合わせ、外貨/人民元、経常項目/資本項目、地域特性などで個別に設定されることが従来は多かったが、中国政府が人民元の基軸通貨化を目指す観点からは、今後は人民元の使い勝手を確保して活用を促す可能性が高いと考えられる。不測の事態に備える観点からは、外貨単一決済から人民元を含めた決済にフレキシブルに対応可能な状況にしておく等のリスク分散を図りつつ、今後の中国政府の規制動向を注意深く見守り、政府の意図を汲み取りながらビジネスを行うことが求められる。

(執筆担当:藤川あゆみ)

 

(このシリーズは月1回掲載します)
 

三菱東京UFJ銀行香港支店
業務開発室 アドバイザリーチーム
 
日・ 中・英対応可能な専門チームにより、香港・華南のお客様向けに事業スキーム構築から各種規制への実務対応まで、日・中・港・ASEAN各地制度を活用した オーダーメイドのアドバイスを実施しています。新規展開や事業再編など幅広くご相談を承っておりますので、お気軽に弊行営業担当者までお問い合わせください。