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最新号の内容 -20160527 No:1455
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#91
中国越境EC小売輸入に関する新制度

 

  「華南ビジネス最前線」では、お客様からのご質問・ご相談が多い事項について、理論と実務の両方を踏まえながら、できるだけ分かりやすく解説します。第91回となる今回は、「越境EC小売輸入に関する新制度」について取り上げます。(三菱東京UFJ銀行 香港支店 業務開発室 アドバイザリーチーム)
 

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今月の質問

 中国越境ECに関する税政と管理制度が変更になったと聞きましたが、その内容について教えてください。

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 2016年3月24日、中国財政部、税関総署と国家税務総局が共同で「越境EC小売輸入税収政策に関する通知」(以下、「税収政策」)を始め、越境ECの税制改正に関わる3つの通達を公布した。その後、4月7日には財政部等中央政府11部署共同で、「越境EC小売輸入商品リスト」(以下「商品リスト」)が発表され、4月8日から全国の越境EC試験都市で新制度がスタートした。本稿では、越境EC小売輸入に関する新制度の内容について紹介したい。

 


⒈背景

 2014年、中国で越境EC小売輸入のパイロット政策を実施後、商品の独自性と豊富さ、品質保証および税制面での優遇政策などで、越境ECは急速な発展を遂げた。2015年、取引額は前年比111・9%増の1184億元に達した。

 しかし、越境ECパイロット政策の課題も一方で明らかになってきていた。すなわち、従来越境EC小売輸入商品は、個人物品として「行郵税」のみが適用され、一般貿易輸入貨物或いは国産貨物より税負担が低く不公平な競争条件となっていた。また、取扱商品品目に関しては、輸入自体が禁止または制限される品目のほかに、取扱の可否が明確ではない品目もあり、試験都市毎に独自の対応が行われていた。

 中国政府は今回の新制度の実施により、不公平な競争条件の是正と越境EC小売輸入に対する監督管理の強化を図るとみられる。


⒉新制度の主要内容

⑴「税収政策」

 「税収政策」では、越境EC小売輸入品を貨物として扱われ、関税、輸入増値税、消費税(一部品目のみ対象)を徴収される。一時的な措置として実施されていた行郵税の適用、および50元までの免税措置を廃止し、個人の年間取引限度額が新規に規定された。税制改正前後の比較は図表の通りである。

 「税収政策」の適用対象は、税関システムと接続する越境ECサイト、又は税関システムと接続していないが、郵政事業者が商品の電子データ(注文・支払・物流)を提供でき、かつ法的管理責任を負うこととなるすべての小売輸入取引を含む。

 それ以外の小売輸入品、または電子データを提供できない越境EC輸入品については、引続き行郵税が適用される。なお、行郵税の税率は、従来の10%、20%、30%、50%の4段階から、15%(最恵国待遇のゼロ関税商品)、30%(その他の商品)、60%(消費税の課税対象商品)に変更された。

⑵「商品リスト」

 4月7日に公表された「商品リスト」には、越境EC小売輸入方式が認められる、食品、化粧品、アパレル、文房具、厨房用小物家電、インテリア用品、デジタルカメラ、玩具類など1142品目の商品が掲載されている。国内需要が高く、国家の関連法律法規で定められた輸入基準を満たし、かつ小包郵便物で輸入可能な生活用品が主体である。

 なお、商品リストが発効してまもない4月15日に、生鮮食品、液体ミルク、米、農産物、ビタミンとミネラル等、食品を中心とする151品目を含む商品リストの第2弾が追加発表された。


⒊香港企業のビジネスチャンス

⑴越境EC直販モールへの出店

 2015年には香港資本が出資・運営する越境EC直販モールが試験都市である深圳と広州に開設された。世界各国から輸入した商品の保税展示と、越境ECを組み合わせた複合ビジネスモデルであり、一種のショッピングモールとなっている。ネット上で注文して自宅に配送する以外に、関税・増値税支払済みの購入商品をそのまま持ち帰ることも可能である。品質保証と価格優位性により注目される直販モールに出店することで、香港の小売企業は中国側での需要捕捉機会拡大を図ることができる。

 現在営業中の代表的な香港資本の越境EC直販モールには、前海周大福全球商品購物中心(深圳 )、羅湖外来猫越境直購体験中心(深圳)、南沙自郵行越境商城(広州)、南沙四洲食品越境直購中心(広州)などがある。

⑵香港での物流拠点の需要拡大

 今回の新税制は主に税関とネットワークを接続する越境ECプラットホームを経由した保税輸入方式に適用され、海外から直接中国の消費者に郵送する形式(下記、「直郵形式」)の越境ECは引続き行郵税が適用される。行郵税が適用される場合、税率は引き上げられたものの、関税や増値税、消費税は課税されないため、おおむね税コストは低く抑えられる。そのため、今後直郵形式の越境EC取引が拡大する可能性がある。

 香港には中国に隣接する地理的な優位性があり、直郵形式による越境EC商品の多くは香港の倉庫拠点を経由して中国の消費者に出荷されているのが現状である。今後、香港における倉庫スペースの需要拡大は、物流企業に新たなビジネスチャンスをもたらすことが期待される。


⒋まとめ

 越境EC小売輸入に関する税制改正および取扱可能商品の明確化により、政策面の課題に一定の解決が見られたことで、越境EC業界の健全な発展が期待される。

 また、「行郵税」と免税措置の廃止により、一部商品分類では実質的に増税となったものの、一般貿易との比較では引き続き低税率であり、かつ輸入手続での利便性を考慮すれば、越境ECのメリットは依然として大きいと考えられる。

 ただし、越境ECのビジネスモデルはまだ試験都市で実施されるパイロット政策であり、今後も規制内容が調整される可能性が高い。そのため、越境ECを活用する事業者においては、引続き政策動向を注視することに加え、政策の変更に合わせた柔軟なビジネス展開が必要となろう。


(執筆担当:馮 程明)

(このシリーズは月1回掲載します)
 

三菱東京UFJ銀行香港支店
業務開発室 アドバイザリーチーム
 
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