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最新号の内容 -20160527 No:1455
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香港経済、小売りデータと民間消費支出

先のメーデー3連休には中国本土からの旅行客が前年同期比で約7%増加したものの、小売市場に顕著な効果はみられなかった


香港経済—今月のポイント

①近年、香港の小売売上高は旅行客が主導しており、旅行客による消費が低迷するにつれ、小売売上高は鈍化している。
②ここ数カ月、耐久消費財の売上の伸びも鈍化しており、香港市民の購買意欲も慎重になっていることを映し出している。
③民間消費支出の鈍化は、2016年の経済成長への同支出の寄与が前年を下回ることを示唆している。
④弊行では、16年の香港の域内総生産(GDP)伸び率を1・8%と予想。15年の2・4%を下回ると見込んでいる。

 

 民間消費支出は、香港居住者によるモノおよびサービスの支出を指し、四半期ごとに算出され、香港のGDOの主要構成要素の一つである。

 民間消費支出の動向をよりタイムリーに分析するため、通常、民間消費支出との相関関係が高い月次の小売売上高を追跡するケースが多い(図表1)。

図表1 民間消費支出と小売売上高の伸び率の推移


 とはいえ、小売売上高が民間消費支出を完全に反映するわけではなく、以下の2点に注意する必要がある。1つ目は、両者の定義が異なる点である。小売売上高は物の支出のみをカバーしており、サービス支出はカバーしていない。また、旅行客の物の支出も含まれている。一方、民間消費支出は旅行客消費を除外している。15年の小売売上高は民間消費支出の約30%だった。

 2つ目は、小売売上高と民間消費支出の推移はほぼ一致しているが、近年は小売売上高が民間消費支出を上回る傾向が強まっている点である。小売売上高は10〜12年にかけては顕著な伸びを示したが、最近は成長率がゼロ以下に落ち込んでいる。

 最近の小売売上高の振れの大きさは、旅行客の支出の変化が大きく関係している。中国本土からの旅行客増加を背景に、全体の旅行客数は09年の2960万人から14年には6080万人へと倍増(図表2)。同期間の旅行客消費総額は1203億5400万香港ドルから3007億9200万香港ドルと150%増加した。弊行の試算では、14年の小売売上高に占める旅行客消費は42%と見込まれる。

 旅行客数は14年第4四半期の12・1%増から15年第4四半期には4・3%減と、最近はマイナスに転じている。同期間の小売売上高も3・4%増から3・9%減と、同様の動きを示している。

図表2 旅行客数の推移(年率)


  ここ数年は旅行客による消費支出が小売売上高を主導してきたが、小売売上高のデータのなかで、民間消費支出の動きを理解することは依然として可能である(民間商品支出には旅行客消費は含まれない)。

 旅行客の主な購入品目は宝飾品、衣料品、化粧品である。電気や撮影用品以外の旅行客の購入品目の多くは小売売上高の中の非耐久消費財に区分される。換言すれば、小売売上高の耐久消費財の販売は香港市民の消費のバロメーターといえる。実際、耐久消費財の売上と民間消費支出の相関性は、全体の小売売上高と民間消費支出の相関性を上回っている(図表1)。

 耐久消費財の売上の伸びは15年下期以降、顕著に鈍化。第2四半期の37・5%から第4四半期には3・6%に減速した。同期間の民間消費支出の伸び率は6・2%から3・2%に鈍化。16年に入ってからは1月と2月の耐久消費財はマイナス成長となっており、第1四半期の民間消費支出の伸びが一段と鈍化したことを示唆している。

 前述の分析は、旅行客、香港市民ともに消費が減速していることを意味している。香港市民のサービス支出は民間消費支出の構成要素の一つで、サービス消費は物の消費に比べて安定している。しかし、サービス消費の伸びが15年第4四半期に1・4%にとどまり、4年ぶりの低い水準となり、物の消費と同様に悪化していることには注意を要する

 世界的な景気不透明感、金融市場の混乱はいずれも購買意欲低下の大きな要因になり得る。民間消費支出が香港のGDPの三分の二を占めることをかんがみると、消費の減速は16年の民間消費支出のGDPへの寄与が前年を下回ることを示唆している。以上の点を踏まえ、16年のGDP伸び率は1・8%と、15年の2・4%を下回ると予想される。

(恒生銀行「中国経済月報」2016年2・3月号より。このシリーズは月1回掲載します)