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最新号の内容 -20160527 No:1455
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第32回

専業PR

一番大事なのは危機対応能力

 

 ひと口に「仕事人」と言ってもその肩書や業務内容はさまざま。そして香港にはこの土地や文化ならではの仕事がたくさんある。そんな専門分野で活躍する人たちはどのように仕事をしているのだろう? 各業界で活躍するプロフェッショナルたちに話を聞く。(取材・武田信晃/月1回掲載)

 

香港の仕事人
コーヒー1つにしても、店長のように詳細に説明してくれる

 日本語にもなっているPRとは、「Public Relations=広報」のことだが、筆者のような仕事をしていると、PR会社に務めている人にしろ、企業のPR担当者にしろ、取材で接する機会が多い。今回は本紙1451号に掲載したカフェ「Artisan Room」など、飲食店のPRやマーケティングを長年担当し、メディア関係者からの信頼も厚い周雪瑩(Cassidy Chow)さんを紹介する。

最近は若手の育成に取り組んでいるのだとか(筆者撮影)

 米国の大学でコミュニケーションを専攻した周さん。大学卒業後PR会社に就職し、すでに10年以上の経験を誇る。彼女は1つのことを説明するのに、よどみなくスラスラと話してくれる。それは、そのことについて「覚えている」のではなく「理解している」からだろう。

 「PRは発信するモノについての情報を最初に知ることのできる立場にあります。1つの事柄を事前に勉強するだけでなく背景まで勉強して、質問に対する準備をするのは当たり前ですね」と事もなげに答える。「今ではネットでいろいろな情報を得ることができますが、それが正しい情報であるとは限りません。PRは唯一、正確な情報を最初に提供できるのですから、責任は大きいです」


 香港の場合、プレスリリースは英語版と中国語版の2つを作ることがほとんどなので、他社のリリースなどもよく読んで表現方法を磨き、関心を持ってもらえるような魅力的な文章も書かなければいけないという。


 「メディアの好みや記者・編集者が喜びそうなものを把握して、それに応じた素材を用意することで、できるだけ多く取り上げてもらう努力もしていますよ」と、きめ細かなサービスを提供することを欠かさない。「最近は『ブロガー』もいるので、そちらのケアもしなければなりませんから、さらに忙しくなりました」と苦笑いする。

香港の仕事人
マーケティングも担当するため、この店内を実現するためにいろいろ動いたそう

 現在は一企業のPRとして勤務しているが、PR専門会社とは異なる難しさを感じているそうだ。「PR会社ですと1人あたり5〜7社を担当するので仕事量が多く、ときによっては混乱しそうになることがあります。企業のPR担当者は、宣伝だけではなくマーケティング業務なども関与します。会社の業績にもかかわるので、プレッシャーを感じるときがありますね」

 現在は飲食関係のPRを専業にしているため、顧客と同じ目線を持つことが大事だということも学んだ。「トレンドがわかるんです。それについてまた勉強して商品に反映させて、さらにPRするという流れです」
 

Artisan Roomで提供するメニューより

 PRの仕事として一番大事なのは、宣伝やコミュニケーション能力ではなく危機対応能力だと周さんは語る。「適切な対応をできるかどうかによって、店の評価が分かれてしまうからです。上手にやることができれば、それはフィードバックという形につながり、改善していける点に変化するのです」

 「究極の目標はすべてのメディアに取り上げてもらうこと」と笑った周さんだが、あのプロ精神なら本当に実現してしまうかもしれないと思わせる人だ。
 

(店内とメニュー写真は同店提供)