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最新号の内容 -20150807 No:1436
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GDP予測は下方修正
貿易も消費も低迷

 

 香港大学経済及商業策略研究所は7月に発表した香港経済の見通しに関するリポートで通年の域内総生産(GDP)伸び率予測を4月に発表した2・8%から2%に下方修正した。香港工業総会も通年の輸出伸び率予測を先に発表した4~5%から2・5~ 3・5%に引き下げた。経済の先行きが悲観される中、特区政府は国家戦略の「一帯一路」構想に活路を見いだそうとしている。
(編集部・江藤和輝)
 

福建省で廈門(アモイ)港を視察する曽俊華・長官(写真:政府新聞処)

 コンテナ取扱量は5位に

 香港大学のリポートでは第2四半期のGDP伸び率予測を2・4%から2%に下方修正。主に外需の鈍化が理由で、さらにギリシャの債務危機が解決していないことや、中国本土経済は金融緩和を打ち出したにもかかわらず短期的に効果が見られていないこと、米ドル高で香港の輸出が収縮する懸念から、第3四半期のGDP伸び率は1・7%にまで低下すると予測。通年伸び率は上限2・4%、下限1・6%とみており、いずれにしても2014年通年の2・5%からは鈍化する見込みだ。

 香港工業総会が7月23日に発表した貿易動向の見通しでは、外部環境の低迷に加えて本土の各種コストが上昇していることから香港でのビジネスはますます厳しくなるとみる。このため今年通年の輸出伸び率予測を2・5~ 3・5%に下方修正。特にアジアについては、円安が続いているため香港から日本への輸出が影響を受けていると指摘した。政府統計処が発表した6月の輸出総額は前年同月比3・1%減の2995億ドルで、2カ月連続の減少。1~ 6月の輸出総額は前年同期比0・1%増にとどまっている。

 香港港口発展局が発表した6月のコンテナ取扱量(見込み)は前年同月比12・9%減の171万9000TEU(20フィート標準コンテナ換算)。5月の同12・7%減から減少幅はやや拡大し、12カ月連続の下落となった。1〜6月の累計では前年同期比9・7%減の1011万6000TEU。世界コンテナ港ランキングで1位の上海は同4・43%増の1802万9000TEU、2位のシンガポールは同3・08%減の1599万7000TEU、3位の深圳は同5・2%増の1155万6000TEU。そして昨年のランキングで香港に次ぐ5位だった寧波は同9・1%増の1129万TEUと香港を上回った。香港は今年通年では寧波に抜かれ5位に後退する見込みだ。

 梁振英・行政長官は7月9日の立法会答弁で、本土と香港の株価下落や欧州の債務問題を挙げ、「香港経済が軽視できないリスクに直面している」と警告。特に1~ 5月の来港者(宿泊客)が前年同期比3・1%減となったことを挙げ、「大量の市民に就業機会を提供している観光業の落ち込み状況を注視すべき」と述べた。労工及福利局の張建宗・局長も最新の失業率を発表した際、「消費に関連した業界の雇用と収入の先行きは観光業の動向によって決まる」とコメントしている。

 香港政府観光局(HKTB)の統計(速報値)によると、6月の来港者数は前年同月比2・9%減の約436万1000人。本土からの旅行者は同1・8%減で、うち個人旅行者は同10・6%減、深圳市からの個人旅行者は同11・6%減だった。また現在のホテル稼働率は80%に達しているものの、平均宿泊料は前年同期に比べ15〜20%下がっているという。HKTBの林建岳・主席は本土からの旅行者減少について、並行輸入業者に抗議する過激なデモの影響を指摘。さらに数次ビザの発給が停止されたため今後も影響が続くと予想している。

 

今後の重心は「一帯一路」

 小売市場の不振を受け、宝飾品販売の周大福は4店舗の閉鎖を決定した。これは今年度第1四半期(4〜6月)の業績発表で明らかにしたもので、銅鑼湾などの観光客の多い地域の店舗が対象となるもよう。同社の黄紹基・総経理は「賃貸料の値引き交渉が不調に終わった場合、さらに1~ 2店舗の閉鎖も視野に入れている」と話す。同期の売り上げは前年同期比6%減、既存店売り上げは同15%減と不振が鮮明だ。同じく宝飾品の六福も今年度第1四半期の既存店売上高は同18%減、うち香港・マカオでは同19%減となった。すでに旺角の2店舗閉鎖を決定している。

 化粧品販売の莎莎が発表した今年度第1四半期の業績では、売上高は全体では前年同期比8・6%減の18億2100万ドル、うち香港・マカオ地区は同8・8%減の14億6400万ドル。香港・マカオ地区の既存店売上高は同6・8%減となっており、これは同社が09年に四半期ごとの業績発表を始めて以来、最大の減少幅となった。

 こうした中、経済のてこ入れとして国家戦略への呼応が叫ばれている。曽俊華(ジョン・ツァン)財政長官は7月21〜23日、福建省を訪問した。福建省は4月に自由貿易区が設置されたのに加え、中央が掲げる発展戦略「一帯一路」のうち「21世紀海上シルクロード」の核心区に指定されており、香港も同省との連携に力を入れ始めた。

 曽長官は公式ブログで「一帯一路」の沿線60カ国余りには人口の多い新興市場も多く、香港の4大支柱産業と一部新興産業にとって商機になり得ると指摘。香港は世界最大の人民元オフショア市場であるとともに一流の資産運用サービスを擁することから、「一帯一路」の主要な資金調達プラットホームとして関連諸国にプロジェクト資金を提供することが可能とみる。さらに香港は商業人脈と物流ネットワークによって関連諸国のビジネスを促進、商機開拓を支援できるという。曽長官は今後の3大作業として①香港貿易発展局(HKTDC)による沿線新興市場の研究②財界を率いて沿線国家を視察③沿線国家との貿易便利化と投資保障の2国間協定調印——を挙げた。

 曽長官はまた新華社のインタビューでも「一帯一路」が香港にとって千載一遇の機会だと語った。曽長官は「これまでの30年は本土の改革開放が香港にチャンスをもたらしてきたが、今後30〜50年の香港の重心は国家が提示した『一帯一路』戦略である」と指摘。香港がこのチャンスをつかめれば4大支柱産業が沿線国家で発展すると説明した。またアジアインフラ投資銀行(AIIB)が香港を債券発行のプラットホームにする構想を持っていることも明らかにした。

 深圳港に寄港するコンテナ船の定期航路は3月末現在で253本、昨年末に比べ16本増えた。新たに増えた航路のほとんどは「21世紀海上シルクロード」の沿線国家が集中する地域となっている。香港も負けずに手を打たねば経済的な地盤沈下がますます進むことになりかねない。