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最新号の内容 -20150717 No:1435
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7.1デモ参加者が激減

基本法改正で物議

 

 返還から18周年を迎えた7月1日に行われた民主派による7・1デモの参加者数は過去7年で最低となった。立法会での普通選挙案否決で具体的な目的が失われたことや、「香港基本法の改正」を要求に掲げたことに反発を抱く市民が多かったことなどが理由に挙げられている。折しも「国家安全法」が施行されたことなども一部で憶測を呼んでいる。(編集部・江藤和輝)
 

普通選挙案の否決後で7・1デモの規模は過去7年で最低となった 

  デモ参加者数は主催者の民間人権陣線の発表では4万8000人、警察の推計では出発時で6240人、ピーク時で1万9650人、香港大学民意研究計画の推計では2万7000~3万人、香港大学社会工作・行政学部の葉兆輝・教授の推計では1万80002万2000人。いずれも2009年以降で最低、昨年に比べると8 9割の激減。予定していた10万人にははるかに及ばなかった。

 香港中文大学の蔡子強・講師は参加者激減の原因として①セントラル占拠行動の成果がなかった②切迫した議題がない③デモより過激な行動を求める人がいる——ことを挙げた。

 今年のテーマは「民主香港の建設、わが街の未来を取り戻す」で、スローガンには例年の「梁振英・行政長官の辞任」などのほかに「基本法の改正」の要求を掲げたことが物議を醸した。先の6・4集会で学生代表が基本法を燃やして以降、学生組織は「香港市民による憲法制定」を今後の方向性として提唱しているが、一部政党はスローガンに盛り込むことに態度を保留するなどで参加者減少が見込まれていた。

 さらにデモ出発時は学生団体が先頭に立っていたが、途中から「香港独立」を叫ぶ「本土派」(排他主義勢力)が英国植民地旗を掲げて先頭部を占拠したことも反感を買い、民間人権陣線の召集人は「香港独立の立場には賛同しない」と強調した。

 基本法改正については民主派重鎮である李柱銘・元民主党主席や陳方安生・元政務長官も否定的な見方を示した。陳方氏は6月29日に「基本法改正」の要求は支持しないと表明し、「基本法改正は親政府派が引き締めを要求することもできるため、パンドラの箱のようにひとたび開けば結果は予想できない」と述べた。ほかにも民主派寄りの識者らは「香港人が基本法改正を要求すれば特区を保障するいくつかの条文が削除され、現在よりも悪くなる」「基本法改正は民主派政党の合意を得にくく、今後の運動の焦点にはなりにくい」と指摘している。

 セントラル占拠の収束後も若者らを中心とする過激な行動が散発的に続いていることが社会に影を落としている。旺角の西洋菜街で6月28日夜、排他主義勢力の「本土民主前線」「香港本土力量」「勇武前線」のメンバーと支持者の約100人が集結。旺角の歩行者天国で中国本土から来た婦人グループが標準中国語の歌を歌って踊っているのに抗議するデモを行った。デモ隊が英国植民地旗を掲げて婦人グループをののしるうちに衝突が発生し警察が胡椒スプレーなどで対処。さらに親政府派団体の「愛港行動」「忠義民団」のメンバーが駆け付けて国旗と特区旗を掲げて排他主義勢力に抗議。双方の激しい衝突が発生したため警察が鎮圧し、男女5人(23〜55歳)が逮捕された。60歳の男性が頭部から流血するけがをしたほか、警官1人が負傷する騒ぎとなった。

 

 

意外にも国民意識が拡大

 中国人民解放軍駐港部隊は7月4日、新界北部の屯門青山訓練場で初めての公開軍事演習を行った。演習は武装テロ集団が屯門青山を占拠し香港島や九龍、新界での破壊活動を企てていると想定したもの。政府高官や立法会議員など各界から500人余りが視察に招かれたほか、メディアにも公開された。

 演習の目的は「香港独立派」に対処するものであることや、1日に全国人民代表大会(全人代、国会に相当)常務委員会が採択した「国家安全法」に関連するとの見方もある。だが梁振英・行政長官は7日、演習が香港独立や排他主義の思想に威嚇を与えるためではとの質問に対し、「駐港部隊の透明度を上げることで、われわれの過度な憶測を防ぐ」と述べたほか、国家安全法については「香港には適用されないことが法曹界の共通認識」と説明。全人代の范徐麗泰・常務委員も「一部に排他主義と香港独立を吹聴する者がいるが、少数に過ぎない。香港独立問題に対し特区政府は処理能力があり、解放軍の出動は必要ない」と強調した。

 また国家安全法の施行により香港市民支援愛国民主運動連合会(支連会)の何俊仁・主席や李卓人・秘書らが本土に赴いた際に逮捕されるとの見方も報じられた。これに対し香港基本法委員会の梁愛詩・副主任は6日の商業電台の番組で、「支連会の目標は政権転覆につながるか? 彼らは中央を転覆する能力があるか? それは彼ら自身が知っている」と述べ、追悼活動を利用して政権転覆を図るならば国家の安全を脅かすと指摘した。またセントラル占拠行動も全人代常務委の決定撤回が目的であり、国家の政治体制転覆でなければ国家安全法には違反しないと明言した。

 一方で排他主義の風潮からは意外ともいえるが、香港大学民意研究計画による世論調査では市民の国民意識が半年前に比べ拡大したことが分かった。調査は6月15~18日に1003人を対象に行われた。自分のアイデンティティーを選択させた結果、「香港人」の割合は36%で前回調査(昨年12月)より6ポイント縮小。「中国人」は22%で同4ポイント拡大した。続いて返還18周年を控えた6月22〜25日、1038人を対象に行った世論調査でも「中国国民の身分に誇りを感じる」との答えが前年同期比5ポイント上昇の38%で、2012年のレベルを回復。「誇りを感じない」は同6ポイント低下の56%だった。

 調査結果について香港理工大学応用社会科学系の鍾剣華・助教授は、調査初日が排他主義組織メンバーが爆発物製造容疑で逮捕された日であることを指摘し、「香港人は普遍的に中国要素から離れられないことを理解しており、また社会の混乱を望まないことから回答が保守的になった」と分析。香港人ならではの現実主義で社会が安定に向かうことが望まれる。