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最新号の内容 -20150313 No:1426
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2015/16年度財政予算案

黒字で生活支援拡大
 

財政予算案発表後に記者会見を行った曽俊華(ジョン・ツァン)財政長官(左から2人目)ら 


 曽俊華(ジョン・ツァン)財政長官は2月25日、2015/16年度財政予算案を発表した。不動産市場の過熱抑制策などによる税収増大で財政黒字は予測の7倍にも膨らみ、税還付などの生活支援措置を昨年より拡大。昨年の「セントラル占拠行動」で影響を受けた業界に支援策を講じたことなども注目され、予算案に対する市民の評価は過去5年で最高となった。      
(編集部・江藤和輝)

 

 曽長官は財政予算案とともに発表した今年の経済見通しで、米国経済が回復に向かっているとともに米連邦準備制度理事会(FRB)が利上げを準備していることや、中国経済は安定しているものの今年の成長率は下振れ圧力がかかっていることなどを挙げ、「全体的には08年の金融危機後に世界経済が低成長にあえいだ時期と大差ない」と指摘。15年通年の域内総生産(GDP)は1・0〜3・0%と予測した。

 14/15年度の財政収支は638億ドルの黒字、財政備蓄は3月末で8195億ドルの見込み。不動産取引の印紙税収入や法人・個人所得税、土地収入が予想を上回ったため、財政黒字は当初予測した91億ドルから大幅に膨らんだ。15/16年度では歳入4776億ドル、歳出4408億ドルで368億ドルの黒字を見込んでいる。

 市民の生活負担を軽減する一過性の措置として、個人所得税は2万ドルを上限に75%還付、子女の扶養控除を10万ドルに引き上げ、不動産税は1軒1四半期2500ドルを上限に2四半期免除、公共住宅の家賃は1カ月免除、生活保護、高齢者手当、高齢者向け生活保護、障害者手当の受給者には2カ月分を追加支給。これら生活支援措置の規模は前年度の約200億ドルから340億ドルに拡大した。当初はバラマキ縮小も予想されていたが、昨年の税還付上限が1万ドル、生活保護などの追加支給は1カ月分だったのに比べると大盤振る舞いである。

 予算案ではセントラル占拠で影響を受けた観光、ホテル、小売り、飲食、運輸・交通の5業界に対する短期的な支援措置が打ち出された。内容は①旅行社1800社とホテル・旅館2000軒は半年のライセンス費を免除②飲食店、小売店、食品販売許可証による制限を受ける店舗の計2万6000軒は半年のライセンス費を免除③タクシー、ミニバス、バス、貨車、トレーラー、特別車両は1年以内に1回、ライセンス更新に必要な車検費用を免除——となっている。さらに国際投資家や旅行者の香港に対する信頼を取り戻すため、政府観光局(HKTB)に8000万ドルの追加予算を充て今後1年のプロモーション活動を強化。新聞処にも2600万ドルの追加予算を充てるなど、計2億9000万ドルがセントラル占拠の後始末に投じられる。

 香港大学民意研究計画が予算案発表の当日夜に行った世論調査(対象610人)によると、「満足」との答えは45%で、昨年に比べ21ポイントの大幅な上昇。「不満」との答えは18%で、昨年に比べ27ポイントも低下した。「半々」との答えは28%だった。100点満点での評価は60・2点で、2010年以降で最高。予算案発表後の曽長官の評価は61点で、前年同期より7ポイント上昇した。

 予算案では多くの生活支援措置やセントラル占拠の影響を受けた業界に対する支援策が打ち出されたため、曽長官の記者会見では民意買収や次期行政長官選挙への立候補が取りざたされた。曽長官は笑いながら「民意を買収できるなら、とっくに買収している」と述べ、行政長官選挙についても「すでに何度も言っている」とだけ答えた。

 

構造赤字に向け「未来基金」

 予算案では今後5年は財政黒字の維持を予測しているが、曽長官は2月21日に出演した番組で「約10年後には財政赤字に転落する」と指摘。国際的な経済環境も不安定であることから、政府は現時点から各部門の支出調整を検討しなければならず、安定的な黒字のあるうちに備蓄する必要があると述べ、各部門には引き続きコスト削減を要求し3年以内に2%削減する意向を示した。

 曽長官は昨年に続き財政備蓄に向けた「未来基金」の設置をあらためて提唱。政府の今後5年の財政予測では19/20年度に497億ドルの黒字となり、財政備蓄は22カ月分の歳出に相当する9488億ドルに達する。だが高齢化で18年には労働人口が減少に転じ、経済成長の鈍化で財政は構造赤字に陥ると指摘。このため未来基金を設置し年内の運用開始を目指すという。

 長期的な財政計画を検討する「長遠財政計画工作小組」は3月2日、未来基金の詳細を発表した。同小組の提案では2200億ドルの土地基金を初期資金とし、毎年、財政黒字の25〜33%を恒常的に注入。さらに基金の半分は段階的に外為基金の長期成長ポートフォリオに投じ、投資期間10年で高パフォーマンスを狙う。長期成長ポートフォリオはプライベート・エクィティー・ファンドや海外の不動産に投資するもので、流動性が低くリスクが高い。香港金融管理局(HKMA)は昨年、長期成長ポートフォリオに1152億ドルを投じ、投資回収率は13・5%だった。未来基金は最初の10年は取り崩しを禁じ、政府の財政備蓄が約6カ月分の歳出を下回った際に資金活用を検討するという。だが財政黒字の少なくとも4分の1が10年間凍結されるため毎年のバラマキが縮小すると反発の声も上がっており、財政に対する社会の危機感はまだ薄いといえる。

 

2015/16年度財政予算案の主な内容

 ■占拠行動で影響受けた業界への支援

・旅行社とホテル・旅館は半年のライセンス費を免除
・飲食店、小売店、食品販売許可証による制限を受ける店舗は半年のライセンス費を免除
・タクシー、ミニバス、バス、貨車、トレーラー、特別車両はライセンス更新に必要な車検費用を免除
 

■生活負担の軽減

・個人所得税は2万ドルを上限に75%還付
・不動産税を2四半期免除
・子女の扶養控除を引き上げ
・公共住宅の家賃1カ月免除
・生活保護・高齢者手当など2カ月分追加支給
 

■多角的な発展

・香港科技園が5000万ドルの「科技企業投資基金」を設立
・「創新及科技基金」に50億ドル注入
・ファッション業界の発展に5億ドル拠出
・「電影発展基金」に2億ドル注入し映画製作資金援助計画
・3億ドルを拠出し芸術発展基金を設立


■競争力の強化

・中央政府が提唱した「新シルクロード経済ベルト」「21世紀海上シルクロード」構想による商機を開拓
・アジアインフラ投資銀行の設立・運営を支援
・香港ディズニーランド第2期開発を検討
・香港国際空港の第3滑走路建設計画を推進
・インフレ連動型債券を上限100億ドル発行
 

■土地・住宅供給

・29カ所の住宅用地を放出、1万6000戸の供給が可能
・商業用地4カ所とホテル用地1カ所を放出
 

■高齢化・医療

・リタイア後の生活保障改善に500億ドル拠出
・公立病院の開発・拡張に810億ドル拠出