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最新号の内容 -20150101 No:1422
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新春インタビュー:ケリー・ラム
占拠行動に見る香港人の素顔

 

 中国への主権返還が行われた1997年以来、再び香港に世界の注目を集めさせた昨年の「セントラル占拠行動」。約2カ月半に及ぶ混乱は香港社会に大きな影響をもたらした。香港人の素顔を赤裸々につづる本紙連載「香港夢(ホンコン・ドリーム)」でおなじみのコラムニスト、ケリー・ラム氏に占拠行動を振り返ってもらった。 (インタビュアー・楢橋里彩)

 

【ケリー・ラム(Kelly Lam=林沙文)】教師、警察官、商社マン、通訳などを経て、現在は契約制の裁判官、弁護士、リポーター、小説家、俳優と多方面で活躍。上流社交界から裏の世界まで、その人脈は計り知れない。返還前にはフジテレビ系『香港ドラゴンニュース』のレギュラーを務め、著書『香港魂』(扶桑社)はベストセラーになるなど、日本の香港ファンの間でも有名な存在。吉本興業・fandangochina.comの香港代表およびfandangoテレビのキャスターを務めていた

 

——ケリーさんの人気連載「香港夢」(旧連載「香港魂」)はいつから連載しているのですか。

 香港が返還されてからなので、もう17年たちました。気が付いたら最長連載のようですね。

——ケリーさんはお父さんがパキスタン、お母さんが広東省ご出身の中国人とのことですが、なぜそんなに日本語が流暢なのですか?

 日本語を学ぶきっかけは警察官時代です。1977年に警察官になり、83年まで勤務していました。その間に香港理工大学で2年間日本語を学ぶ機会をもらいました。当時はどこを歩いても日本人だらけでしたので、日本語を習得することが当然のような時代でした。今も日本語が話せるのは87年に俳優の藤岡弘、さんと女性ボディービルダーの西脇美智子さんとの出会いが大きいですね。2人が香港でアクション映画の撮影をしたときに縁あってマネジャーをしたんです。美智子さんは5年香港にいたのでその間の芸能事務所の仕事契約は私が交わしていました。そのつながりで日本のテレビ局でも通訳の仕事をはじめ、気が付いたらキャスターもしていました。日本の文化や日本人の考え方を学んだのもこの時です。
 

日本の俳優、藤岡弘、さんとは30年近くの交流を持つ

香港の歌手、容祖兒(ジョイ・ヨン)さんと


——警察官や芸能界の仕事をされて今は弁護士。幅広いキャリアですね。

 皆さん驚きますが、私にとってどの仕事もやりがいのある大切なもの。すべてに誇りをもっています。

——さまざまな分野で活躍されてきたからこそ香港人の本質が見えてくるのではないかと思いますが、中国に返還される前と後で香港はどのように変化しましたか。

 1997年以降の香港は英国植民地時代に比べてかなり自由になったと言えます。セントラル占拠で皆さんは香港がまだ民主化していないんだと感じるかと思いますが、返還して17年、民主化は進み、自由や人権を得ることができたと思っています。

——ということは返還前はそうではなかったと?

 そうです。返還前は香港人として自由はありましたが民主はありませんでした。人権さえもなかったです。英国の植民地支配が終わってから17年の間、自分たちの発言権だけでなく選挙システムも大きく変わり徐々に民主化が進んでいると思います。

——昨年9月末から起きたセントラル占拠、どうみていますか。

 誰もがこんなに長引くとは思っていなかったでしょうね。こうした暴動は1967年に親中派と香港警察が衝突して大きな暴動となって以来です。ですが過去のデモとも全く異なります。「1国2制度」の下にある香港は今、自由と自治が保障されているので、さらに民主や権利に対する主張がエスカレートしたのが今回の特徴というべきでしょう。
 


——実際に取材していると、2012年に推進しようとした国民教育に強い反発をもつ人たちも多くみられました。

 まさに今回の占拠行動は、民主派団体が中央政府に対し一種の挑戦状をたたきつけたようなものなのです。旺角のように暴力ざたになった場所もありますが、市民は香港特区政府と中央政府に直接向き合いたいという強いメッセージをだしました。ただ何度も言いますが、少しずつですが民主化しているのは間違いないのです。17年の行政長官の選挙システムも全民選挙になります。これはかつてでは考えられなかったことです。

——では市民たちの特区政府への不満はどんなものなのでしょう?

 長年の貧富の差に対する不満も大いにありますね。旺角で特に目立った訴えは民主化実現より切実な福祉政策への不満のように感じました。ただし、はっきり言えることは参加者の要求の実現は厳しいということです。一時収まっても再燃することが十分考えられます。今回のセントラル占拠は米国が介入し、占拠参加者へ資金援助もしているといわれています。アジア太平洋経済協力(APEC)会議の際の首脳会談後にオバマ米大統領が「米国は占拠行動に一切関与していない」という発言をしてから状況が変わりましたが、これは何か意味があるのではないでしょうか。
 


——約2カ月半を経て占拠は収束しましたね。

 果たして今後、占拠行動がどう香港社会に影響して来るのか気になるところです。

——どうなりますか?

 まず人々の心がバラバラになるでしょうね。実際には占拠に反対する市民の方が多いので家族や学校のクラスメートの間でけんかが多発しました。これまでになかった人々の衝突が増えたのです。政府が香港を一つにまとめることがさらに難しくなる大きな溝をつくってしまったと思います。公共の場を陣取って長期にわたって占拠することは完全な違法行為ですが、こうした占拠運動には、さまざまな香港人の不満が表れています。中には政治的な目的で1国2制度を崩壊させようとしたり、特区政府、中央政府を倒すという思惑を持つ人間がいるし、ただ純粋に本物の普通選挙を望む市民や学生もいます。行政長官だけ辞めさせたいという人もいるでしょう。生活が苦しい、大卒でも給料が少ない、出世ができない、貧富の差がある、家が買えない、政策に不満があるなど、不満は千差万別です。なかなか解決できない香港の大問題だと思います。
 

セントラル占拠は「民主や権利に対する主張がエスカレートしたもの」と語るケリーさん 

——現場を取材していたら「中国本土のように拝金主義になりたくない」と話す若者もいました。ケリーさんは拝金主義なのは香港人だと指摘してましたね。

 そうです。特に以前はすごくお金があれば何でも手に入ると思っていました。香港は独自の文化が生まれていないせいか、愛国心や宗教心も存在しません。こうした背景には香港人が抱える大きな経済的なプレッシャーがあります。70年代の高度成長期以降、より稼ごうとがむしゃらに働いてきた時代がありました。香港では愛情とは物質的に家族を満足させる行為につながります。家族を楽にさせてあげたい、子供に良い教育を与えたいとただ夢中で仕事をしてきました。しかし英国統治時代に根付いた「拝金主義」によって、いつしか香港人は金さえあれば何でも手に入るものと思ってきました。こうした社会で育つ子供たちへの悪影響は計り知れません。
 


——子供たちは真の愛情を受けていないということでしょうか。

 もちろんすべてというわけではないですよ。ですがヘルパー(外国人家政婦)を雇用して仕事に出かける母親が多くなっている香港の社会をいいと思いますか? 私は決していいとは言い切れないと思います。いかに共働きをして金を稼げるか、それを重要視した結果、子供の世話をヘルパーや両親に任せ、一番大切な時期を一緒に過ごさない親子が多くなっているのです。一般的な香港社会のスタイルになっていますが、真の愛情にふれないまま、これが当然の環境として育った子供たちが果たしてどんな親になるのでしょう。道徳心を失った子供たちの未来を想像しただけで不憫に思います。

——確かに日本に比べ家で育児をしている親は少ないかもしれないですが。

 物価が高く住宅や車のローンを抱えても欲張らなければ生活ができるのに、と思ったら大間違い。彼らは日本人が思っている以上に金持ちになって成功して将来穏やかに生活をすることを夢見る。それが香港人なのです。

——それは英国統治時代に原因があると言っていましたが。

 そうです。植民地時代に愛国心も帰属意識も育たないまま時が流れていった香港にとって、見えない愛情より見える「現金」が何よりも幸せをつかめるものなのだと信じられています。もし愛国心や帰属意識を主張したらどうなると思いますか? メディアや社会から非難ごうごうですよ。人々はこう考えます。「国や宗教を信じたらお金をくれるのか」と。今回のセントラル占拠を見ていると、彼らが未来に不安があるのは当然なのです。すでに収束したように見えますが、またどの拍子で勃発するかわかりません。その状況は彼ら自身の不安がぬぐえるときが明確にこない限り続くと思います。厳しい話をしましたが、そうはいっても私も香港で生まれ育ちましたので、香港は故郷であり大切な場所です。何はともあれアグレッシブに生きる人々が多い香港が大好きですよ。