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最新号の内容 -20141024 No:1417
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香港の民事訴訟①

 

 香港の法制度は1997年の中国返還後も香港基本法による「一国二制度」の原則の下、英国同様にコモン・ロー制度を維持し、香港の裁判所の過去の判例が先例として非常に重視される。他のコモン・ローを採用している国や地域の判例も参考にできる点など、国際ルールに基づいた近代的な法律環境が整っている。
 

民事と刑事

⑴原告と被告

刑事訟訴…刑事訴訟を提起する権利は香港特別行政区政府にのみ帰属し(以下、香港政府とする)、個人と法人が当事者となるのは被告人となる場合だけである。 
民事訟訴…個人、法人、香港政府は原告として民事訴訟を提起することができる。同じく個人、法人、香港政府を被告として訴えることもできる。

⑵勝訴のための立証基準

刑事訴訟…検察官は被告人を有罪にするために該当罪を「合理的な疑い以上」のレベルまで証明する必要がある。この基準は非常に厳格である。 
民事訟訴…原告側が勝訴するかは、「可能性の秤でどちらがありえそうか」 という基準で判断される。これは刑事の基準より大幅に緩やかである。

⑶上訴

刑事訴訟…第一審で被告人が無罪となると、案件は終了し、検察官は上訴できない。
民事訟訴…原告であれ被告であれ、第1審で敗訴した側は上訴する権利がある。


民事訴訟を担当する機関 

 香港において民事訴訟を担当する機関は、主に裁判所と審裁所である。前者は手続に関する規則が厳格に定められており、当事者はこれを遵守する必要がある。一方、後者は一部の規則が緩和されており、本人訴訟に向く。香港の司法機構は、行政府と立法府から独立して運営している。香港の裁判所の階層は以下の通りである。

裁判所

⒜終審法院
・香港の最高位の上訴裁判所である
・担当する案件…(①100万ドル以上の争いで、上訴法院から上告・上訴を管轄し、最終的な審判を下す。あるいは、②公衆の大きな関心を引く重要な論点がある民事上訴と刑事上訴も処理する。
・①あるいは②に当てはまらない上訴の場合、一般的に受理しない。

⒝高等裁判所(高等法院 )
高等裁判所は上訴法院と原訟法院という二つの裁判所で構成される。

①原訟法院は、香港民事裁判の最も主要な裁判所である。下記の案件に対して管轄権がある
・訴額が100万ドル以上の民事訴訟
・地方法院の権限以外の争い
・専ら原訟法院のみしか処理できない案件。
・小額裁判所からの上訴
・重大な刑事事件 

②上訴法院は、原訟法院と地方法院からの民事および刑事上訴を処理する。

⒞地方裁判所(地方法院)
 原訟法院と異なり、民事と刑事管轄権において地方法院の権限は、ある程度制限される。民事事件については、以下を取り扱う。
・5万ドル以上100万ドル未満の契約、準契約関係、不法行為から生じる争い
・年間賃貸額または年間鑑定額が24万ドル未満の土地や物件の回収
・賃貸関係の争い
・信託、住宅ローン、詐欺、ミス、パートナーシップの解散、もし土地や不動産にかかわらない場合、100万ドル未満。土地や不動産の場合、300万ドル未満。
・12カ月以下の賃貸料の回収
・性差別や障害差別などの案件
・離婚、慰謝料、子供の権利(地方裁判所の中に家庭裁判所が設置された)

特別な裁判所  (審裁処)

⒟小額裁判所
・訴額は5万ドル未満で、契約、準契約関係や不法行為から生じる民事訟訴
・法令上、5万ドル以下の民事訟訴は小額裁判所の専権である
・原告・被告共に、法廷では弁護士に訴訟活動を委任することが禁止されるのが特徴

⒠労働裁判所(労資審裁処)
・賃金、休暇、年金、解雇に関する労務関係を取り扱う

⒡土地裁判所(土地審裁処)
・土地や不動産から生じる争いに関する特別な裁判所(このシリーズは月1回掲載します)

 

筆者紹介

ANDY CHENG
弁護士 アンディチェン法律事務所代表

米系法律事務所から独立し開業。企業向けの法律相談・契約書作成を得意としている。香港大学法律学科卒業、慶應義塾大学へ留学後、在香港日本国総領事館勤務の経験もありジェトロ相談員も務めている。日本語堪能
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