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最新号の内容 -20141003 No:1416
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上海—香港で間もなく
証取相互乗り入れ

 

 李克強・首相が4月に発表した上海と香港の証券取引所の相互乗り入れがいよいよ10月から始まる。かつて棚上げされた「香港株直通車」が実現し、3000億ドル余りの資金が香港株市場に流入することに金融界では期待が高まっている。中国の資本市場開放の一環である同措置は香港にとっても資本市場や人民元業務の拡大を促進し、国際金融センターとしての地位強化につながる。
(編集部・江藤和輝)

 

証取の相互乗り入れに向けた資金需要で人民元の金利も上昇

人民元の資金需要高まる

  相互乗り入れは上海証取が窓口となって中国本土住民が香港株を直接取引でき、域外投資家は香港取引所(HKEX)を通じてA株に投資できるというもの。本土から香港への投資では、個人投資家の資格は証券取引口座の残高が50万元以上。投資上限は2500億元(約3125億ドル)、1日の上限は105億元(約131億ドル)。投資範囲はハンセン総合大型株指数とハンセン総合中型株指数の構成銘柄、上海・香港同時上場のH株となる。香港から本土への投資では個人投資家の資格制限はなく、投資上限は3000億元(約3750億ドル)、1日の上限は130億元(約163億ドル)、上証180指数と上証380指数の銘柄、上海・香港同時上場のA株となる。香港市場では266銘柄が対象となり、時価総額の約95%を占める。

 HKEX、香港中央結算、上海証券取引所、中国証券登記結算は9月4日、上海市で4者協定に調印。相互乗り入れの法的根拠となる協定には規則や投資可能な株式などが盛り込まれ、基本的に4月に両証取が合同発表した公告の内容と同じ。両証取と参加企業は8月30〜31日にシミュレーション取引、9月13〜14日にシステム故障を想定したシミュレーションを実施。順調に準備を整え10月中にスタートする見込みだ。

 2007年に香港株直通車が話題になった際にはハンセン指数が8月の19386ポイントから10月末には31958ポイントまで跳ね上がり、当時の温家宝・首相による11月の発言で無期延期となった。今回も過熱が気になる中、香港金融管理局(HKMA)の陳徳霖・総裁は8月12日、7月からの大量の資金流入が相互乗り入れに関連することを認めた。資金流入による香港ドル需要の増大からHKMAは1年半ぶりに20回以上にわたって市場介入を行った。陳総裁は7月からの資金流入が2段階に分けられると分析。中旬までは主に企業活動に関連したものだが、22日以降は香港株の売買高が従来の400億〜500億ドルから700億ドル余りに拡大したため、株投資に関連した資金流入とみている。特区政府財経事務及庫務局の陳家強・局長も「香港株直通車」が取りやめになった二の舞とならぬよう資金流入状況に留意していると述べた。

 中信証券とCLSAは相互乗り入れを前に本土の投資家の投資意欲を調査した。調査は少なくとも5年以上の職業経験を持ち、月収2万元以上、株式投資の経験がある530人を対象に行われた。相互乗り入れに当たっては94%が香港株を購入する意欲があり、80%はA株とH株の差額を利用した投資に興味があると答えた。39%は10万〜50万ドルを香港株に投資する意向だ。一方で香港株に詳しくないので相互乗り入れに参加するつもりはないとの答えは6%だった。関心のある香港株のトップ3はHSBCホールディングス、長江実業、和記黄埔。関心のあるIT銘柄として騰訊、中国移動、聯想なども挙がっている。

 

HSBCや騰訊などが有望

  ゴールドマンサックスは9月2日に発表した中国戦略リポートで「相互乗り入れ実施後は香港と上海の両地協力による1つの巨大な中国株市場が生まれ、時価総額は世界2位、売買高は世界3位になる」と指摘。恩恵を受ける銘柄として香港株とA株(H株同時上場を含む)それぞれ10銘柄を推奨。HSBCホールディングス、騰訊、AIA、和記黄埔、聯想、中国光大国際、HKEXなどを挙げた。またUBS証券のアナリストはA株市場に7月以降で約1500億元が流入、うち300億元が海外資金であることを挙げ、A株は年末までに5%上昇すると予測。A株市場が有望とみる証券会社は多い。

 HKEXの李小加・最高経営責任者(CEO)は8月初めに相互乗り入れ開始の見通しを示した際、上海証取との相互乗り入れが順調に運べば深圳証取との相互乗り入れにも拡大される可能性に触れた。これを裏付けるように深圳 市政府金融発展サービス弁公室の肖志家・副主任が8月26日、香港で行われた前海深港現代サービス業合作区の説明会で、市政府が中国証券監督管理委員会に深圳・香港証取の相互乗り入れに関する要求を提出、検討が進んでいることを明かした。

 相互乗り入れを控えて香港の人民元需要も高まっている。香港オフショア市場の人民元銀行間金利(CNH HIBOR)は9月18日、オーバーナイトで一時は過去最高の約8%まで急上昇し、終値で5・50111%。前日の3・155%から2・35ポイント上昇し今年に入って最高となった。四半期末と連休を控えているほか、相互乗り入れが始まるのに向けて一部銀行が人民元資金を確保しているためとみられる。各行は人民元預金の獲得に躍起だ。

 HKMAの陳総裁は9月15日、相互乗り入れに向けて香港住民の人民元両替上限(1日2万元)が撤廃される可能性を示した。陳総裁は同日出席したフォーラムで人民元両替上限の撤廃について聞かれ、中国人民銀行(中央銀行)から「大きな問題はない」との回答を得たばかりであることを明らかにした。HKMAは相互乗り入れ実施までに両替上限撤廃の確認を取り付ける考えだ。さらに相互乗り入れに備えて人民元の流動性を強化する新措置として、銀行に予備資金を提供する最大100億元のイントラデイ・レポ・ファシリティー設置と、5〜6行の一級流動性提供行(プライマリー・リクイディティ・プロバイダー=PLP)を指定すると発表した。

 香港は本土の資本市場開放による恩恵に期待するものの、昨今の政治的対立による混乱はそれを阻む要素として懸念される。全国人民代表大会(国会に相当)の范徐麗泰・常務委員(前立法会議長)は9月9日、メディアとの懇談会で行政長官普通選挙の問題に触れ「政治体制改革をめぐる抗争で中央の香港支援策が停止される」と警告。抗争は香港のビジネス環境に影響するため、中央は今後新たな金融政策をまず香港で実施するとは限らず、上海市や深圳市前海で先行実施する可能性があるとみる。香港は競争力の低下を防ぐためにも早く経済活動に専念できる状態を取り戻すべきだろう。