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最新号の内容 -20131115 No:1395
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  ひと口に「仕事人」と言ってもその肩書や業務内容はさまざま。そして香港にはこの土地や文化ならではの仕事がたくさんある。そんな専門分野で活躍する人た ちはどのように仕事をしているのだろう? 各業界で活躍するプロフェッショナルたちに話を聞く。(取材・武田信晃/月1回掲載)


 

第3回 竹の足場職人

  若い世代に伝えたい技術 

 
 今回紹介するのは竹の足場のマスター。日本ではまず考えられないが、香港の建築現場では竹の足場がほとんどだ。話を聞いたのは建築士を養成する建造業議会(CIC)でインストラクターをしている温志良さん。中国語では技術を持った上の人を「師傅」と呼ぶが彼は師傅を育てる師傅と言っていい。この道35年のキャリアを持ち「自分の経験を若い世代に伝えたい」という思いから3年前からCICで教鞭をとっている。なぜこの業界に入ったのかというと「当時は需要が高く、給料も良かったからですよ」。今の香港は金融が花形業界とするなら当時は建築関係がその1つだったようだ。昔は日本のように丁稚奉公ではないが「上司の服を洗ったりしましたね」と時代を感じさせるエピソードも話してくれた。
 
竹の足場で組まれた典型的な建設現場

 
 今の若い生徒について聞いてみると「35年前は選択肢も今と違って多くないので、就職したらこの道しかないという感じでしたけど、今の生徒はこれがダメでもほかの道が…と、どこか変に楽観的で、忍耐力がないですね」。
 
「温師傅」は若い技術者を育てることに使命感を持っている
 
 竹の足場を組むには試験に受かり資格を得なければならない。香港で資格所有者は実は約1300人しかいない。この人数で香港の建築物の足場を回している。しかも約半数が年齢50歳以上と高齢化が進んでいる。若い足場を組む技術者の養成は喫緊の課題と言っていい。しかし、現在CICで学んでいる生徒は30人だ。「見た目のイメージなどから、危険な職業と親から思われていますね。また、あちらこちら建築現場を回ることから安定した職業ではないとも感じられている面があります」と、日給が大工よりも数百ドル高いにもかかわらず、思うように生徒がたくさん集まらない現状を分析した。
 
 
しばり方にも理にかなったやり方がある  上は竹を切るナイフ、下はひもを切るナイフ
 
 
 竹の足場がいまだに採用されている理由は何だろうか? 1つはコストである。基本の竹の長さは22フィート(約6・7メートル)で1本10ドル、竹を縛る紐は1本6フィート(約1・8メートル)。200本が1セットで30ドルと破格の安さだ。竹にもいくつかの太さがあり、場合によっては杉の木も使っている。建築会社は自前の竹や技術者を持っておらず、自営業者である師傅に委託するしかないが、委託を受ける師傅としては維持管理費は大きな要素だ。
 
 また、鉄製などは湿度の高い香港では錆びやすいが、無論竹は錆びず、あの適度なしなりが足場全体に柔軟性を持たせ、台風や衝撃を吸収する。竹の組み方は中国4000年の歴史ではないが「長年の歴史から培われ完成されたもので人間工学的にも理にかなっているんですよ」とのこと。人間が作業しやすいように計算され組まれているので、時間をセーブでき、安全性も実は高い。また、壁から60センチの空間があれば足場を組み立てられるため、土地の小さな香港では大きなメリットなのだ。