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最新号の内容 -20121019 No:1369
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香港の庶民の味
車仔麺

香港の街を歩いていると、「車仔麺」と書かれた看板をよく目にする。でも店に入っても「車仔麺」という名前の麺や料理があるわけではなく、メニューには何やら麺や具の名前がびっしりと並ぶだけ…。実は車仔麺とは、好きな麺に好きな具を載せる食べ方を指す。「香港独特の食文化」と言われる車仔麺、いったいどのようなものなのだろう。                
(構成・編集部/取材協力・車記車仔麺、新記車仔麺)



お任せの車仔麺を徹底解剖

 たいていの車仔麺店はお任せメニューを用意している(ない店もあり)。「大什」と表記されるお任せの大盛りは、通常10種類の具が入っており、ボリュームたっぷり。具を1つずつ注文するよりも格段にお得なので男性客がよく食べている。「小什」というのはお任せの普通盛りのこと。具の種類は8つほど。お任せは栄養のバランスが比較的良いので、どの店でも人気があるようだ。
(具および麺の資料・車記車仔麺)

 


豚皮 豚の皮。軟らかく、やや弾力がある。コラーゲンが豊富
魚片 すり身魚のてんぷら
齋卜 小麦粉で作った揚げ物。「面筋」ともいい、「麩」に似ている
お任せでももちろん好みの麺を選べる。写真は粗麺
魚蛋 魚のつみれ。店にもよるが、カレー味に煮込んであることが多い
猪紅 豚の血を固めたもの。ぷるぷるとしている。造血作用があるので女性に人気
紅腸 豚肉のソーセージの表面を赤く着色したもの
蘿蔔(羅白) ダイコンをしょうゆで煮たもの。おでんのダイコンに近いが、かなり薄
スープはほとんどの店が鶏ガラや魚をベースにしたしょうゆ味
時菜 季節の野菜。菜心(アブラナ)や生菜(レタス)などがポピュラー
冬菇 シイタケ
雞翼尖 鳥の手羽の先っぽをしょうゆで煮込んだもの

 

車仔麺ワンポイント

◆通常、車仔麺のスープは朝仕込んで1日中火を落とさない。そのため閉店間際はどこもだしがよく出てスープの味が濃い

◆具で最も多いのは潮州料理の鹵味(甘辛いしょうゆ味のたれで肉や野菜、ゆで卵を煮込んだもの)。日本人にはなじみやすい味なのでお薦めだ。このほか紫菜(のり)も風味があっておいしい

◆香港ではいろいろな街に車仔麺店があるが、やはり旺角や深水ポなど庶民的な街ほど多いようだ
 


 

載せて楽しい、具のあれこれ

牛腩 (アウナン)
牛ばら肉のしょうゆ煮 
鹵水肉(ローソイナンヨッ)
豚ばら肉のしょうゆ煮

猪腸(ジューチョン)
豚の大腸のしょうゆ煮

 

鹵水蛋(ローソイダン)ゆで卵のしょうゆ煮  炸魚片(ザーユーピン)
魚のフライ 
魷魚(ヤウユー)イカ 

 

墨魚丸(モッユーワン)
イカのつみれ

牛丸(アウワン)
牛肉のつみれ

豆卜(ダオポ)
丸い油揚げ
雞‬脚…ニワトリの脚のしょうゆ煮 魚餃…魚のすり身のワンタン
猪扒…ポークステーキ 炸雲呑…揚げワンタン
牛脷‭ ‬…牛の舌のしょうゆ煮 鮮蝦丸…エビのつみれ
猪腰…ブタの腎臓 龍蝦球…伊勢エビのつみれ
牛柏葉…牛の胃袋のしょうゆ煮 紫菜…のり
貢丸…豚肉のつみれ 腐皮…ゆば
餐肉…ランチョンミート 腐巻…かまぼこのゆば巻き
火腿…中華ハム 炸菜肉絲…ザーサイと細切り豚肉をいためたもの
芝士腸…チーズ入りソーセージ 雪菜肉砕…高菜と豚ひき肉をいためたもの
 蟹柳…カニかまぼこ 雪菜雞絲…高菜と細切り鳥肉をいためたもの


リヤカーに始まる

 「車仔麺」は、香港がまだ貧しかった1960年代、「車仔(リヤカー)」の屋台で調味料や塩で味付けしたスープと麺の上に、くず野菜や肉を載せて売ったことが始まりといわれる。このスープ麺が労働者を中心に人気を集め、以降、車仔麺を売る屋台が多く出現し、香港を代表する食文化のひとつとなった。 
 

「新記車仔麺」の注文票。1杯につき1枚使用する。会計時はこれが伝票になる


 今では車仔麺のほとんどは固定店鋪で売られている。だが、好きな麺に好きな具を載せて食べる食べ方は昔と同じ。懐が許すなら、お碗にあふれるほどの種類の具を載せたっていい。とにかく自分の食べたいものを好きなだけ選ぶ「選択の自由」がある。香港のある著名人が「『車仔麺』は最も香港らしい食べ物。香港の民主を象徴している!」と評したのも分かる気がする。

 では、どうして麺も具もこんなに種類が多いのか。これは、さまざまな地方から集まって来た味覚の異なる中国人の舌を満足させるため、麺と具の種類をそろえ、お客自らに選択させたからではないかと推測できる。こう考えると、移民の街、香港ならではの食べ方というのもさらに納得がいく。

 車仔麺の注文の仕方はいたって簡単。テーブルの上に置かれた注文用紙に自分が食べたい麺と具をペンでチェックして店員に渡すだけ。一言もしゃべらなくても注文できるので、旅行者にも便利だ。ただし、店によっては「茶餐庁(大衆食堂)」のように店員が口頭で注文を受けるところもある。
 

「新記車仔麺」では具3種入りだと32ドル、2種なら28ドル(取材時)


 料金はどこの店も具が一種類5~10ドル。ちなみに上の写真は「油粉」(前記参照)に魚のつみれとニラの花、タコをトッピングしたもの。これで一杯32ドルだった(取材時)。50年前の香港では車仔麺は1杯数セントで売られていたというから、今はかなり値上がりしているが、それでもこれだけのチョイスがあってこの値段はかなり良心的。今も昔も庶民の味方であることに変わりはない。麺抜きで具だけ注文することもできるので、おなかの空き具合を見て、おやつ代わりに食べられる。そのせいか、どこの車仔麺店も時間を問わずにぎわっている。

 スープの味や麺、具の種類は店によって微妙に異なるので、自分好みの店と組み合わせを見つけるのも楽しそうだ。



まずは麺選びから

 車仔麺の店ではどこも通常7〜8種類の麺を用意している。下はその基本的なもの。香港人に人気があるのは粗麺と油麺だという。このほか、「烏冬麺(うどん)」、一度揚げてから乾燥させた縁起物の「伊麺(寿麺)」、インスタントラーメンの「出前一丁」「公仔麺」などを置いている店もあるが、これらの麺を頼むと数ドル割増料金になることが多い。

瀬粉
ビーフンの一種。米線と似ている。透明度が高く、ツルリとしたのど越し
河粉
ビーフンの一種でベトナムのフォーと同じ。麺に粘り気があり、もちもちした食感
米線
ビーフンの一種。米粉よりも細く軟らか。きれいな白色をしている
米粉
いわゆるビーフン。米で作った麺は細く真っすぐ。歯ごたえがある
油麺
かん水が入った中華麺。麺は太く、丸く真っすぐ。油をからめているので口当たりが滑らか
幼麺
かん水が入った中華麺。細く、やや縮れている。香港では最もポピュラーな麺の1つ
粗麺
粗引きの小麦粉にかん水を入れた中華麺。平たく縮れて腰がある
出前一丁
言わずと知れた日清食品のインスタントヌードル。香港人も大好き

 



タレントも行きつけの人気店

 車仔麺店は下町に多いが、繁華街コーズウェイベイにも人気の店がある。ここは香港のタレントYumikoの行きつけとしても有名で、店内には同店を訪れた著名人らの記念写真や各地のメディアに掲載された記事も飾ってある。4種類の中から選べるスープは「鹵水汁(甘辛いしょう油味)」がお薦めだが、スパイシー好きなら「辣汁」を試したい。店頭ではカレー味のつみれも販売しており、おやつとして買い求めるOLや学生でにぎわっている。
※鹵味については上段のワンポイントを参照

 

◆新記車仔麺銅鑼湾登龍街49号地下B  
電話:2573-5438