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最新号の内容 -20120323 No:1354
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香港芸術節に参加
森山未來さんに聞く

公演地によって観客の反応が異なると話す森山さん(筆者撮影)
※取材協力・香港芸術節協会、OFFICE 作

手塚治虫の世界を表現 

  ダンスと音楽、映像を融合した斬新な演出と独自の解釈で手塚治虫ワールドを表現した注目の作品『テ ヅカ TeZukA』が、日本プレミアに先駆けて2月18〜19日、第40回香港芸術節(香港アートフェスティバル)で上演された。この舞台には俳優、ダンサーとして活躍する森山未來さんが出演。自身も手塚ファンという彼に話を聞いた。
(聞き手・綾部浩司)


——『テ ヅカ TeZukA』との出会いをお聞かせください

 この公演の演出家であるシディ・ラルビ・シェルカウイと一緒に(この公演で)仕事をすることは3年前から決まっていました。その後、何度かワークショップを繰り返し、僕は年明けのローマ公演から出演しています。

——演出には日本人の目から見て気になる部分がありましたが

  今回の演出に対する評価は「手塚治虫や彼の漫画、仏教、漢字、言葉というものを外国人であるラルビが、自身の目線で描いている」ということを楽しめるかどうかですね。手塚の初期の漫画はスター・システム(同じキャラクターにさまざまな役柄を演じさせる)を取り入れていたそうですが、そのような手法は日本人には特に気にすることもなく理解しやすいと思います。ですが、ラルビはそのスターシスムを輪廻転生としてとらえているのです。そのため外国人は手塚の作品を仏教的な作品として感じているようです。

 もちろん、僕は日本人ですし、手塚さんの作品は幼少期から読ませていただいていたので、最初はそういう感覚に違和感を感じることもありました。でも、ワークショップを重ね、ラルビや皆とディスカッションを繰り返しながら、作品を創り上げてきました。

——そもそもラルビはどうして手塚治虫に興味を持ったのでしょうか?

 ラルビが手塚の作品で着目したのは漢字の存在なんです。漢字は象形文字という一種絵のようなものから生まれていますが、そのような字を描くことと手塚が描く世界観とを関連付け、そこから連想ゲームのように想像を膨らませ、この作品が出来上がりました。

 ラルビは、いわばかなりコアな世界観をもって、この作品を作り上げたと思います。また、この演劇を見るにあたって手塚のどの漫画が使われたかを知っていると、また違った見方ができるかもしれません。でも、それは少しマニアック過ぎるかもしれませんね(笑)。

 ラルビの手塚への愛情は彼から聞いた言葉でお話しすると、彼自身(モロッコとベルギーのハーフ)のアイデンティティーがあやふやであることに関係があるようです。手塚の作品は既成の枠にとらわれないというか、倒錯したキャラクターがすごく多いですよね。例えばピノコ、ブラックジャック、鉄腕アトムなどです。そのような倒錯したキャラクターに彼は強くシンパシーを感じているそうです。

——演劇の冒頭で福島原発事故についてフランス語で語っていましたが、3年前にこの演劇が企画された時点では昨春の震災は考えられなかったことですが

 昨年9月のプレミアに向けて出演者が日本に集まったのは去年3月で、それから1カ月かけて稽古を行う予定だったのですが、原発事故が発生した後に外国から来たメンバーは本国からの命令で帰国しました。そのため稽古のスケジュールが半分ほどになってしまったんです。 

 原発事故は稽古の過程と切り離せない出来事で、この作品に原発事故からのインスピレーションが加わることになりました。日本語で事故を語るのではなく、フランス語で語るのは、外側からの目線であることのひとつの提示です。原発の問題は『鉄腕アトム』の作品中でもずっと語られていましたが、今回の事故でリンクすることになってしまいました。

——香港の印象はいかがですか?

 TeZukAの香港版ポスターを見た時にも舞台上演中にも感じましたが、香港は手塚治虫との距離感が欧州やほかの国に比べて近い気がします。香港の街ではブリティッシュと中国が混じった、どこにもない、危なっかしい、でもどこか懐かしい空気を感じました。とにかく高層の建物が多くて、香港はそんなに人口が多いのか、人口に対して土地が少ないから高層なのだろうか、どうなのだろうか、と考えていました。建物の修理の際はどんな近代的な高層ビルでも足場は必ず竹で、竹への信頼度がものすごく高いんですね。時間があれば史跡「九龍城塞」に行きたかったです。

——今後の活動予定をお聞かせください

 僕の主演した映画『モテキ』が香港で3月15日から公開されると聞き、大変うれしく思っています=13面参照。日本国内では、7月14日から映画『苦役列車』、11月3日から映画『北のカナリアたち』(いずれも東映系にて全国ロードショー)、8月29日から舞台『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』(東京ほか)が控えています。香港の皆さんにもご覧いただけるチャンスがあれば、とてもうれしいです。


森山未來(もりやま みらい):兵庫県出身。5歳からダンスを始める。多数の舞台経験を重ねた後、ドラマや映画へと活躍の場を広げ、2004 年『世界の中心で、愛をさけぶ』でブルーリボン賞新人賞、日本アカデミー賞優秀助演男優賞、新人賞を受賞。俳優としての活動と並行して、近年は自身が主演するダンスライブの演出も手掛けている