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最新号の内容 -20170310 No:1474
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イスラエルとの技術同盟

 1月中旬、久しぶりにイスラエルを訪問した。日本の中小企業とイスラエル企業の資本提携、M&A、合弁企業の橋渡し役になることが主な目的であったが、相変わらず親日家が多いのにはびっくりした。           
(ICGインベストメント・マネジメント代表・沢井智裕)


 パートナーのヨハブの娘はドラえもんの大ファンであった。1年ぶりに会った8歳になる彼女の第一声は、日本語で「コンニチワ」であった。私はお返しに(?)ドラえもんの絵描き歌を歌って上げた。例の「マル書いて、チョン…」である。これには彼女も大喜び。特に彼女が特別な訳ではなく幼稚園や小学校でも普通に日本のアニメは流行っているそうだ。

 イスラエル=危険と勘違いしている人が多いが、実際には欧州・中東では一番「安全」な場所かもしれない。パレスチナとイスラエル人が居住する境目に防御壁が出来てから自爆テロは皆無になった。防御壁はパレスチナ人とユダヤ人の居住区の間の6割程度しか建造されていないが、あとの40%の部分には特殊レーダーや特別に訓練されたイスラエル軍が駐留しているため、猫の入る隙間もないそうだ。

 15年ぐらい前に最初にイスラエルを訪問した時は、ホテルや公共の建物ではピストルやライフルを手にしたガードマンや軍人が訪問者の手荷物を入念に検査していた。それから考えれば現在の「平和な状況」が嘘のように思える。ただイスラエルと周辺の中東諸国とは、それだけ技術力に差がついてしまったのだ。

 昨年来ユーロ圏では難民問題が噴出し、パリ、ロンドン、フランクフルトでは自爆テロによる脅威にさらされ、地元民は北アフリカや中東からの難民に対して敵意を抱くようになっている。ユーロ圏各国の首脳は毎月のように「テロ対策」の会議にイスラエル詣でを

するようになっているそうだ。イスラエルのテロ対策をみんな吸収しようと躍起になっている。テロ対策を怠れば、国民の安全保障を損ない政権転覆になり兼ねないからだ。


イスラエル企業を訪問

 滞在中、イスラエル企業を11社訪問した。現地にもう一人のイスラエル人パートナーが保有する「使節団受け入れチーム」が有り、代わりにアポを取っていてくれた。電子機器、ロボット、ナノテクノロジー、ソフトウエア、エンジニアリング、バイオ関連、クリーンエネルギーといった分野の企業を訪問したが、面白い会社も多かった。

 Eccopia(エコピア)というスタートアップカンパニーは2013年設立であるが、太陽光発電のソーラーパネルのロボットクリーニングに特化した会社である。同社の水を一切使用しないクリーニングは特許を保有し、業界におけるシェアは90%である。クリーニングをしていないソーラーパネルは、受け入れる太陽エネルギーの35%が無駄になると試算されている。主要マーケットはインドと中東で、インドだけでも225億ドルの市場規模が存在するそうだ。

 Nano Dimention(ナノ・ダイメンション)という会社は、PCB(プリント基板)の3Dプリント製造業者でいろんな素材を含むプリント基板を一度で全てプリントできる。また多重層にわたるプリント基板のコピーも一度で果たすことが出来る。この3Dプリンターは、現在イスラエルの軍事企業、米国の上位10位内に位置する軍事企業にも採用されている。毎年の予算の3分の2程度を研究・開発費として注ぎ込み、テクノロジーのアップに努めている。3D プリンターは1台20万米ドルで販売されている。現在のところは技術の流出を恐れて、貸し出しベースでビジネスが行われており、17年は50台の販売を見込んでいる。売上ベースでは1000万ドル程度となる。

 Polygon Robotics(ポリゴン・ロボティクス)社は比較的古いロボット製造の企業である。同社が目指しているのは①ロボットと人間の融合、②ソーシャルスキル(生活における様々な動きと人工的な感情ロボットの製造——である。取引先企業には米ボーイング社、GM、そしてNASA(米国航空宇宙局)、またイスラエルの軍事関連企業オービット・ラファエルと世界の大手企業が名を連ねる。先進国の高齢化社会を見据えて、介護・ホームロボットの生産にも注力している。

 ほんの一部を紹介しただけでもワクワクするスタートアップカンパニーが多かった。これらの企業が日本企業と結びつけば、新しい技術革新が生まれるかもしれないし、米国一辺倒のイスラエル企業にとっても新たな道が開拓出来る。

 今回訪問した中であるイスラエル企業のCEOが面白いことを聞いてきた。「あなたは日本のどこの出身ですか?」「大阪です」と答えると、「大阪は食べ物がうまい。小さな店のおいしいラーメンを紹介してもらいたい」と聞いて来られた。下町のラーメン屋はおいしいところはたくさんあるけど、なかなか地図でも説明しづらいので、道頓堀の「金龍ラーメン」を紹介しておいた。某上場企業のCEOに連れて行ってもらうと大喜びだった。

 下町のラーメン屋を紹介しただけで、あれだけ喜ばれたのは初めてだった。裏を返せばイスラエルには本当に親日家が多いということだ。パートナーのヨハブはいつも「日本とイスラエルは、どちらが米国の51番目の州で、どちらが52番目の州だろうか?」と冗談を言っているが実際、戦後レジームの脱却が出来ていない日本は本当に独立国家なのだろうか? しかしパートナー曰く、「51番目の州と52番目の州が組めば恐らくテクノロジーは間違いなく世界一である」。イスラエルのテルアビブ郊外には、ハイテク基地やイスラエルのシリコンバレーが点在している。そして主に米国の企業がイスラエルのスタートアップカンパニーを買収している。世界最高の技術を持つ企業がまだ小さい間に「青田刈り」するのである。最近になって中国資本も入り始めた。日本のプレゼンスはまだまだ低いが、お互いに技術立国を目指すならば、最強タッグを組まない手はない。

 

トム:トランプ氏の娘婿のジャレッド・クシュナー氏が、イチロー選手の所属するマーリンズを16億ドル程度で買収するらしいなあ。クシュナー氏がトランプ政権の影の実力者だそうな。ちょっと気になるのがトランプ氏の中東政策だよな。イスラエルが主張している首都はエルサレム。でも国連はそれを認めずテルアビブを首都としている。

ジェリー:パレスチナ人やイスラム諸国に対する配慮よね。でもエルサレムにはイスラエルの国会議事堂も、中央銀行も、首相官邸もあるんだから、事実上イスラエルの首都はエルサレムになるよね。 

トム:トランプ氏は面白いな。商都テルアビブにあるアメリカ大使館をエルサレムに移転させるということだから、イスラム諸国は大騒ぎになるぞ。

ジェリー:イスラエルが要請した訳ではなくて、勝手にトランプ氏の判断で大使館の移転を図っている訳でしょ? イスラエルにしたら「実行支配しているのだから放っておいてちょうだい」ということなのよ。

トム:なるほどね、イスラエルにしたら余計なお節介しないで、ということなんだな。

ジェリー:エルサレムの建物は全て外壁を特定の石で覆わなければならないのだけど、それもイスラエル政府が決めたことだからね。

トム:へ〜、家の外観も政府によって決められるのかあ。トランプ氏も移転ついでにホワイトハウスの外観も変えたらいいんだよ。スペードにハートに、ダイヤモンドにクローバーの模様ってか。

ジェリー:ハイ、ハイ。

 

【スタートアップ・カンパニー】  

 スタートアップの意味は新しいビジネスモデルを開発し、短時間での急成長と利益拡大を狙う人々の集団を指す。「スタートアップ」には必ずイノベーションが必要とされている。イノベーションとは物事の新結合、新機軸、新しい切り口、新しい捉え方、新しい活用法を創造する行為を指す。一般には新しい技術の発明と誤解されているが、それだけでなく新しいアイデアから社会的意義のある新たな価値を創造し、社会的に大きな変化をもたらす自発的な人・組織・社会の幅広い変革を意味する。ベンチャーと混同されやすいが、ベンチャーはベンチャービジネスの略であり、新技術や高度な知識を軸に、大企業では実施しにくい創造的・革新的な経営を展開する中小企業を指す場合が多い。

 

 筆者紹介

沢井智裕(さわい・ちひろ)
ICGインベストメントマネジメント(アジア)代表取締役

ユダヤ人パートナーと資産運用会社、ICGインベストメントマネジメントを共同経営。ユダヤ系を含め約2億米ドルの資産を運用する。2012年に中国本土でイスラエルのハイテク企業と共同出資でマルチメディア会社を設立。ユダヤ人コミュニティと緊密な関係を構築。著書に「世界金融危機でも本当のお金持ちが損をしなかった理由」等多数。
(URL:http://www.icg-advi sor.net/)

※このシリーズは月1回掲載します