香港メディア招聘 東日本大震災が発生してまもなく6年がたつ。今もなお福島、栃木、群馬、茨城、千葉の5県に関しては野菜・果物・牛乳・乳飲料・粉ミルクの輸出が規制されている。多くの問題と課題を強いられているなか、復興・再生に向けて取り組んでいる福島県では福島県・ふくしま地域産業6次化推進協議会主催による「香港メディア招聘事業」が10月25〜28日に行われ、本紙と香港紙『東方日報』、コラムニスト・日本酒利き酒師として活躍するメイ・ラム氏が招聘され、様々な場所を視察、取材してきた。3回シリーズでお届けする「福島視察リポート」。1回目はJA愛情館見学(農産物直売所)、米全量全袋検査施設を視察し、現状について報告する。
①全農福島愛情館
郡山市中心地に位置するJA全農福島が提供している野菜、果物、肉などの直営農産物直売所「全農福島愛情館」。2001年6月に開設されて以来、一日の平均客数は1000人を超え、2015年は年間で43万9000人、この数は2011年3月の震災以降2倍に大きく伸びている。
広大な県土には南北に阿武隈高地、奥羽山脈、越後山脈がそびえ立ち、豊かな自然にはぐくまれた環境のなかで野菜、米作りが行われている。同館のコンセプトは「お客様に笑顔と元気を届けるものだから自分の目と舌で選んでもらうこと」。特にこだわっているのは、生産者の顔が見える、安心・安全性だ。野菜などの商品の脇には、生産農家の写真、または名前が張られおり、毎日とれたての野菜を直売所にもってくる農家の皆さんの顔がはっきりと分かるようになっている。取材時には、旬の梨やぶどう、大根、キャベツなどを中心に、多くの種類の野菜が並んでいた。
震災前はプレハブだった建物は被災、2013年5月にリニューアルして、売り場を以前の倍の756平方メートルに拡大した。毎日生産農家自らが持ってくる野菜。その鮮度の高さ、そして徹底した残留農薬、微生物、放射性物質検査をすることで安心、安全を訴えている。同館の村田泰造・店長は「出荷前にしっかりと検査をしていることが安心につながっていると思う。以前は不安を訴える客も多かったが今はなくなった」と話す。ほぼ毎日買い物に来るという主婦(60代)は「今は不安はありません。放射線検査の結果も明確に出ているので、震災以前より安心して買い物ができるようになった。むしろ完全復興のためにも応援していきたいと思っている」。安心・安全対策を万全にすることで、信頼に繋がる努力を怠らない。 ②米の全量・全袋検査所
原発事故前は香港や台湾などに米を輸出しており、JA全農も30トンほどの輸出実績のある福島県産の米。こうしたなか、福島県内で収穫されるすべての玄米は現在、米全量全袋検査所で徹底した検査を行っている。福島での検査件数は年間1000万件以上、安全でおいしい米を全国各地に出荷している。視察に行った時は2016年度に収穫された米の検査を実施しているなかだったが、現在(2016年10月末)の時点で700万件の検査が終了、放射性物質は検出されず、すべて合格している。全量全袋検査で使用されているのは「ベルトコンベア式放射性セシウム濃度検査器」。厚生労働省が定めている「食品中の放射性セシウムスクリーニング法」により、食品衛生法に定める基準値100ベクレル/キログラムを確実に下回るものを迅速に判別する、最新検査器だ。このスクリーニング検査により、基準値である100ベクレル/キログラムを少しでも超える可能性があると判断された米袋は、さらに「ゲルマニウム半導体検出器」で詳細な検査をしていく。基準値である100ベクレル/キログラムを超えた場合は、隔離・保管をし、市場流通はしない。さらに出荷先からより詳細な検査結果を求められることもある場合、スクリーニング検査を合格した米であっても、分析機関にゲルマニウム半導体検出器による検査を依頼する場合があるという徹底したものだ。この機械は一台およそ2000万円、検査費用は1億円にものぼる。 アルス株式会社品質保証部施設環境課の我妻弘氏は「安全な米を食べていただきたく、一袋一袋丁寧に検査をしている。今では海外でも少しずつ理解を示してくれる国も出てきており徐々にだが、販売の促進の拡大につながっている。時間がかかっても信頼と安心を取り戻したい」と述べた。 2014年にはシンガポールへの農林水産物の輸入停止の緩和が合意、輸入が再開しているなか、香港では今もなお輸入規制されたままだ。今年8月に行われた国際食品見本市「フードエキスポ」の会場には山本有二・農林水産大臣が来港、林鄭月娥・政務長官と会談し日本食輸入規制緩和・撤廃を要請している。原発事故との闘いの道のりはまだ長い。
(このシリーズは月1回掲載します)
【楢橋里彩】フリーアナウンサー。NHK宇都宮放送局キャスター・ディレクターを経てフリーに。ラジオDJとして活動後07年に中国に渡りアナウンサーとして大連電視台に勤務。現在はイベントなどのMC、企業トレーナー、執筆活動と幅広く活躍中。 |
|
|