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IFRS第9号「金融商品」(分類および測定、減損)
の基礎

 


 2014年7月24日、国際会計基準審議会(IASB)は、国際財務報告基準(IFRS)第9号「金融商品」の改訂を行い、IFRS第9号の完全版を発行しました。これは一連の金融危機後に、既存の会計基準では金融資産の信用損失の認識が遅れる可能性があるという懸念に対応するものであり、新たな減損モデルを導入して、現行の分類および測定ガイダンスを修正するものです。近年日本では企業のグローバル展開に伴いIFRSを導入する企業が増えており、また多くの香港の企業においてはIFRSとほぼ同一の基準である香港財務報告基準(HKFRS)が使用されています。当該新減損モデルはこれまでのモデルを大きく変更するものとなっており、香港における日系企業においても今後重要になってくると考えられます。本稿では、当該IFRS第9号「金融商品」(分類および測定、減損)の基礎について、解説していきます。
(デロイト・トウシュ・トーマツ香港事務所 藤田康之)

 

⑴分類および測定について 

 2009年に発行されたIFRS第9号の初版では、金融資産に関する新分類および測定モデルを導入しましたが、2014年改訂では、保険会社などを含む多くの関係者からのコメントを踏まえ、追加的な分類および測定区分であるFVTOCIを導入し、またガイダンスを明確化する事としました。

①金融資産は、その契約キャッシュフロー特性と事業モデルに基づき、原則として以下のいずれかに分類されます。

・償却原価
・FVTOCI(=Fair Value throughOCI)…その他の包括利益(OCI)を通じて公正価値で測定
・FVTPL(=Fair Value throughPL)…純損益(PL)を通じて公正価値で測定

②契約キャッシュフロー特性は、金融資産からのキャッシュフローについて元本および利息から構成されるか否かで評価します。当該キャッシュフロー特性を満たす金融資産は、次に事業モデルが検討されますが、当該キャッシュフロー特性を満たさない金融資産はFVTPLに分類されます。

③事業モデルは、企業がその金融資産からのキャッシュフローを回収によって得るのか、回収と売却によって得るのかで評価します。回収を目的とする事業モデルの場合は償却原価に分類しますが、回収や売却をするために資産を保有する事を目的とする事業モデルの場合はFVTOCIに分類します。上記いずれにも該当しない場合はFVTPLに分類します。

 当該事業モデルの評価にあたっては、非金融機関においてはその保有する金融資産は売掛債権、銀行預金などに限られてくるものと考えられますが、金融商品を広範に扱う金融機関などにおいては、その金融資産の範囲は非常に広く、事業モデルの理解とその検討に多くの時間がかかるものと考えられます。

 

⑵新しい減損モデルについて

 新しい減損モデルは、現行のIAS第39号が基礎としている損失事象の発生に基づく発生損失モデルではなく、将来に関する情報を考慮した予想信用損失モデルを基礎とするものとなっています。また新モデルは償却原価金融資産、FVTOCI金融資産のみならず、特定のローンコミットメント、金融保証、リース債権、ならびに売掛債権などの契約資産に適用されます。

①予想信用損失の認識…予想信用損失は、金融商品の信用リスクの変化に応じて認識されます。企業は報告日において、金融商品の信用リスクが当初認識よりも著しく増加していない場合は、12カ月の予想信用損失を測定します。報告日において、金融商品の信用リスクが当初認識よりも著しく増加している場合は、残余期間における予想信用損失が測定されます。

 なお、IFRS第9号では、当該信用リスクの著しい増加の評価については、予想信用損失額の変動ではなくデフォルトリスクの変動を使用すべきとし、それはまた過度なコストや労力を掛けずに利用可能な合理的で裏付け可能な情報を考慮するものとしています。各企業における状況は様々であり、企業の判断が必要であると考えられます。

②予想信用損失の見積もり…予想信用損失を見積もるにあたっては、以下を反映する必要があります。

・可能性ある結果を評価した偏りのない発生確率で加重平均した金額
・貨幣の時間価値
・過度なコストや労力を掛けずに利用可能な合理的で裏付け可能な、過去の事象、現在の状況および将来の経済状況の予測 

IFRS第9号では、最も可能性の高い結果のみを基礎とした信用損失の見積もりは認められておらず、それぞれのデフォルト発生確率リスクで加重平均した信用損失の評価を含まなければなりません。

 

⑶開示について

 予想信用損失モデルの適用にあたっては、財務諸表利用者が将来キャッシュフローの金額、時期、不確実性に対する信用リスクの影響を理解するため、IFRS第7号「金融商品-開示」に追加された新たな規定によって、以下の開示が要求されています。

・信用リスク管理実務に関する情報と予想信用損失の測定と認識との関連(測定に用いられた方法、仮定、情報を含む)
・予想信用損失の定量的、定性的情報(予想信用損失の変動とその理由を含む)
・信用リスクエクスポージャーの情報

 

⑷適用日について

 2018年1月1日以降に開始する事業年度から適用され、早期適用が認められています。これは多くの香港の企業において採用されているHKFRS第9号とも同一です。

 

⑸終わりに

 上述したとおり、当該IFRS第9号「金融商品」の適用はまだ先ですが、当該基準の適用にあたっては、企業における各種方針の決定や内部データの十分な整備、場合によってはシステム変更が必要なケースも考えられます。影響が大きいと考えられる金融機関などにおいては早くから内部での検討が開始されている様です。香港における日系企業においても各社における分析や本社とのコミュニケーションを通じて、新たな減損モデルが与える影響の検討と評価またその対応を早期に開始される事が望まれるものと考えます。

 

※本記事には私見も含まれており、筆者が勤務する会計事務所とは無関係です。
(このシリーズは月1回掲載します)

筆者紹介
藤田 康之(ふじた やすゆき)
Deloitte Touche Tohmatsu香港事務所 金融サービスインダストリー
2006年9月、監査法人トーマツ(現有限責任監査法人トーマツ)東京事務所に入所後、主として国内、外資系金融機関の監査業務に従事。2014年9月からデロイト香港事務所に出向し、主に日系金融機関などに対する監査業務などを提供している。
連絡先:yfujita@deloitte.com.hk
サイト:www.deloitte.com/cn