バックナンバー
|
|
シュタインバッハーさん、
香港フィルと初共演
バイオリニストのアラベラ・美歩・シュタインバッハーさんが7月3、4日、香港フィルのコンサートに出演した。1981年ミュンヘン生まれで、ドイツ人の父と日本人の母を持つ。3歳からバイオリンを始め、9歳でミュンヘン音楽学校で最年少の生徒となった。ロンドン交響楽団をはじめ、ニューヨーク・フィル、バイエルン放送交響楽団、NHK交響楽団、新日本フィルハーモニー交響楽団などの一流オーケストラとの共演も多く、マゼール、デュトワ、アシュケナージら第一級の指揮者と共にステージに立ってきた。そのシュタインバッハーさんに音楽や東日本大震災の被災地訪問への思いを語ってもらった。
(聞き手・綾部浩司/写真・www.arabella-steinbacher.comより/取材協力・香港フィル)
大切なのは楽しんで演奏すること
|
|
アラベラ・美歩・シュタインバッハーさん |
|
——バイオリニストになろうと思ったきっかけについて教えてください
音楽家だった両親が、私が3歳の時に「何に興味を持ってくれるだろうか?」と考え、そしてバイオリンは子供には良い楽器なので、バイオリンを手にすることとなりました。
——ドイツと日本の血をひくことについて何か特別な思いは?
日本は私の人生にとって大変重要な存在です。子供のころは毎年夏には日本の祖父母の家で過ごしました。今でも日本に到着すると、「やったぁー、日本に戻ってきた!」とワクワクしてしまいます。今回共演した指揮者の準メルクルさんとは何度も米国のオーケストラなどで演奏していますが、彼も私と同じくミュンヘンでドイツ人の父と日本人の母から生まれました。彼とは音楽を通じて何か共通点を感じるところがあります。それはお互いを尊重しあい、協調しあう日本人らしい部分です。ドイツ人としての私が、日本人の自分を見つめているから感じとれるのかもしれません。
——今回演奏したチャイコフスキーのバイオリン協奏曲について
ティーンエイジャーのころからこの曲は演奏していますが、とてもエレガントな曲だと思います。チャイコフスキーのバレエ音楽につながる優雅さ、といった部分が大好きです。この作品は非常に高い技術を要求される曲ですが、技巧的な部分を強調するというか、エンターテインメントをひけらかすような演奏は私は好みません。
——2011年12月に東日本大震災被災者を見舞うコンサートを岩手県の釜石市や吉里吉里の小学校の体育館や老人ホームで行いましたが、きっかけは?
ドイツのユニセフからの提案もあって私は東北でコンサートを開きました。大きなホールで演奏するのもよいのですが、家や家族を失った人たちが集っている所でコンサートを開く方が、より身近に音楽を聴いていただけるので、音楽から何かを受け取っていただければ、と思い演奏をしました。
私は被災された方々には物質的な援助は何もできませんし、音楽を聴いて一体何が変わるのか、と考えることもありましたが、私は音楽の力を信じています。あれほどの悲劇を目の当たりにした人たちが実に強く、そしてとても前向きだったのには心底驚きましたが、これこそが日本人の素晴らしい特徴ではないかと感じました。
——音楽家を目指す方にアドバイスをお願いします
練習をしすぎないことですね。練習をすること自体は大切ですが、練習ばかりしてほかの事に目を向けないことは、音楽を作る上でよくないと思います。例えば旅で見聞きした経験や音楽以外の事柄に目を向けることが、結果的により素晴らしい音楽を作りあげることになるからです。音楽はあらゆるものが込められて出来上がるものですから、音楽以外の時間を持つということは非常に大切なのです。また重要なのは、楽しんで演奏をすること。音楽とは楽しいことだと思い続けることも大事です。
私の場合も、時々バイオリンを全く弾かない期間をつくっています。自分自身がリフレッシュ出来ますし、そしてまた楽しく演奏することができます。しかし、バイオリンを弾かなくても片時も音楽を忘れることはありませんね。
——初共演となった香港フィルの印象をお聞かせください
世界各地からメンバーが集まっているオーケストラなので、それぞれの国々のフィーリングというか文化の違いなどが、とてもバランスよく相まってとてもいいオーケストラだと思います。そして音楽を作り上げる上での反応が非常に敏感だな、と感じました。
〜演奏会後記〜
筆者は今回、リハーサルとコンサートを拝聴したが、音楽を心の奥から丁寧に奏でている演奏家だな、と強く感じた。インタビュー終了後、「これね、帝釈天で買ったの!」と、携帯電話のストラップを見せてくれたが、彼女の日本に対する並々ならない思いの強さが実に魅力的で印象的だった。なおドキュメンタリー『希望の音楽~アラベラ・美歩・シュタインバッハー』は制作会社による公式ハイライト集で試聴が可能だ。被災地を訪れ活動したシュタインバッハーさんの姿をぜひご覧いただきたい。
https://www.youtube.com/watch?v=FLSHvNVYPcc